原子力学会春の年会仮想参加その2-発表内容の説明等

 2020年原子力学会・春の年会は中止になった。

 春の年会は新型コロナウイルスの影響で大規模な集会は控えるように、との国の要請を忖度した結果である。
 その1に続いて、春の年会に参加したと仮想して、予稿集から学会で興味があった内容についての内容等の説明をしてみる。

 期間は2020年の3/16(月)~3/18(水)の3日間で、福島大学で開催される予定であった。
 今回は福島事故関連がデブリとか原発内のものが多く、環境に関連したものが少なかったように思う。
 今回もプログラムや予稿集を見て、仮想聴講計画を立てた。
 聴講スケジュールは以下の通りとした。

3/16(月) AM1  AM2    PM1    PM2      PM3      
   F医学応用       G福島農業 F医学応用    F環境放射能  
   N放射線の医学利用         J社会調査    Jコミュニケーション
3/17(火)
   F環境放射能      K学会倫理 N光子計測    E福島県教育
3/18(水)
   N医療応用       I福島復興  F放射能測定   -
   F放射能測定 J核セキュリティ
 AM1は9:30-10:45くらいにある発表、AM2は10:45-12:00くらいにある発表、PM1は13:00-14:30にある特別セッション、PM2は14:45-16:00くらいにある発表、PM3は16:00-17:30 くらいにある発表時間帯である。

 各テーマについて整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 第二には、私が研究している核変換技術の情報収集と共同研究グループとの連携の検討である。
 第三には、教育、といっても私の研究の後継者探しという面が強い。
 第四に興味があるものの聴講、今回の場合は放射線治療である。
その他として、トピックス的なものもミーハー的に仮想聴講した。

  以下に仮想聴講順にメモ程度に書き留めていく。

 長々と見たくない人は各ブログの末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。
 ただ今は新型コロナウイルスの影響でシンポジウム関係がほぼ中止なので、このブログもあまり詰め込まずにシリーズ的に順番に書いていく。
 思いつくままに書いていくので、いつこのシリーズが終わるかは不明である。

 第1日目の午前の聴講内容は(その1)に書いた。
 今回(その2)は第1日午後からである。

 第1日目の午後の最初は理事会セッションの「原子力災害による福島農業の現状と課題」がテーマのG会場に仮想聴講した。

 1G_PL01から1G_04で福島における農業についての報告と議論である。
今回福島大学で行われた学会の目玉企画となるはずではなかったかと思う。
1G_PL01は「(1)農用地における放射能汚染対策とその成果」というタイトルで、福島大学の申氏が説明した。
福島県での被害はまず東日本大震災によるものがあり、続いて福島原発事故があった。
つまり二重の災害を被った。
まず前者の地震で農地、堤防、排水ポンプ場や水路等約4,300箇所で被害を受け、農地・農業用施設だけで、被害額は約2,300億円になった。
続いて、原発事故で放射性物質が多かった地域は避難を余儀なくされた。
9年が経って、農地における復興状況と課題について説明する。
令和2年1月現在、まだ一部の地域の避難指示は出ていないが、農業水利等の復旧工事や住宅、農地、森林(居住区)等の除染が行われており、平成30年3月時点での農地除染は31、061haになった。
農業においては、カリウム施肥によって、米の中へのセシウム移行が抑制されることがわかったので、この方法の採用によって、平成26年には米の約1、110万袋の全袋検査で2袋検出されたが、平成27年以降は検出されていない。
復興は徐々に進んでいるが、避難先からの帰村による営農再開や地域コミュニティの再建、農林業の生産物の安全性確保、放射能汚染を巡る風評被害の克服がある、と説明した。
次に1G_PL02は「(2)原子力災害による被害から営農再開までー食の安全を確保するために」というタイトルで、福島大学の小山氏が発表した。
福島原発事故後9年が経って、米は毎年35万トン、約1千万袋を全量検査、米以外の果樹、野菜、畜産物等は毎年2万検体を超えるモニタリング検査を実施してきた。その結果、山菜、キノコを除く作物では基準値を超えるものはなくなった。これは農地の除染、カリウム施肥等の総合的な対策が行われてきた成果である。
事故当時、福島県産米は入口段階で安全を担保し、流通に乗る出口段階でさらに検査する方式をしてきた。
今流通段階でこの検査を全袋検査を見直すのは理にかなっているが、問題は業者等がこうした方式を知らないことであり、その啓発がカギになる、と説明した。

