放射線教育フォーラムの勉強会に参加

 放射線教育フォーラムの第1回勉強会(6/16(日))に参加した。

 今年の5月20日(月)に原子力学会から上記の勉強会の案内メールが届いた。
 すぐに申込をしたが、了承のメールは5月29日(水)に届いた。

 放射線教育に関しては、多少の思い入れがある。
 理科の教師になろうと思った時期もあった。
 大学の修士論文と並行して講義があった「教育心理」は出席していないと最後のテストが受けられない、とのことで、1科目不足で教員免許は取得できなかった。
 教育実習は東京都の中野区の中学校で行っていた。

 自分の子どもができた時に、自分の子どもの教師にはなれると思ったが、今度は出向が何度もあり、結局子どもの教師にもなれなかった。
 もちろん子どもの運動会や授業参観等には、会議予定がない時には極力年休を取って参加していたが、子どもへの教育という点ではできていなかったということになる。

 今は教育関連で何かできることはあるかといえば、この放射線教育フォーラムに関わることくらいである。
 30年くらい原子力業界にいたので、放射線に関することは一通り勉強してきた。
 第一種放射線取扱主任者の資格も取得している。

 福島原発事故を契機として、放射線教育の重要性が叫ばれるようになった。
 それまでは、広島・長崎の原爆、少し後にはチェルノブイリ原発事故があり、身近に起きたことも少しはあったが、少し距離を置いていたように思う。
 しかし、福島原発事故が起きて、その放射線の危険性とそれを防ぐ方法論等も議論すべき時なのであろうと思う。
 今、日本には稼働していないものも含めて約50基の原発がある。
 その安全性や危険性も含めて、どのように一般の人に理解してもらえるか、が問われている。

 一番理解しやすい年代として、広島・長崎の原爆やチェルノブイリ原発事故の知識のあまりない小中高生がいいのであろう。
 彼らに放射線、原発をどう理解してもらえるか、そのための教育はどのようにすればよいかは重要な観点である。

 6月16日(日)は曇りではなかったか。
 あまり暑い印象もなく、途中でペットボトルのお茶500mlを買っていったが、がぶがぶ飲んだ印象はない。
 受付に行くと、名前を確認して、資料代1,000円を払った。
 会場に入ると、荷物を置いてトイレに行った。
 ここは地下1階なので、地震があった時のことも一応想定しておいた。
 その後、線量計で会場の線量率を測っておいた。
 0.038μSv/hと比較的低い値であった。
 我が家で0.05μSv/h、築地駅で0.08μSv/h程度である。

 会場で一通り資料に目を通した。
 プログラムと講演要旨は末尾に添付する。

 講演1は「小中学校の国語・社会の教科書における『放射線』の記述」というタイトルで、福岡大学の林氏が講演した。
 検定用教科書は著作・編集、文科省検定、学校長の採択、製造供給、使用の流れまでおよそ4年かかる。
 現行の教科書では、小学校では原子力の記載は原子力発電と原爆投下のみで放射線の記載はない。
 次期改訂には上記の原発、原爆の記載もなくなる。

 現行の中学校の社会では原爆の投下のみである。
 次期改訂では原爆の投下と放射線について参考資料で記載がある。

 小学校の国語では原爆によって発生した放射線は恐ろしい、という印象を与えている。
 中学の社会でも福島原発事故で長期の生活不能や風評被害などがあることを説明している。
 国語や社会の先生に放射線に関する基礎知識を学習する機会を作るべきである、として講演を終了した。

 私は質問で、教科書は放射線のネガティブキャンペーンみたいな言葉ばかりが並んでうれしくない、この後の講演の放射線の工業利用や放射線治療等のポジティブキャンペーン等も必要ではないか、と聞いたら、そうできればよい、との回答だったように思う。

 講演2は「教職課程・理科教育法を担当して」というタイトルで、中央大学の村石氏が講演した。
 教員免許は4年生大学で中学・高校の一種免許状が取れるが、今は中学免許にはボランティア体験が必要であるので、中学理科の教員免許が一番取りにくい。
 大学で卒業に必要な単位は通常120単位くらいだが、中学・高校の免許では190単位くらい必要で、200単位を超えることもある。
 教員採用でも中学・高校両方の免許状所有を受験資格とするところもあるし、競合を避けるために同一試験日とする傾向がある。
 茨城県の2015年度新規採用者の、卒業後の平均年数が約5年で、その間は非常勤等でつないでいる。
 教育の変化として、教員免許は10年の有効期限が付いて、更新には2年間で30時間以上の免許状更新講習が必要になる。
 更新しないと免許状は失効する。
 学校教育の大きな変化として、特色ある教育、地元文化の継承等が求められている一方で、学校選択制が始まっている。
 福井県の教員は福井大学を出ていないとなれないと言われる。
 秋田県の県の鳥は何か、というのが秋田県の採用試験問題で出たりする。

