環境工学シンポに参加
環境工学シンポ(5/22(火))に参加した。
環境工学シンポの案内は学術会議HP上でかなり前から表示があった。
というより、昨年日本学術会議の会長が代わってから、シンポジウムの案内が少なくて、環境工学シンポの案内が非常に目立っていた。
私は4月12日に参加申し込みメールを送っている。
でも受理通知は4月28日に届いた。16日間の空白期間があった。
開催日の前日にもう一度案内のポスターを読んでみると、資料は事前申し込みで2,000円とあったが、申し込んでいなかった。
行く途中で、ペットボトル500mL1本、昼ご飯のおにぎり、新聞を買った。
当日会場に行って資料の申し込みをしていなかったが、というと、ちょっと離れたコーナーで資料を販売していた。
最初のあいさつで京大名誉教授の嘉門氏がこのシンポジウムの経緯を説明した。
このシンポジウム1986年のチェルノブイリ原発事故が起こった年に始まり、今回で31回目となる。
(息子の生まれた年でもある。)
1回飛んでいるのは2011年の東日本大震災と福島原発事故のためで、それ以外は続けている。
8つの幹事学会が交替で担当しており、今回は水資源学会が担当している。
このシンポジウムは国連のSDG’s(エスディージーズ:17項目の持続可能な開発目標、貧困をなくす、技術革新等広範囲な項目がある)にも関連している、とのことであった。
このことは今年5月29日の日本学術会議のHPにも解説が出ている。URLは以下の通りである。
http://www.scj.go.jp/ja/scj/sdgs/index.html
私も最近の貧富の格差に注目し始めた辺りから、このSDG’sに注目している。
この17項目のうち、このシンポジウムでは
3.健康と福祉
6.安全な水とトイレ
7. クリーンエネルギー
9.技術革新
11.まちづくり
12.つくる責任
13.気候変動
14.海の豊かさを守る
15.陸の豊かさも守る
の9項目に関連している、とのことであった。
また今回の統一テーマとして、「レギュラトリーサイエンスと環境工学」という副題が付いていた。
何かよくわからないけど、福島原発事故の報告が2,3件あるからいいか、と思って申し込んだが、この「レギュラトリーサイエンス」とは何かよくわからなかった。
後で調べてみると、「レギュラトリーサイエンス」とは調整科学、一番理解できるのは高圧ガスボンベの減圧器(レギュレータ)は高圧そのままでは利用できないので、それを使えるように調整する、ということが近いかもしれない。
調べてみると、一例として人工心臓のガイドラインを作ると人工心臓の性能評価ができる。
だから、このガイドライン作りがレギュラトリーサイエンスにあたるようであった。
A-01は「坑廃水処理の現状とJOGMECが取り組む自然力活用型坑廃水処理の調査研究」というタイトルで、資源・素材学会の濱井氏が講演した。
JOGMEC(石油天然ガス・鉱物資源機構)という名前自体がよくわからないのに説明がなかった。
資料の隅にちょっと略号の説明があった。
要するに、昔5,000くらいあった鉱山が今は廃鉱となっているが、これらの廃鉱から漏れ出してくる鉄、銅、亜鉛等をイタイイタイ病のCdみたいに害を及ぼさないために消石灰等を用いた廃水処理を行う。
この費用が年間約30億円とコストがかかるが、利益を出さないために地方自治体等の大きな負担である。
これを微生物の代謝等を使って安く処理できるというもののようであった。
A-02は「福島県の農業環境における放射性セシウムと内部被ばく線量」というタイトルで日本土壌肥料学会の塚田氏が講演した。
帰還困難区域の大熊町では米に若干の放射能が検出されたが、他の地域ではセシウムの影響はなかった。
目新しいこととして、Sr-90に着目していたことであり、このSr-90はカルシウムと同族で骨に沈着しやすいものである。
Ge検出器で検出できないβ核種なので、ガスフローカウンタを使って調べ、Sr-90は1960年代の大気核実験の濃度と同じであり、福島原発事故の影響はないことを確認していた。
内部被ばくについても、目安とした年間1mSvに対して、2013年には0.016mSvと低い値であった。
私はタケノコやイノシシについてはどうか、と聞くと、これらについてはまだ若干検出されるようである、との回答があった。
A-03は「建築物における室内空気環境の現状と課題」というタイトルで空気調和・衛生工学会の鍵氏が講演した。
省エネのために法改正があった時に温度等が若干不適になる程度で大きな問題はないようだったが、湿度の制御に関しては問題が少しあるようだった。
A-04は「大気環境中の化学反応によって生成する有害化学物質」というタイトルで日本分析化学会の亀田氏が講演した。
ディーゼル車や工場から出る多環芳香族炭化水素(PAH:ベンゼン環がいっぱいくっついた化合物)が従来は問題であった。
最近は中国の黄砂由来のPAHが結構問題としてあるらしい。
PAHの一種のピレンというのがあり、このピレンのニトロ化したピレンは発がん性があるらしい。
石川県輪島で観測したこれらの物質は黄砂飛来時に3倍くらい増加する、とのことであった。
北京のスモッグは工場群から出る排ガスの捕集性能が悪い(高度成長期の日本の公害に相当、おそらく捕集コストの手抜きではないかと思う)のはある種自業自得の部分があるが、黄砂に乗って日本にまで悪影響を及ぼすとなると対岸の火事と言っていられない事態である。
これらの黄砂による問題は外交問題というレベルではないのかもしれないが、中国という国はなかなか一筋縄ではいかない国という印象がより強くなった気がする。