 1G_PL03では「(3)震災10年以降を見据えて-復興政策の課題」というタイトルで、福島県庁の橘氏が発表した。
 復興は着実に進んでいるが、4万人を超える県民が避難生活を継続しており、原発事故被災12市町村(富岡町、浪江町等)の住民の居住率は震災前の数%のところもある。
 農業でも全県では約90%回復したものの、上記の12市町村の営農再開面積は事故前の3割弱にとどまる。
 昨年12月に政府は「復興の基本方針」と「福島イノベーションコースト構想」を基軸とした産業の復興を示し、2021年から10年間の基本的な方向性が示された。
 事故被災12市町村の農地は帰還困難区域を除いては除染が完了し、官民合同支援チームが活動してきたが、農業者の営農再開は3割弱であり、構造的な担い手不足にも陥っている。
イノベーションコースト構想は廃炉、ロボット、エネルギー(太陽光)、医療関連、航空宇宙、農業が挙げられている。
 農業は最先端の技術を活用した大規模農業等を目指している。
 このイノベーションコースト構想を加速するためにもアカデミアの参入が求められている、と説明した。
 でもこのイノベーションコースト構想は何か違う気がする。
 こういうことをしても営農再開といかず、逆に農業廃業となる人が増えるように思う。
 ではお前は何か案があるのかと聞かれると、それも困ったことである。
 無茶を承知で言うならば、難民をごっそり受け入れ、例えばミャンマーで虐待されたロヒンギャを受け入れ、彼らに農業の新たな担い手になってもらうくらいしか思いつかない。
 1G_04は総合討論なので、ここで書くことは何もない。

 それ以外にも、この1G_PL1~1G_PL03の中で取り上げられなかったものとして、汚染水の問題がある。
 海洋放出が妥当、という結論は出ているものの、風評被害が怖い地元の漁業関係者は反対となり、膠着状態にある。
 私は東京湾、大阪湾、福島の3地域で同時試験放流を1か月くらい行ってみるとよいと思う。
 または汚染水を使った透明な容器の養殖場を作り、そこで海産物を養殖し、この海産物のトリチウム濃度を測定する。
 これらの養殖からトリチウム分析までをすべて公開する。
 または世界各地の原発近郊での放流等を考えてもよい。
 こうして、風評被害を抑え込む方策を実施してみればよいのではないかと思う。

 午後2番目はF会場「医学・生物学応用」のテーマで発表が行われていた。

 1F06は「低線量X 線照射による抗酸化機能の亢進が強制水泳誘導無動時間を抑制する」というタイトルで、岡山大学の首藤女史が発表した。
 福島原発事故で低線量放射線の健康影響が懸念されており、被ばくが精神的なストレスにどのような影響を及ぼすかを検討してきた。
 この検討のためにマウスを使った強制水泳試験(FST)による評価を行ってきた。
 このFSTはマウスにうつ病を誘発するのに広く使われている方法である。
 一方では低線量放射線はマウスの臓器中の活性酸素等による疾患を抑制することやアルファ線放出気体のラドン吸入により、FSTによるうつ病の症状緩和を報告してきた。
 今回はX線照射によるFST試験により、0.1~0.5Gy(筆者の1回の放射線治療の線量の4分の1、ただし、マウスと私の身体の大きさから見ると、マウスにとってかなり大きな線量)で脳中の酸化ストレスが軽減できた。

 このグループは岡山大学ということもあって、記憶のかなたを探ってみると、三朝温泉のラドンの効能を科学的に調べようとしていたのではないかと思う。
 三朝温泉はラドンを含んでおり、昔から有名な温泉である。
 マウスを使った試験も人間に対してはできない実験であるから、妥当なものである。
 しかし、発想が少し貧困なのではないかと思う。
 私であれば、アルファ線放出のラドンガス吸入により、マウスの内臓のラドン蓄積(ラドンは希ガスであるから、蓄積しない可能性はある。)とその臓器の発がん状況を調べる、等の実験を構想する。
 または、東大のアルファ線によるDNA細胞可視化のグループと組んで、ラドンガスによるマウス細胞の放射線損傷・修復の可視化等を考える。

 1F07では「マウス諸臓器における過酸化水素の産生量のラドン吸入時間依存性」というタイトルで、岡山大学の片岡氏が発表した。
 これは1F06の実験グループの発表で、上記ではX線を使った実験であり、この発表ではラドンガス吸入時のマウスの各臓器の中の過酸化水素H2O2の残存量を調べた実験結果である。
 ラドンガスを吸入したマウスは臓器中のSOD活性というH2O2分解に働く酵素を活性化することが今まで実験で分かっている。
 今回はラドンガス吸入による各臓器のSOD活性の働きを調べた。
 その結果、SOD活性が高い肝臓では、H2O2の量が少なく、SOD活性が機能していたが、SOD活性が低い脳等ではH2O2が残存する傾向が見られた。

 この結果は普通に考えられることと同じような気がする。
 肝臓は生体内の化学工場であり、毒性のあるアルコール派生のアルデヒド等を分解する役割を持つ。
 したがって、H2O2等の活性酸素に関係する毒素も分解する能力を持っていると思われる。

 1F08では「原発事故後の放射線じわじわひばくのリスク評価」というタイトルで、KEK(高エネルギー研)の川合氏が発表した。
 放射線医学に関する世界的な権威機関のICRPは広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果から、100mSvあたりの発がんリスクは0.5%と評価している。
 しかし川合氏は2015年のノーベル化学賞のDNA修復機能を考慮すると、上記のICRPのリスク評価よりずっと小さく0.025%と評価した。
 2015年のノーベル化学賞は遺伝子の修復機能に関するもので、紫外線や食品添加物等によりDNAが損傷してもそれを修復する機能が身体の中に備わっている、というものである。

R2-4-6 R2 その2 放射線によるがん発生 川合氏.jpg
         図1 DNAの放射線損傷の様子

 この理論を応用したもので、あくまでも机上計算によるもので、実証的なものではない。
 またICRPは放射線による人体の危険性の大枠を示したもので、正確かと問われると、正確というよりも、より安全側に評価したものといえるものである。
 だからICRPの数値より危険度が少ないという結果は素直に賛成できないものがある。
 ただ、私の放射能消滅に関するダブルガンマ線理論も机上計算によるものだけなので、その点では同じものかもしれない。

 次は同じF会場で「環境放射能・線量評価」のテーマで、発表が行われた。

 1F09では「DGT によるCs-137 の置換活性成分サンプリング (3)DGTデバイスの福島森林土壌への適用結果」というタイトルで、東大の福岡氏が発表した。
 福島原発事故により放出されたCs-137の内、大部分の居住地域の除染は完了しているものの、森林環境は手つかずの状態である。
 森林でのCs-137の状況を評価することが重要となる。
 森林土壌にDGTという微量成分のサンプリング装置を用いて、土壌中のCs-137の濃度を調べた。
 その結果、土壌試料に含まれるCs-137濃度は深度で指数関数的に減少する、という結果が得られた、と説明した。

 森林土壌については、おそらく平地の土壌と同じような状況だろうと予測していたが、その通りの結果である。
 森林の樹木に関する研究ではないので、あまり参考にはならない。

 1F10では「山林土壌における放射性セシウム局所水平分布の検討」というタイトルで、産総研の小川氏が発表した。
 この研究も1F09と同じく、森林土壌に関するものであり、違う点は簡易放射能深度分布計というため池の底の放射能濃度を測定する装置を森林土壌に適用しただけである。
 結果は示されていないので、おそらく当日会場で結果発表しようとしたのであろう。

 1F11では「旧・現避難指示区域の住家内における放射性物質の分布状況の経時変化」というタイトルで、東北大学の吉田女史が発表した。
 この吉田女史はずっと福島の住居内の放射能を調査してきており、今回もその調査の一環の発表のようであった。
 避難指示区域の解除及び特定復興再生拠点区域の認定にともない、帰還・居住する住民の増加が予想され、住民がもっとも長い時間を過ごす自宅内の身近にある屋内汚染の状況を把握することは重要である。
 これまでの調査により屋内放射能Cs の表面汚染密度は福島第一原発からの距離に反比例の関係にあり、表面汚染密度、ハウスダストやエアロゾル等の調査を行ってきた。
 今回の報告では、飯館村ほかでの住家内における放射性物質の分布状況の経時変化について報告する。
 飯館村他の住家48軒について調査し、屋内表面汚染密度は前回2012~2014年と同じく、検出限界以下であった。
 飯館村では調査住家34軒のうち、25軒が帰還・居住しており、住民は田畑で農作業等を行っている。
 今回の結果は、農作業等に伴う住家内への土の入り込みや持ち込みはないことを示すと考えられる、と説明した。

 つまり通常の生活を行い、住家内でも放射能の影響はないことを示す結果であり、何でもないことのようだが、こういうことが一番必要なことではないかと思う。
 マスコミもこうしたことの重要性を認識して、これを広く伝えることが必要ではないかと思う。

 1F12では「ICRP 2007年勧告に基づく内部被ばく線量評価コードの開発:コードβ版の開発」というタイトルで、JAEAの真辺氏が発表した。
 ICRP2007年勧告は通常ICRP Pub.103のように呼ばれる。
 発行資料の名前で、その時の勧告を示すことが多い。
 私の記憶にあるのはICRP Pub.9、Pub27で、前者でALARA(被ばくを合理的にできるだけ低く)、後者で確定的な影響(やけど等)や確率的な影響(がん等)等の用語が出てきたように思う。
 このようにICRPはある程度の知見が進むと、それまでの見方を見直し、〇〇年勧告というように、放射線管理体系の大幅な見直しを行い、世界各国の原子力関係者はこの勧告の国内法制への取入れを行うのが通例となっている。
 1990年のPub.60では利益と不利益の考え方をはっきりさせた。
 利益は原発の発電による利益、不利益は放射線による被ばくでの健康影響である。

 2007年のPub.103はまた大幅な改訂のようであるが、あまり関心を持っていなかったので、原子力百科事典ATOMICAで見てみた。
 しかしよくわからなかった。
 おそらく線量体系の厳密化というようなことだったのでは、と推測する。
 そういう観点で上記の発表タイトルを見ると納得できる。
 この発表の最後に、本研究は、原子力規制委員会「平成31 年度放射線安全規制研究戦略的推進事業費(内部被ばく線量評価コードの開発に関する研究)事業」により得られた成果の一部である、と書いてあった。
 この開発したコードは令和2年に専門家の評価を受け、令和3年以降に公開されるようである。

 1F13では「低エネルギーX 線被ばく線量評価法の開発」というタイトルで、量研機構(QST)の伊豆本女史が発表した。
 50 keV 程度までの低エネルギーX 線は工業製品の非破壊検査や環境試料・美術品等のX 線分析などに広く活用されている。
 これらのX 線発生装置で、誤ってX 線が漏えいすると、作業者がX 線に被ばくする恐れがある。
 しかし、このような低エネルギーX 線による被ばくに対する線量評価は容易ではない。
 そこで、ここではX 線発生装置から放出される低エネルギーX 線による被ばく線量評価法の確立を目指した。
 低線量評価のために、ガフクロミックフィルムという特殊なフィルムを用いて、皮膚線量の評価が可能になった、と説明した。
 原子力の世界で、通常使われるのはCs-137の662keVのように大きなエネルギーを扱うことが多い。
 汚染水としてのトリチウムは18.6keVのベータ線を出すが、被ばくとしては大きなものではない。
 ここでのX線も50keV以下と低いもので、通常はあまり考慮されない。
 でも逆に考えると、データもあまりないということで、こういう研究も積み重ねていくことで、低線量の被ばくでの安全性に寄与できるのかもしれない。

 上記のF会場と同時並行で、J会場「社会調査」のテーマで発表が行われていた。

 1J06では「日本における原子力利用の継続性に関する試論- 立地因子への対処 -」というタイトルで、千代田テクノルの青山氏が発表した。
 原子力利用は立地の問題、と言っているが、内容は何も踏み込んでいない。
 福島原発事故後に安全の厳格化を求める原子力規制委員会ができたこと、温暖化には原発が必要等、の当り前のことを述べているだけである。

 1J07では「原子力発電の社会的費用-リスク認知の影響-」というタイトルで、東大の木原氏が発表した。
 ここでは、原子力利用に関する世論調査のデータを用いることにより,原子力発電に対する国民のリスク認知を考慮に入れた社会的費用を算出した。
 リスク認知に関するHuhtalaらの原発の社会分析モデルに基づいて、原発事故の社会的な費用として、0.658円/kWhと算出した。
 これを泊原発に適用した場合には1,341億円必要となる、と説明した。
 ちょっとこの数値を筆者なりに検討してみる。
 例えば100万kWの原発があるとして、今電力料金を仮に20円/kWhとする。
 上記原発を1年間発電すると、100*1E4*24H*365*20=1700億円の料金が得られる。
 これを40年運転すると、約7兆円となる。
 だから100万kWの原発1基で約7兆円が料金として得られ、この値から燃料費等を差し引いて利益となる。
 電力がなぜ原子力にこだわるか、という答えの1つがここにある。

 1J08では「米欧アジアにおける原子力発電に対する世論の考察」というタイトルで、原子力安全システム研究所の大磯氏が発表した。
 各国の原子力発電に関する賛否の世論調査について述べる。
 米国では賛否が拮抗している。
 英国では賛成・中立合わせて70%を超える。
 ドイツは反対が過半数である。
 スイスは国民投票の結果、既存の原発は運転継続するが、新規は認めない。
 いずれ脱原発となる。
 フィンランドは40%前後で推移している。
 韓国は70%程度が賛成である。
 台湾は脱原子力を決めていたが、最近その世論がひっくり返った。
 しかし、地元の反対が根強く、原発推進が難しい状況にある。
 これらの状況であるが、脱原発の国も代替エネルギーの技術開発がなかなか進まない状況にある、と説明した。

 次は同じJ会場で「コミュニケーション」のテーマで、発表が行われていた。

 1J09では「INIS データベースにおける非市販資料フルテキスト提供の課題」というタイトルで、JAEA(原子力機構)の米澤氏が発表した。
 INISはIAEA(国際原子力機関)が主体となって構築しているデータベースで、原子力資料を提供している。
 筆者も会社員時代によく資料を取り寄せたことがある。
 しかし最近電子媒体の流行により、インターネット経由でのやり取りに支障が出ている。
 日本での文献情報約33,000件のうち、リンク切れ等でURLにアクセスできなかった事例が約6%であった。
 Web(インターネット)で提供される資料では、会議終了後にサイトが閉鎖され、アクセスできないことも多い。
 これを防ぐためにDOI(Digital Object Identifier)を付与して、URLが変更になってもアクセス可能な措置を取っている、との説明であった。

 筆者も最近Webサイト上で資料を探すことは多く、サイト閉鎖やURLがないことも経験している。
 今は仕事に関係しないので、すぐにあきらめてしまうが、これが会社員時代であると、仕事に支障が出るので、必死に探すか、INISの事務局に探して欲しい、と頼むような気がする。
 ファイルの電子化で一見便利になったようであるが、反面記録の保存という点では難しくなったかもしれない。

 1J10では「高レベル放射性廃棄物の地層処分問題の将来-中学生と実践する産婆術-」というタイトルで、東工大の澤田氏が発表した。
 2010年以降開催してきた『中学生サミット』において、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題について中学生同士の対話を促進してきた。
 対話形式でお互いの疑問や矛盾点等を発見しながら、相手が言いたくてもどう表現していいかわからないことを具体的な発言に結実させる手助けをする。
 これはソクラテスの問答法または産婆術の手法である。
 高レベル放射性廃棄物の最終処分問題について、これまでに8回の中学生サミットを開催してきた。
 その中では、参加した中学生が最終処分の賛否や方法を巡ってゼロベースから知識を習得し、参加者同士の対話の中でソクラテスの産婆術(問答法)を実践してきた。
 中学生の産婆術の実践により、最終処分問題の新展開の可能性が見えてきた、と説明した。

 筆者も何かの機会で、ソクラテスの産婆術のことを知った。
 皆が知っていると思うことを質問し、その答えからまたその根底にある考え方を次々に問い直す、という手法で当時の知識人たちを翻弄し、若者に「無知の知」を教えた。
 しかし、この手法が知識人の恨みを買い、若者を煽動したとして訴えられ、最期に毒をあおって死んだというような話だったと思う。
 澤田氏はこの産婆術を高レベル放射性廃棄物の地層処分の議論に応用したようである。
 若者に地層処分の「自分ごと」化するような考え方を教えるのは少し抵抗がある。
 あたかも「地層処分は善」というような前提で行っていないか、という疑問である。
 私も会社員時代は原子力の有効性を信じて、高レベル放射性廃棄物の地層処分にもある程度の理解はしていたつもりである。
 その技術的な側面等も理解しようとしてきた。
 しかし、退職して防災士になって、原子力防災だけでなく、一般防災にも知識の幅を広げてくると、だんだん自分が信じてきた地層処分の安全性に疑問を持つようになった。
 やはり一番は地震多発である。
 東日本大震災に限らず、日本は地震が多い。
 今は首都直下地震や南海トラフ巨大地震のことがある。
 火山も鹿児島湾の姶良(あいら)カルデラ等数万年前に噴火したことがある火山噴火は日本全体を覆う規模である。
 それにこの前の低頻度巨大災害シンポで指摘されていたことであるが、日本に2,000くらいあると言われる活断層の存在である。
 この活断層と地震との因果関係はまだよくわかっていないが、地震との因果関係を想定している学者は多いように見受けられる。
 それに去年の台風19号による洪水やその前に広島であった大規模な土砂災害である。
 これらの災害と地層処分の候補地との関連を考えると、日本国内で安全といえる地域はないのではないか、との私の意見である。
 サハラ砂漠のような砂漠か南極に処分するのが一番よいと言える。
 そうすると、国際的に自国で出した廃棄物は自国で処理、という国際的な取り決めや南極に関する条約等を見直す必要があり、それもやっかいな問題と思う。

R2-4-12 R1 科学的特性マップ.jpg
         図2 高レベル廃棄物の地層処分に係る科学的特性マップ(緑色部分が適地、海岸線が多い、津波が心配)

 1J011では「高レベル放射性廃棄物地層処分科学的特性マップの対話型説明会に基づく知見の整理と活用の考え方 (1)概要」というタイトルで、東京都市大の蛯沢氏が発表した。
 蛯沢氏は、高レベル放射性廃棄物地層処分科学的特性マップ(特性マップ)作成に係る資源エネルギー庁地層処分技術WG委員の一人として、県庁所在地での対話型全国説明会に参加し、市民の方がたに特性マップを説明すると共に、市民と議論を行った。
 2016年9月~2018年5月の間に、7市(岐阜/前橋/福岡/広島/高松/秋田/鳥取)の説明会があった。
 約60万年先のことを現行科学技術に基づき説明して納得できるか、である。
 蛯沢氏はアフリカのオクロ天然原子炉が200万年前のもので残っていること等を説明した、とのことであった。

 オクロ原子炉はアフリカにあり、アフリカでは地震や津波の心配がない。
 この前最終処分地が決まったフィンランドは北欧で、ここもやはり地震とは無縁の地のようである。
 そういうところと、日本のように地震・津波・台風や他の災害が多発する地域と比較するのは無理がある。

 1J012では「福島原子力事故からの復興に対する高校生による意見交換会」というタイトルで、JAEAの嘉成女史が発表した。
 福島第一原発事故からの復興状況及び課題を福島県の高校生が自分の目で確かめ、自らの意見を述べることは重要である。
 JAEAは県内の高校生を対象に施設見学を通して知見を広げ、福島原子力事故からの復興に対する県内高校生による意見交換会を開催した。
 意見交換会は施設見学と講義、全体討論とグループ討論で構成され、福島県内の4進学校から1、2年生19名と、サポート役として福島大学大学院の学生が3名参加した。
 施設見学では、東京電力廃炉資料館、中間貯蔵工事情報センター、特定廃棄物埋立処分施設、リプルンふくしまを訪問し、福島原発事故の概要、中間貯蔵施設と特定廃棄物埋立処分施設の違い及び除去土壌等の保管や埋立処分の現状について理解を深めた。
 (筆者注:リプルンふくしまとは環境省の特定廃棄物埋立情報館であり、筆者は今回の発表で初めて知った。)
 議論ではいくつかのテーマ「自宅の隣に処分場ができたら賛成か」「今回の事故で身体に影響は出たか」「今回の事故で子孫に影響は出ると思うか」等について議論した。
 最後に結論として、県外に福島の現状を発信したい、正しい知識を身につけたい、となったらしい。

 福島原発事故は不幸なことであったが、福島県民には幸いなことに放射線の影響は出ないし、子孫に与える影響もないことはわかる。
 広島・長崎の被爆、チェルノブイリ原発事故とでは、核燃料が飛散しなかったこと、事故後食物摂取制限がきちんと行われたこと、の2点で決定的な差異があったのである。
 このことで、身体内部に放射能が蓄積しなかったし、したがって放射能の影響は微量の外部被ばくのみであり、これらは除染と時間経過によりほとんど身体に影響ないレベルまで落ちている。
 残る心配は廃炉とトリチウム汚染水のみである。
 これは国、東電等に頑張ってもらうしかない。

 1J013では「福島復興に向けた地元住民と国内外の専門家によるICRP/JAEAダイアログミーティングの総括」というタイトルで、JAEAの佐藤氏が発表した。
 JAEAは福島の環境回復及び福島第一原発の廃止措置に係る研究開発を行ってきた。
 JAEAは地元住民とのコミュニケーションを通じてニーズの把握と研究の方向性を確認することを目的に、国際放射線防護委員会(以下、「ICRP」)と共同で3回のダイアログミーティングを開催した。
 2019年12月のダイアログミーティングを中心に、過去のミーティングから学んだ内容について報告した。
 本ミーティングは復興している地域や被災現場等見学、専門機関や地元の企業、地元住民等のこれまでの経験や取組に関する講演、様々な立場の方による意見交換会で構成されている。
 2019年12月に実施された際はテーマ「福島のダイアログの経験はどのように活かされたか?この先なにを望むか?」をもとに、11 人の参加者がそれぞれ意見を発表した。
 参加者がこれまでの活動を振り返り、広く経験を共有する機会が得られた、と説明した。

 筆者の感想では、確かに国際的な機関であるICRPの人が来日して福島の人と議論したという報道が何回かあったように記憶している。
 しかし、その結果がどうであったかというフォローアップみたいなものの記事は記憶がない。
 言いっぱなしで終わったのかな、と思っていた。
 学会で報告、というのはそぐわない気もするが、何もない、というのではさびしい気もするので、これくらいは許される範囲と思う。


 今回はここで終わりにする。

 最初の1G_PL01から1G_04で福島における農業についての報告と議論である。
 01は農業におけるカリウム施肥でお米は汚染なく作れるようになった。
 02では米1千万袋全量検査で米の非汚染を保証してきたが、これを見直すのが理に適うとしている。
 03はイノベーションコースト構想で、農業の大規模化等が示されているが、大学の参入等が求められている。

 1F06~1F09は「医学・生物学応用」のテーマである。
 1F06と1F07は岡山大学の三朝温泉のラドンの放射線的な観点から、微量の放射線は健康にいいというホルミシス効果をマウス実験で確認した、というものである。
 1F08は放射線でのDNA損傷の修復(回復)で、ICRPよりもずっと発がんリスクは小さくなるというものである。

 次は同じF会場で「環境放射能・線量評価」のテーマである。

 1F09 は福島の森林の放射能ということで若干期待があったが、土壌を測定、ということでこれはあまり役にたたない。
 平地との差異はないと私は考えているからである。
 1F10は1F09と違う機器で、やはり森林土壌の放射能の測定であった。
 1F11は飯館村での住家での放射能の測定を行い、放射能がほとんど検出されないことを説明した。
 東北大の吉田女史はずっとこの研究を続けている。
 こういう地味ながら、住民の帰還を促すような取組にマスコミは着目して欲しいと思う。
 1F012は内部被ばく線量の解析コードの開発であり、原子力規制委員会の委託によるものである。
 今年専門家のコメントを得て、来年公開されるようである。
 1F013は「低線量X線被ばく」に関するもので、X線50keV以下であり、トリチウムのベータ線18keVと比較して同等のレベルで、成果があったようである。

 J会場では「社会調査」のテーマで発表が行われた。
 1J06は原発立地に関するものであるが、ほとんど当たり前のことしか述べていない。
 1J07は原発のリスク費用を算出しており、0.658円/kWHで、電気料金で20円/kWHを払っている立場では3%に当たる。
 泊原発に適用すると1,341億円といっているが、計算方法がよくわからない。
 1J08は米欧アジアでの原発の賛否で米は拮抗、英国賛成、ドイツ反対、韓国賛成、とかなり色分けされているが、スイスのように原発はゆくゆく廃止、と台湾の原発反対がひっくり返る状況等さまざまである。

 次は同じJ会場では「コミュニケーション」のテーマで発表が行われた。
 1J09はINISデータベースに関するもので、資料の電子化で、サイト閉鎖等で資料入手しにくくなる状況がある、とのことである。
 1J10は高レベル廃棄物の地層処分を中学生に議論させた時に、ソクラテスの「無知の知」という産婆術(知識を深く掘り下げる手法)を使い、理解を進めたが、では解決は、となると疑わしい。
 地震や洪水の多い日本では無理と思う。
 1J11では1J10と同じく、高レベル廃棄物の地層処分で、科学的特性マップの説明で対象は大人である。
 60万年先のことを今納得できるか、で実際は難しいと思う。
 1J12では福島県の高校生の福島原発事故後の復興に関する議論であった。
「自宅の隣に処分場ができたら賛成か」、これは高レベル廃棄物の地層処分でなく、福島で発生した放射性廃棄物の最終処分場のことである。
福島県外に発信したい、とのことであった。
 1J13ではICRPと福島県民の議論であった。
 新聞ではICRPが来日して福島県でこうした議論を行うことが報道されるが、内容報道はないので、意義はあるが、今回の発表では内容はどうかわからない。

 以降も同じように、仮想聴講を行っていきたいと思う。

 次回は第2日目の仮想聴講からである。
  -以上-

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