 教員を目指す学生は理科について、理科実験室で白衣を着たことがあるのは約2割である。
 高校生の時に実験をやったことがない学生が4割強いる。
 理科教育を受けている学生で、物理のテキストはアプリやサイトがあるのか、ということを聞いてくる。
 自分で考えて作るという発想がない。
 生徒に何を教えるか、という観点で考えさせると、受験産業の講師と似た思考しかできない。

 大学進学率が50%以上の現状からすると、高校の学力保証ということも考えないといけないのではないか、ということで講演は終了した。

 休憩をはさんで、講演3では「生活科学としての放射線利用の学習― 農業や食の安全と食品照射 ―」というタイトルで、量研機構・高崎研の小林氏が講演した。
 平成27年度の放射線利用では工業利用51%(約2.2兆円)、医療・医学利用44%(約1.9兆円)、農業利用5%(約2千億円)である。
 利用の観点としては、物体を透過する、容易に検出できる、一点に集中してエネルギーを与える、荷電粒子線は電磁界で制御できることである。

 放射線の2つの利用法として、強い放射線(高線量)で殺菌や殺虫、弱い放射線で植物体内の挙動解明等に利用する。
 今日は食品照射について話す。
 食品照射は食品や農産物に放射線を照射して殺菌、殺虫、芽止めを行う技術である。
 加熱処理や化学薬剤の代替技術である。
 世界で実用化されているのは農産物の保存(芽止めや殺虫)、食品の衛生確保(食中毒防止)、植物検疫(病害虫の侵入防止)である。
 今日本で認められているのは芽止めのみで北海道のジャガイモのみである。

画像

         図1 放射線照射による芽止めの説明パンフレット

画像

         図2 放射線照射による芽止めの配置概要(中心に線源、周辺にジャガイモのかご)

 高崎研で高崎女子高校(スーパーサイエンスハイスクール)からの依頼で、イチゴにCo-60照射した例があるが、5日保存してもカビが出なかった。

 食品照射のデメリットはコストが高いことがある。
 ジャガイモの芽止めで約3円/kgであるが、殺菌目的だとその10倍以上かかる。
 食品によっては風味が変わってしまうことがある。
 (食肉の異臭や色合い変化、小麦粉の粘度低下等)
 放射線の負のイメージによる風評被害もある。
 日本の場合は原子力の平和利用のPRに使われている、という消費者団体の反発も大きな力を持っていた。
 欧米で食品照射利用が進むのに、日本は相変わらずジャガイモの芽止めのみであり、技術としてもったいない状態にある、として講演を終了した。

 私はここで、外来種の侵入防止のための手荷物殺菌、寿司等の生鮮食品の殺菌、放射線照射の代わりに真空乾燥を使うとどうなるか、等の質問項目はあったが、ちょっと発言を控えていたら、他の人の質問で終わってしまった。
 他の人の質問は覚えていない。

 講演4は「福島の過去に学び、現実を見つめ、未来を切り拓く コミュタン福島における放射線教育」というタイトルで、コミュタン福島の佐々木氏が講演した。
 まずコミュタン福島という名前が奇異に感じた。
 福島県三春町にある福島県環境創造センター交流棟の愛称らしいが、なかなかなじみがないであろう。

画像

         図3 コミュタン福島の概要
  
 佐々木氏はまず、配布資料の中の1枚を取り出した。
 「身の回りの物から出ている放射線を測ってみよう」というプリントで、5つの物を例示した。
 食塩、減塩、肥料、湯のはな、花こう岩である。
 この中で放射線の高い順に番号をふれ、という。
 私は花こう岩、肥料、湯のはな、減塩、食塩とした。
 花こう岩の中にはトリウムやカリウム等の自然放射線核種が含まれているし、湯のはなもラジウム温泉等があると思っていた。
 肥料の中にはもちろん天然放射性核種のカリウムK-40が普通のカリウムの中に0.2%含まれている。
 しかし会場で検出器で測定して、湯のはな、減塩、花こう岩、肥料、食塩の順であった。
 これには会場からクレームがついていた。
 条件によっていくらでも変わり得るからである。
 ただし、佐々木氏が言いたかったのはこうした日常のありふれた食品の中にも放射能を含んでいることを来場者(ここでは参加者)などに示したかったからであろうと思う。
 この他、内部被ばく検査でホールボディカウンター(WBC)で体内から出てくる放射線(ガンマ線)を測定する機器、食品検査で使用されているNaI検出器やGe半導体検出器を紹介した。
 放射線出前授業も行った。
 郡山六中で、中1にコミュタン福島、中2にJAEA(原子力機構)、中3に国立環境研究所の3機関で行ったことがある。
 コミュタン福島の展望として、生徒に「知る」(施設見学)、「深める」(体験・研修)、「探る」(探求活動)を行って欲しい。
 放射線の学びの連続性を育てていきたいということで講演は終了した。