私は質問で、ニトロ化したピレンを元の発がん性のないピレンに戻す方法を研究しないのか聞いたが、する気はないようであった。
A-05は「建築環境における感染症のリスクとその制御方法」というタイトルで、日本建築学会の柳氏が講演した。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件を契機に、世界中で、放射性物質(Radiological)、生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)、核(Nuclear)によるテロに対する危惧が高まっている。
柳氏はこの中で生物剤という視点で、感染症の予防に関して説明した。
感染経路として、空気感染・飛沫感染、接触感染、経口感染、昆虫媒介感染、人畜共通感染がある。
空気感染・飛沫感染の例としてはインフルエンザなどがある。
最近流行しているはしかも入るのであろう。
接触感染としてはMRSAやダニ等がある。
経口感染ということでは病原体に汚染された食物・飲料水等で感染するもので、サルモネラ菌、赤痢菌、コレラ菌等である。
昆虫媒介感染はカやハエ等の接触によって起きるもので、日本脳炎、ペスト菌、マラリア等がある。
人畜共通感染は本来動物だけに感染するものが接触や肉摂取等で起こされるもので炭疽菌等がある。
ひょっとしたら鳥インフルエンザやBSE等もあるもかもしれない。
これらを防ぐ方法としては感染経路を断つ、希釈(換気流量を増やす)、ろ過(フィルターで菌を捕捉、非常時にはポータブル空気清浄機が有効)、紫外線殺菌等が挙げられていた。
私は質問で、オゾン殺菌やウルトラファインバブル等の殺菌はどうか聞いたが、あまりはっきりした回答はなかったと思う。
他の人から、福島原発事故のように停電した場合は換気空調が使えなくなるのでは、という質問があり、そういう場合に備えて太陽光発電等の準備が必要ではないか、とのことだった。
A -06は「大気中の汚染物質に関する法規制と研究の現状」というタイトルで、大気環境学会の兼保氏が講演した。
最近はPM2.5等の粒形が細かい粒子の指標が出ているが、1973年に当時の公害に対処する考え方でSPM(10μm以下の浮遊粒子状物質)が日本で提案されていた。
今はこのSPMはガラパゴス化している。
PM2.5の2.5という数値はどこからきているかというと、PM2.5サンプラーによって得られたエアロゾル濃度だったようである。
この講演でもやはり黄砂の飛来が問題としていたように思う。
A -07は「日本のCO2海底下貯留の法制度のあり方」というタイトルで、環境科学会の柳氏が講演した。
火力発電所で発生するCO2を回収して貯蔵し、それを地中や海底に長期間貯留する技術である。
インフラ整備とか長期間貯留の技術開発等が挙げられていた。
私は質問で、高レベル廃棄物と合同で適地選定を行ってはどうか、といったが明確な回答はなかった。
A-08は「欧州環境フットプリントへの参画を通した、環境政策推進におけるLCAの役割」というタイトルで、日本LCA学会の並河氏が講演した。
そもそもフットプリントという用語に引っかかった。
元々は足跡という意味であるが、コトバンクによると、静止衛星が通信可能な地上の範囲や核弾頭ミサイルによる破壊範囲等の物騒な意味もある。
LCAはライフサイクルアセスメントの意味で、モノのリサイクル評価のようである。
つまりフットプリントはヨーロッパの環境をグリーン化(環境にやさしいことを主眼とした考え方)する政策の及ぶ範囲のことを言うらしい。
またLCAはその中でのグリーン化の評価をすることらしいのであるが、イマイチ理解しにくかった。
消費者が相当賢くならないとついていけないシステムのようであり、難民が多く流入しているヨーロッパで果たして機能していくのか、という疑問が浮かんだが、質問はしなかった。
午後の最初のS-01は「環境政策における意思決定とレギュラトリーサイエンス」というタイトルで、鹿児島大学の秋葉氏が講演した。
ある種の名誉講演みたいなもので、とりとめがない気がした。
自動車が出てきた頃のNYタイムズのコメントは薄気味悪い、であった。
水俣病は功利主義的アプローチで社会資本を棄損した。
全ての国民は医療を受ける権利がある、自分だけが医療資源を余分に使っても社会に影響はない、と考えた結果はどうだったか。
BSE問題はrisk based approachが有効であったが、福島事故ではそうではなかった。
情報の非対称性と専門家の科学リテラシーが問題である。
一見したところ馬鹿げていないアイデアには見込みがないとアインシュタインは言った。
私は質問で台風等災害をもたらすような環境を熱帯低気圧に変えるような環境工学の考え方はどうか、と聞いたが、明確な回答はなかった。
次のP-01は「衛生学的視点からの水環境と水再利用の新たな目標設定の動向」というタイトルで土木学会の田中氏が講演した。
海水浴場の水質の中で大腸菌数と水質の関係を調べた。
米国環境保護庁(US・EPA)の2300個/100mlを超えると大腸菌疾患にかかる率が増えるとの指標を基に、厚生省は1956年に海水浴場の水質を1000個/100mlとしたらしい。
下水処理の水の再利用ということで従来の指標とは違う指標も検討に上っているらしい。
P-02は「水環境に関する規制とその課題」というタイトルで日本水環境学会の浅見女史が講演した。
富山県神通川のイタイイタイ病、熊本県の水俣病等の公害等から水質規制が強化され始めた。
水環境として、河川・湖沼、ダム、地下水、排水、閉鎖性海域、土壌、地盤等があり、ダイオキシンや農薬対策等を考慮した法律が整備されてきた。
水道水質基準改正については同検討会が中心となって、厚生科学審議会や内閣府食品安全委員会、外部ではWHO、USEPA等と連携して法案作り等を行ってきた。
P-03は「水質および土壌の規制制度とレギュラトリ-サイエンス」というタイトルで化学工学会の細見氏が講演した。
ここでレギュラトリーサイエンスの定義らしきものが登場した。
医薬品の安全性評価等に一番初めに適用され、予測、評価、判断の科学とした。
もう一歩踏み込んで、従来の科学において得られる知見と行政が行う規制措置等の間のギャップを埋めるための橋渡しとなる科学とした。
この説明が一番ぴったりくるであろう。
講演では、特定事業場に適用される排水基準は水質の環境基準値の10倍値と設定されてきた。
これは全国の排水量の河川水量に対する比率が概ね10分の1だったことによる。
しかし硝酸性窒素等はこうした基準に当てはまらない、またPCBの基準等について説明した。
硝酸性窒素は環境基準値は10mg/Lとされている。
この硝酸性窒素は野菜の中にも多く含まれていることが問題であるが、水の中にも含まれている。
これはアンモニア等から変化したもので、野菜等に蓄積していく。
おそらく農薬ほどの毒性はないであろうが、インターネット等で調べてみると、発がん性や肝機能障害等の健康被害をもたらすと出ている。
実は義父宅の周辺の水質が硝酸性窒素は1.5mg/Lと基準値の10分の1であり、検出限界以下ではないのである。
私が義父宅にいる時には東京にいる時より関節がだるいことが多いのである。
それで、市のHPに掲載されていた水質を調べてみると硝酸性窒素が多い印象であった。
市に問い合わせても問題ない、との回答だった。
私は義父宅にいる時はそれ以降、飲料水としてはコンビニで買っている。
お茶の時間のコーヒー、ごはんを炊く時の水はすべてコンビニで買った水を使うようにしてから、身体のだるさは減少したように思う。
だから、硝酸性窒素という用語に少し過敏になっていると思う。
ただ、野菜の中の硝酸イオン濃度は気をつけておいた方がよい。
ヨーロッパではすでにこの野菜中の硝酸イオンの規制に動いているようであるが、日本での動きはないことをネット講座gaccoのSOFIX有機農業の講座で習った。
PCBについては、肝機能障害等の影響があるが、魚介類等の基準値3ppm以下らしい。
水道水についての基準値はないらしい。
おそらく混入の危険がないためであろうが、井戸水等にこっそり埋められたPCBが漏れ出す、等の危険性はあるであろう。
P-04は「地盤環境分野におけるレギュラトリーサイエンスと持続可能性に向けた取り組み」というタイトルで地盤工学会の保高氏が講演した。
津波堆積物や災害廃棄物の有効利用を検討し、災害廃棄物の有効利用ガイドラインを策定した。
これまでこうした取組はなかったらしい。
福島の放射能土壌については共通知構築にとどまっている。
これは放射能に関する知識が不足しているであろうから仕方ないが、原子力学会と共同で研究、とはいかないものなのか。
最近の方向性の一つに「サステナブル・レメディエーション」の概念がある。
素直に翻訳すれば、「持続可能な環境修復」という意味になる。
土壌汚染等が起きた時に環境汚染対策と環境負荷低減、その汚染に関係する人(汚染させた側、された側:ステークホルダー)に浄化の過程やリスク、浄化技術等の透明性を確保する全体的なシステムのようである。
私は質問で若狭湾研究センターの人がセメント業界のロータリーキルンで福島の汚染土壌1千万トンを処理可能としているが、知っているか聞いたが知らないようだった。
P-05は「電磁環境の擾乱とその対策」というタイトルで静電気学会の小野氏が講演した。
ちょっと場違いな感じもあったが、PC等の電子回路に関する電磁波の影響があるのである。
電子レンジは2.45GHzのマイクロ波を用いている。
何も対策を施さないと、PC等の誤動作の危険がある。
実際にはドアに電磁波を通さないメッシュを貼っている。
このような電磁環境で悪影響を与える原因として、雷、磁気嵐、意図的電磁妨害がある。
医療機器におけるペースメーカー等への影響もある。
雷はよく起きるので対策が取られている。
磁気嵐はあまり関係ないと思っていたが、1989年にカナダのケベック州で磁気嵐による大規模停電が起きたらしい。
もっとも始末に負えないのが意図的電磁妨害(IEMI)である。
制御室の隣室にカバンに入れた小型の高電圧パルス発生器をスイッチオンすると、機器が制御不能になる等の影響が出る。
サイバー攻撃と同等の脅威となる可能性があるのである。
対策としてはケーブルにシールドをまいたり、電子機器の前段にローパスフィルタ設置する。
これは高い周波数の信号をカットするものらしい。
P-06は「社会インフラを支える鋼構造物の腐食科学および防食工学の現状と今後の課題」というタイトルで日本鉄鋼協会の藤田氏が講演した。
鉄鋼材料の最大の弱点は腐食(サビ)である。
サビの抑制に強くコストも安い銅やクロムの成分を添加した耐候性鋼が橋に使われたが、塩害に弱いので使われなくなった。
今はニッケル系に代わっている。
今は腐食試験や寿命予測モデル等の研究が行われている。
私は岡山の瀬戸内海に面した海辺で育ったので、小さい頃からこの塩害をまともに見てきた。
冷蔵庫の表面に茶色のあばたのようなものがいっぱいできていたし、洗濯機も茶色のサビがいっぱいあったのを覚えている。
それが潮風によるものというのは大学になるまで知らなかったような気がする。
今東京で住んでいるマンションもすぐには影響は出ないであろうが、鉄筋コンクリートの鉄筋は30年も経てば相当腐食が進んでいる可能性はある。
橋梁検査で使用するX線装置でマンションの鉄筋も透視して評価できないか、と思うが、まだそこまで技術は進んでいない。
P-07は「鉱物資源に含まれる環境負荷物質の除去と資源生産プロセスへの技術解決アプローチ」というタイトルで環境資源工学会の柴山氏が講演した。
鉱物資源の中で銅鉱石中のヒ素に着目した講演である。
銅鉱石は銅品位の低下に反してヒ素濃度が上昇する。
銅鉱石の受入制限の国として中国があり、ヒ素品位上限として0.5%にしている。
チリは世界一の銅産出国であるが、どんどんヒ素品位低下となっている。
このヒ素の除去研究を説明していた。アルカリ浸出、高温高圧浸出、焙焼法等がある。
私は質問でヒ素の利用法はないのか聞いた。
LED等もガリウム・ヒ素合金であるから、そのうち大量に出てくると思ったので聞いた。
何もそういう視点はないようだった。
P-08は「循環型社会・低炭素社会に向けた政策動向からみた環境・エネルギー分野の技術開発のあり方」というタイトルで日本機械学会の小野田氏が講演した。
最初に埼玉県の本庄早稲田駅周辺で、自然エネルギーを利用した本庄スマートエネルギータウンプロジェクトを実施していることを説明した。
太陽光発電は流行のようになっているがやらないでくれ、という意見もある。
EUは電力とエネルギーを両方で考えている。
コジェネ評価ではCO2削減になっているか。
国が支援したプロジェクトがなかなか実装しないと相談を受けたことがある。
支援する側、提案する側、評価する有識者の間にギャップがある。
自然エネルギーを利用したシステムを作ろうとしているのは何となくわかるのだが、散漫な印象を受けた。
P-09は「放射能汚染廃棄物の処理・処分に係る技術的研究」というタイトルで廃棄物資源循環学会の遠藤氏が講演した。
原子力発電所の事故を想定した研究は福島原発事故前までは行ってこなかった。
放射能汚染廃棄物の焼却処理では焼却炉の排ガス調査も実施され、排ガス中の放射性セシウムはバグフィルター付きの排ガス処理施設ではほぼ検出限界以下であり、放射性セシウムの除去率は99%以上である。
放射性汚染廃棄物の埋め立て処分も塩濃度が高いと放射性セシウムの吸着特性がよくないので、焼却飛灰を埋め立てる時には不透水性覆土が重要と指摘した。
私は質問で、原子力委員会がこれら福島事故の知識の体系化を図っているようであるが、関与はあるか聞いた。
遠藤氏は上司はひょっとしたら関与しているかもしれない、との答えだった。
以上でこのシンポジウムは終了した。
朝から7時間近くの講演で流石に疲れた。
会場には福島浪江からの避難者らしき人もいて、福島原発事故関係の時に質問していた。
私は名刺でも渡そうかと思ったが、原子力関係者はいい印象をもっていないおそれもあるので遠慮した。
あまり、今回のシンポジウムでも実りのあるものとは言えなかったが、電磁環境に関するP-5の講演は少し意表を突かれた。
テロといっても、こういう電磁テロもあるということなのである。
テロについてはもっと広い視点で見ていく必要があることを再認識した。
これからもこうしたシンポジウムには参加して有用な情報を得ていきたいと思う。
<第31回環境工学連合講演会>
総合テーマ:レギュラトリーサイエンスと環境工学
1.日時:2018年(平成30年)5月22日(火) 9:15-17:10
2.会場:日本学術会議講堂
3.主催:日本学術会議 土木工学・建築学委員会
4.共催:化学工学会、環境科学会、環境資源工学会、空気調和・衛生工学会、資源・素材学会、地盤工学会、静電気学会、大気環境学会、土木学会、日本LCA学会、日本化学会、日本機械学会、日本建築学会、日本水道協会、日本セラミックス協会、日本鉄鋼協会、日本土壌肥料学会、日本分析化学会、○日本水環境学会、廃棄物資源循環学会 (○印は幹事学会)
5.定員:200名(申込み先着順/定員に余裕がある場合は当日の参加も受付)
6.参加費:無料/講演論文集を別途2,000円(学生無料、但し事前申し込みが必要)にて会場で有料頒布
7.プログラム:
■開会 9:15~9:25
開会挨拶 嘉門雅史(京都大学名誉教授)
□【調 査】 9:25~10:45
A-01 招待講演:坑廃水処理の現状とJOGMECが取り組む自然力活用型坑廃水処理の調査研究について
濱井昂弥(資源・素材学会/石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
A-02 招待講演:福島県の農業環境における放射性セシウムと内部被ばく線量
塚田祥文(日本土壌肥料学会/福島大学)
A-03 招待講演:建築物における室内空気環境の現状と課題
鍵直樹(空気調和・衛生工学会/東京工業大学)
A-04 招待講演:大気環境中の化学反応によって生成する有害化学物質
亀田貴之(日本分析化学会/京都大学)
□【規制・管理】 10:55~12:15
A-05 招待講演:建築環境における感染症のリスクとその制御方法
柳宇(日本建築学会/工学院大学)
A-06 招待講演:大気中の汚染物質に関する法規制と研究の現状
兼保直樹(大気環境学会/産業技術総合研究所)
A-07 招待講演:日本のCO2海底下貯留の法制度のあり方
柳憲一郎(環境科学会/明治大学)
A-08 招待講演:欧州環境フットプリントへの参画を通した、環境政策推進におけるLCAの役割
並河治(日本LCA学会/(株)日立製作所)
■【特別講演】 13:00~13:30
S-01 特別講演:環境政策における意思決定とレギュラトリーサイエンス
秋葉澄伯(鹿児島大学名誉教授)
□【規制・管理】 13:40~14:40
P-01 招待講演:衛生学的視点からの水環境と水再利用の新たな目標設定の動向
田中宏明(土木学会/京都大学)
P-02 招待講演:水環境に関する規制とその課題
浅見真理(日本水環境学会/国立保健医療科学院)
P-03 招待講演:水質および土壌の規制制度とレギュラトリ-サイエンス
細見正明(化学工学会/東京農工大学)
□【規制・管理】 14:50~15:50
P-04 招待講演:地盤環境分野におけるレギュラトリーサイエンスと持続可能性に向けた取り組み
保高徹生(地盤工学会/産業技術総合研究所)
P-05 招待講演:電磁環境の擾乱とその対策
小野亮(静電気学会/東京大学)
P-06 招待講演:社会インフラを支える鋼構造物の腐食科学および防食工学の現状と今後の課題
藤田栄(日本鉄鋼協会/JFE テクノリサーチ(株))
□【技術】 16:00~17:00
P-07 招待講演:鉱物資源に含まれる環境負荷物質の除去と資源生産プロセスへの技術解決アプローチ
柴山敦(環境資源工学会/秋田大学)
P-08 招待講演:循環型社会・低炭素社会に向けた政策動向からみた環境・エネルギー分野の技術開発のあり方
小野田弘士(日本機械学会/早稲田大学)
P-09 招待講演:放射能汚染廃棄物の処理・処分に係る技術的研究
遠藤和人(廃棄物資源循環学会/国立環境研究所)
■閉 会 17:00~17:10
第31回環境工学連合講演会の総括
森口祐一(東京大学)
閉会挨拶
米田雅子(慶応義塾大学)
-以上-
環境工学シンポの案内は学術会議HP上でかなり前から表示があった。
というより、昨年日本学術会議の会長が代わってから、シンポジウムの案内が少なくて、環境工学シンポの案内が非常に目立っていた。
私は4月12日に参加申し込みメールを送っている。
でも受理通知は4月28日に届いた。16日間の空白期間があった。
開催日の前日にもう一度案内のポスターを読んでみると、資料は事前申し込みで2,000円とあったが、申し込んでいなかった。
行く途中で、ペットボトル500mL1本、昼ご飯のおにぎり、新聞を買った。
当日会場に行って資料の申し込みをしていなかったが、というと、ちょっと離れたコーナーで資料を販売していた。
最初のあいさつで京大名誉教授の嘉門氏がこのシンポジウムの経緯を説明した。
このシンポジウム1986年のチェルノブイリ原発事故が起こった年に始まり、今回で31回目となる。
(息子の生まれた年でもある。)
1回飛んでいるのは2011年の東日本大震災と福島原発事故のためで、それ以外は続けている。
8つの幹事学会が交替で担当しており、今回は水資源学会が担当している。
このシンポジウムは国連のSDG’s(エスディージーズ:17項目の持続可能な開発目標、貧困をなくす、技術革新等広範囲な項目がある)にも関連している、とのことであった。
このことは今年5月29日の日本学術会議のHPにも解説が出ている。URLは以下の通りである。
http://www.scj.go.jp/ja/scj/sdgs/index.html
私も最近の貧富の格差に注目し始めた辺りから、このSDG’sに注目している。
この17項目のうち、このシンポジウムでは
3.健康と福祉
6.安全な水とトイレ
7. クリーンエネルギー
9.技術革新
11.まちづくり
12.つくる責任
13.気候変動
14.海の豊かさを守る
15.陸の豊かさも守る
の9項目に関連している、とのことであった。
また今回の統一テーマとして、「レギュラトリーサイエンスと環境工学」という副題が付いていた。
何かよくわからないけど、福島原発事故の報告が2,3件あるからいいか、と思って申し込んだが、この「レギュラトリーサイエンス」とは何かよくわからなかった。
後で調べてみると、「レギュラトリーサイエンス」とは調整科学、一番理解できるのは高圧ガスボンベの減圧器(レギュレータ)は高圧そのままでは利用できないので、それを使えるように調整する、ということが近いかもしれない。
調べてみると、一例として人工心臓のガイドラインを作ると人工心臓の性能評価ができる。
だから、このガイドライン作りがレギュラトリーサイエンスにあたるようであった。
A-01は「坑廃水処理の現状とJOGMECが取り組む自然力活用型坑廃水処理の調査研究」というタイトルで、資源・素材学会の濱井氏が講演した。
JOGMEC(石油天然ガス・鉱物資源機構)という名前自体がよくわからないのに説明がなかった。
資料の隅にちょっと略号の説明があった。
要するに、昔5,000くらいあった鉱山が今は廃鉱となっているが、これらの廃鉱から漏れ出してくる鉄、銅、亜鉛等をイタイイタイ病のCdみたいに害を及ぼさないために消石灰等を用いた廃水処理を行う。
この費用が年間約30億円とコストがかかるが、利益を出さないために地方自治体等の大きな負担である。
これを微生物の代謝等を使って安く処理できるというもののようであった。
A-02は「福島県の農業環境における放射性セシウムと内部被ばく線量」というタイトルで日本土壌肥料学会の塚田氏が講演した。
帰還困難区域の大熊町では米に若干の放射能が検出されたが、他の地域ではセシウムの影響はなかった。
目新しいこととして、Sr-90に着目していたことであり、このSr-90はカルシウムと同族で骨に沈着しやすいものである。
Ge検出器で検出できないβ核種なので、ガスフローカウンタを使って調べ、Sr-90は1960年代の大気核実験の濃度と同じであり、福島原発事故の影響はないことを確認していた。
内部被ばくについても、目安とした年間1mSvに対して、2013年には0.016mSvと低い値であった。
私はタケノコやイノシシについてはどうか、と聞くと、これらについてはまだ若干検出されるようである、との回答があった。
A-03は「建築物における室内空気環境の現状と課題」というタイトルで空気調和・衛生工学会の鍵氏が講演した。
省エネのために法改正があった時に温度等が若干不適になる程度で大きな問題はないようだったが、湿度の制御に関しては問題が少しあるようだった。
A-04は「大気環境中の化学反応によって生成する有害化学物質」というタイトルで日本分析化学会の亀田氏が講演した。
ディーゼル車や工場から出る多環芳香族炭化水素(PAH:ベンゼン環がいっぱいくっついた化合物)が従来は問題であった。
最近は中国の黄砂由来のPAHが結構問題としてあるらしい。
PAHの一種のピレンというのがあり、このピレンのニトロ化したピレンは発がん性があるらしい。
石川県輪島で観測したこれらの物質は黄砂飛来時に3倍くらい増加する、とのことであった。
北京のスモッグは工場群から出る排ガスの捕集性能が悪い(高度成長期の日本の公害に相当、おそらく捕集コストの手抜きではないかと思う)のはある種自業自得の部分があるが、黄砂に乗って日本にまで悪影響を及ぼすとなると対岸の火事と言っていられない事態である。
これらの黄砂による問題は外交問題というレベルではないのかもしれないが、中国という国はなかなか一筋縄ではいかない国という印象がより強くなった気がする。
私は質問で、ニトロ化したピレンを元の発がん性のないピレンに戻す方法を研究しないのか聞いたが、する気はないようであった。
A-05は「建築環境における感染症のリスクとその制御方法」というタイトルで、日本建築学会の柳氏が講演した。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件を契機に、世界中で、放射性物質(Radiological)、生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)、核(Nuclear)によるテロに対する危惧が高まっている。
柳氏はこの中で生物剤という視点で、感染症の予防に関して説明した。
感染経路として、空気感染・飛沫感染、接触感染、経口感染、昆虫媒介感染、人畜共通感染がある。
空気感染・飛沫感染の例としてはインフルエンザなどがある。
最近流行しているはしかも入るのであろう。
接触感染としてはMRSAやダニ等がある。
経口感染ということでは病原体に汚染された食物・飲料水等で感染するもので、サルモネラ菌、赤痢菌、コレラ菌等である。
昆虫媒介感染はカやハエ等の接触によって起きるもので、日本脳炎、ペスト菌、マラリア等がある。
人畜共通感染は本来動物だけに感染するものが接触や肉摂取等で起こされるもので炭疽菌等がある。
ひょっとしたら鳥インフルエンザやBSE等もあるもかもしれない。
これらを防ぐ方法としては感染経路を断つ、希釈(換気流量を増やす)、ろ過(フィルターで菌を捕捉、非常時にはポータブル空気清浄機が有効)、紫外線殺菌等が挙げられていた。
私は質問で、オゾン殺菌やウルトラファインバブル等の殺菌はどうか聞いたが、あまりはっきりした回答はなかったと思う。
他の人から、福島原発事故のように停電した場合は換気空調が使えなくなるのでは、という質問があり、そういう場合に備えて太陽光発電等の準備が必要ではないか、とのことだった。
A -06は「大気中の汚染物質に関する法規制と研究の現状」というタイトルで、大気環境学会の兼保氏が講演した。
最近はPM2.5等の粒形が細かい粒子の指標が出ているが、1973年に当時の公害に対処する考え方でSPM(10μm以下の浮遊粒子状物質)が日本で提案されていた。
今はこのSPMはガラパゴス化している。
PM2.5の2.5という数値はどこからきているかというと、PM2.5サンプラーによって得られたエアロゾル濃度だったようである。
この講演でもやはり黄砂の飛来が問題としていたように思う。
A -07は「日本のCO2海底下貯留の法制度のあり方」というタイトルで、環境科学会の柳氏が講演した。
火力発電所で発生するCO2を回収して貯蔵し、それを地中や海底に長期間貯留する技術である。
インフラ整備とか長期間貯留の技術開発等が挙げられていた。
私は質問で、高レベル廃棄物と合同で適地選定を行ってはどうか、といったが明確な回答はなかった。
A-08は「欧州環境フットプリントへの参画を通した、環境政策推進におけるLCAの役割」というタイトルで、日本LCA学会の並河氏が講演した。
そもそもフットプリントという用語に引っかかった。
元々は足跡という意味であるが、コトバンクによると、静止衛星が通信可能な地上の範囲や核弾頭ミサイルによる破壊範囲等の物騒な意味もある。
LCAはライフサイクルアセスメントの意味で、モノのリサイクル評価のようである。
つまりフットプリントはヨーロッパの環境をグリーン化(環境にやさしいことを主眼とした考え方)する政策の及ぶ範囲のことを言うらしい。
またLCAはその中でのグリーン化の評価をすることらしいのであるが、イマイチ理解しにくかった。
消費者が相当賢くならないとついていけないシステムのようであり、難民が多く流入しているヨーロッパで果たして機能していくのか、という疑問が浮かんだが、質問はしなかった。
午後の最初のS-01は「環境政策における意思決定とレギュラトリーサイエンス」というタイトルで、鹿児島大学の秋葉氏が講演した。
ある種の名誉講演みたいなもので、とりとめがない気がした。
自動車が出てきた頃のNYタイムズのコメントは薄気味悪い、であった。
水俣病は功利主義的アプローチで社会資本を棄損した。
全ての国民は医療を受ける権利がある、自分だけが医療資源を余分に使っても社会に影響はない、と考えた結果はどうだったか。
BSE問題はrisk based approachが有効であったが、福島事故ではそうではなかった。
情報の非対称性と専門家の科学リテラシーが問題である。
一見したところ馬鹿げていないアイデアには見込みがないとアインシュタインは言った。
私は質問で台風等災害をもたらすような環境を熱帯低気圧に変えるような環境工学の考え方はどうか、と聞いたが、明確な回答はなかった。
次のP-01は「衛生学的視点からの水環境と水再利用の新たな目標設定の動向」というタイトルで土木学会の田中氏が講演した。
海水浴場の水質の中で大腸菌数と水質の関係を調べた。
米国環境保護庁(US・EPA)の2300個/100mlを超えると大腸菌疾患にかかる率が増えるとの指標を基に、厚生省は1956年に海水浴場の水質を1000個/100mlとしたらしい。
下水処理の水の再利用ということで従来の指標とは違う指標も検討に上っているらしい。
P-02は「水環境に関する規制とその課題」というタイトルで日本水環境学会の浅見女史が講演した。
富山県神通川のイタイイタイ病、熊本県の水俣病等の公害等から水質規制が強化され始めた。
水環境として、河川・湖沼、ダム、地下水、排水、閉鎖性海域、土壌、地盤等があり、ダイオキシンや農薬対策等を考慮した法律が整備されてきた。
水道水質基準改正については同検討会が中心となって、厚生科学審議会や内閣府食品安全委員会、外部ではWHO、USEPA等と連携して法案作り等を行ってきた。
P-03は「水質および土壌の規制制度とレギュラトリ-サイエンス」というタイトルで化学工学会の細見氏が講演した。
ここでレギュラトリーサイエンスの定義らしきものが登場した。
医薬品の安全性評価等に一番初めに適用され、予測、評価、判断の科学とした。
もう一歩踏み込んで、従来の科学において得られる知見と行政が行う規制措置等の間のギャップを埋めるための橋渡しとなる科学とした。
この説明が一番ぴったりくるであろう。
講演では、特定事業場に適用される排水基準は水質の環境基準値の10倍値と設定されてきた。
これは全国の排水量の河川水量に対する比率が概ね10分の1だったことによる。
しかし硝酸性窒素等はこうした基準に当てはまらない、またPCBの基準等について説明した。
硝酸性窒素は環境基準値は10mg/Lとされている。
この硝酸性窒素は野菜の中にも多く含まれていることが問題であるが、水の中にも含まれている。
これはアンモニア等から変化したもので、野菜等に蓄積していく。
おそらく農薬ほどの毒性はないであろうが、インターネット等で調べてみると、発がん性や肝機能障害等の健康被害をもたらすと出ている。
実は義父宅の周辺の水質が硝酸性窒素は1.5mg/Lと基準値の10分の1であり、検出限界以下ではないのである。
私が義父宅にいる時には東京にいる時より関節がだるいことが多いのである。
それで、市のHPに掲載されていた水質を調べてみると硝酸性窒素が多い印象であった。
市に問い合わせても問題ない、との回答だった。
私は義父宅にいる時はそれ以降、飲料水としてはコンビニで買っている。
お茶の時間のコーヒー、ごはんを炊く時の水はすべてコンビニで買った水を使うようにしてから、身体のだるさは減少したように思う。
だから、硝酸性窒素という用語に少し過敏になっていると思う。
ただ、野菜の中の硝酸イオン濃度は気をつけておいた方がよい。
ヨーロッパではすでにこの野菜中の硝酸イオンの規制に動いているようであるが、日本での動きはないことをネット講座gaccoのSOFIX有機農業の講座で習った。
PCBについては、肝機能障害等の影響があるが、魚介類等の基準値3ppm以下らしい。
水道水についての基準値はないらしい。
おそらく混入の危険がないためであろうが、井戸水等にこっそり埋められたPCBが漏れ出す、等の危険性はあるであろう。
P-04は「地盤環境分野におけるレギュラトリーサイエンスと持続可能性に向けた取り組み」というタイトルで地盤工学会の保高氏が講演した。
津波堆積物や災害廃棄物の有効利用を検討し、災害廃棄物の有効利用ガイドラインを策定した。
これまでこうした取組はなかったらしい。
福島の放射能土壌については共通知構築にとどまっている。
これは放射能に関する知識が不足しているであろうから仕方ないが、原子力学会と共同で研究、とはいかないものなのか。
最近の方向性の一つに「サステナブル・レメディエーション」の概念がある。
素直に翻訳すれば、「持続可能な環境修復」という意味になる。
土壌汚染等が起きた時に環境汚染対策と環境負荷低減、その汚染に関係する人(汚染させた側、された側:ステークホルダー)に浄化の過程やリスク、浄化技術等の透明性を確保する全体的なシステムのようである。
私は質問で若狭湾研究センターの人がセメント業界のロータリーキルンで福島の汚染土壌1千万トンを処理可能としているが、知っているか聞いたが知らないようだった。
P-05は「電磁環境の擾乱とその対策」というタイトルで静電気学会の小野氏が講演した。
ちょっと場違いな感じもあったが、PC等の電子回路に関する電磁波の影響があるのである。
電子レンジは2.45GHzのマイクロ波を用いている。
何も対策を施さないと、PC等の誤動作の危険がある。
実際にはドアに電磁波を通さないメッシュを貼っている。
このような電磁環境で悪影響を与える原因として、雷、磁気嵐、意図的電磁妨害がある。
医療機器におけるペースメーカー等への影響もある。
雷はよく起きるので対策が取られている。
磁気嵐はあまり関係ないと思っていたが、1989年にカナダのケベック州で磁気嵐による大規模停電が起きたらしい。
もっとも始末に負えないのが意図的電磁妨害(IEMI)である。
制御室の隣室にカバンに入れた小型の高電圧パルス発生器をスイッチオンすると、機器が制御不能になる等の影響が出る。
サイバー攻撃と同等の脅威となる可能性があるのである。
対策としてはケーブルにシールドをまいたり、電子機器の前段にローパスフィルタ設置する。
これは高い周波数の信号をカットするものらしい。
P-06は「社会インフラを支える鋼構造物の腐食科学および防食工学の現状と今後の課題」というタイトルで日本鉄鋼協会の藤田氏が講演した。
鉄鋼材料の最大の弱点は腐食(サビ)である。
サビの抑制に強くコストも安い銅やクロムの成分を添加した耐候性鋼が橋に使われたが、塩害に弱いので使われなくなった。
今はニッケル系に代わっている。
今は腐食試験や寿命予測モデル等の研究が行われている。
私は岡山の瀬戸内海に面した海辺で育ったので、小さい頃からこの塩害をまともに見てきた。
冷蔵庫の表面に茶色のあばたのようなものがいっぱいできていたし、洗濯機も茶色のサビがいっぱいあったのを覚えている。
それが潮風によるものというのは大学になるまで知らなかったような気がする。
今東京で住んでいるマンションもすぐには影響は出ないであろうが、鉄筋コンクリートの鉄筋は30年も経てば相当腐食が進んでいる可能性はある。
橋梁検査で使用するX線装置でマンションの鉄筋も透視して評価できないか、と思うが、まだそこまで技術は進んでいない。
P-07は「鉱物資源に含まれる環境負荷物質の除去と資源生産プロセスへの技術解決アプローチ」というタイトルで環境資源工学会の柴山氏が講演した。
鉱物資源の中で銅鉱石中のヒ素に着目した講演である。
銅鉱石は銅品位の低下に反してヒ素濃度が上昇する。
銅鉱石の受入制限の国として中国があり、ヒ素品位上限として0.5%にしている。
チリは世界一の銅産出国であるが、どんどんヒ素品位低下となっている。
このヒ素の除去研究を説明していた。アルカリ浸出、高温高圧浸出、焙焼法等がある。
私は質問でヒ素の利用法はないのか聞いた。
LED等もガリウム・ヒ素合金であるから、そのうち大量に出てくると思ったので聞いた。
何もそういう視点はないようだった。
P-08は「循環型社会・低炭素社会に向けた政策動向からみた環境・エネルギー分野の技術開発のあり方」というタイトルで日本機械学会の小野田氏が講演した。
最初に埼玉県の本庄早稲田駅周辺で、自然エネルギーを利用した本庄スマートエネルギータウンプロジェクトを実施していることを説明した。
太陽光発電は流行のようになっているがやらないでくれ、という意見もある。
EUは電力とエネルギーを両方で考えている。
コジェネ評価ではCO2削減になっているか。
国が支援したプロジェクトがなかなか実装しないと相談を受けたことがある。
支援する側、提案する側、評価する有識者の間にギャップがある。
自然エネルギーを利用したシステムを作ろうとしているのは何となくわかるのだが、散漫な印象を受けた。
P-09は「放射能汚染廃棄物の処理・処分に係る技術的研究」というタイトルで廃棄物資源循環学会の遠藤氏が講演した。
原子力発電所の事故を想定した研究は福島原発事故前までは行ってこなかった。
放射能汚染廃棄物の焼却処理では焼却炉の排ガス調査も実施され、排ガス中の放射性セシウムはバグフィルター付きの排ガス処理施設ではほぼ検出限界以下であり、放射性セシウムの除去率は99%以上である。
放射性汚染廃棄物の埋め立て処分も塩濃度が高いと放射性セシウムの吸着特性がよくないので、焼却飛灰を埋め立てる時には不透水性覆土が重要と指摘した。
私は質問で、原子力委員会がこれら福島事故の知識の体系化を図っているようであるが、関与はあるか聞いた。
遠藤氏は上司はひょっとしたら関与しているかもしれない、との答えだった。
以上でこのシンポジウムは終了した。
朝から7時間近くの講演で流石に疲れた。
会場には福島浪江からの避難者らしき人もいて、福島原発事故関係の時に質問していた。
私は名刺でも渡そうかと思ったが、原子力関係者はいい印象をもっていないおそれもあるので遠慮した。
あまり、今回のシンポジウムでも実りのあるものとは言えなかったが、電磁環境に関するP-5の講演は少し意表を突かれた。
テロといっても、こういう電磁テロもあるということなのである。
テロについてはもっと広い視点で見ていく必要があることを再認識した。
これからもこうしたシンポジウムには参加して有用な情報を得ていきたいと思う。
<第31回環境工学連合講演会>
総合テーマ:レギュラトリーサイエンスと環境工学
1.日時:2018年(平成30年)5月22日(火) 9:15-17:10
2.会場:日本学術会議講堂
3.主催:日本学術会議 土木工学・建築学委員会
4.共催:化学工学会、環境科学会、環境資源工学会、空気調和・衛生工学会、資源・素材学会、地盤工学会、静電気学会、大気環境学会、土木学会、日本LCA学会、日本化学会、日本機械学会、日本建築学会、日本水道協会、日本セラミックス協会、日本鉄鋼協会、日本土壌肥料学会、日本分析化学会、○日本水環境学会、廃棄物資源循環学会 (○印は幹事学会)
5.定員:200名(申込み先着順/定員に余裕がある場合は当日の参加も受付)
6.参加費:無料/講演論文集を別途2,000円(学生無料、但し事前申し込みが必要)にて会場で有料頒布
7.プログラム:
■開会 9:15~9:25
開会挨拶 嘉門雅史(京都大学名誉教授)
□【調 査】 9:25~10:45
A-01 招待講演:坑廃水処理の現状とJOGMECが取り組む自然力活用型坑廃水処理の調査研究について
濱井昂弥(資源・素材学会/石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
A-02 招待講演:福島県の農業環境における放射性セシウムと内部被ばく線量
塚田祥文(日本土壌肥料学会/福島大学)
A