 私は質問で、WBCで福島県だけでなく、全国の人の測定(生年が1960年以前の人であれば、中国の核実験のフォールアウトのセシウム等が検出できる、私の体も大学でのWBCでセシウムと自然放射性核種のカリウムK-40を検出した。)や今日説明した食塩、減塩、湯のはな、肥料、花こう岩などの物品もWBCで測って、物品指紋、人間指紋のようにサンプルを集めてみてはどうか、といった。
 面白いかもしれない、とのことだった。

 以上でこの勉強会は終わった。

 今回は教科書に書いてある放射線の記述のネガティブさ、これから教師となる人の放射線などへの知識理解や資質、食品照射が日本で進まない現実、福島での放射線教育の取組等面白い話題が多かった。

 今後もこの放射線教育フォーラムの勉強会に参加して、放射線教育に対してどういう貢献ができるか考えていきたいと思う。


<放射線教育フォーラム 第1回勉強会>
 1.日時:2019年(令和元年)6月16日(日) 13:00~17:30
 2.会場:東京慈恵会医科大学 高木2号館南講堂(千代田線虎ノ門駅徒歩5分)
 3.主催:NPO法人放射線教育フォーラム
 4.共催:東京慈恵会医科大学 アイソトープ実験研究施設 
 5.資料代:1,000円(教師は無料)
 6.プログラム
  13:00開会挨拶    放射線教育フォーラム理事長       長谷川 圀彦
  13:10 講演1「小中学校の国語・社会の教科書における『放射線』の記述
            福岡大学理学部物理科学科 准教授 林 壮一
  14:00 講演2「教職課程・理科教育法を担当して」
            中央大学理工学部 特任教授 村石 幸正
  休憩(20分)

  15:00 講演3「生活科学としての放射線利用の学習― 農業や食の安全と食品照射 ―」
            量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所 小林 泰彦
  16:00 講演4「福島の過去に学び、現実を見つめ、未来を切り拓く コミュタン福島における放射線教育」   
             コミュタン福島 教育ディレクター 佐々木 清
  17:00 閉会挨拶

 7.講演要旨
  講演1「小中学校の国語・社会の教科書における『放射線』の記述」林 壮一
 平成24年(2012年)施行の現行学習指導要領から、中学校の理科で放射線についての学習が行われるよう変更されている。
 ところが、中学校の理科で放射線を学習する段階での子ども達は放射線に対して「危険だ」、「怖い」などの印象を持っている。
 そこで、現行の小学校や中学校の教科書を調べたところ、国語科や社会科の多くの教科書で、原子爆弾や原子力発電所の事故による放射線が悲惨で怖いものであると紹介していることがわかった。
 子ども達の印象に、このような記述が影響していることについて報告する。

  講演2「教職課程・理科教育法を担当して」村石 幸正
 教職課程の科目である、教職概論(教職の基礎)、理科教育法、理科教育の指導法、教育相談と進路指導、教職実践演習を担当している。
 中・高の理科教員の育成という立場から見てみると、大学入試を目指して小学校高学年の頃から受験問題を解くことを目的とした勉強をしてきた経験と教員とは何をする職業かという根本的な部分でのすれ違いを感じることがある。
 このようなことを中心に報告する。

  講演3「生活科学としての放射線利用の学習― 農業や食の安全と食品照射 ―」小林泰彦
 日本では以前から作物の品種改良やジャガイモの芽止めに放射線が用いられてきた。
 香辛料・ハーブ類や乾燥食品素材の照射殺菌も多くの国で実用化され、食の安全に役立っている。
 特に最近、海外の植物検疫では、非加熱で品質劣化が少なく環境汚染につながる薬剤も使わない照射処理が急増している。
 今回は、安全で豊かな食生活と環境負荷の低減を両立させて持続可能な社会への変革を目指す実践的総合科学:生活科学の観点から放射線利用について考えてみたい。

  講演4「福島の過去に学び、現実を見つめ、未来を切り拓く コミュタン福島における放射線教育」佐々木 清
 福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)は、開館して3年を経過しようとしており、これまで約26万人の方々に来館していただいている。
 講演では、コミュタン福島の展示見学施設の中で、特に放射線に関する展示を中心に紹介する。
 また、コミュタン福島において、小中学校を対象に開発・実践してきた放射線に関する体験型研修を、実際に体験していただきながら、教材なども紹介する。
 さらに、放射線関係諸機関とコミュタン福島が連携した出前授業など、小中学校の放射線教育への支援活動についても紹介する。
  -以上-

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック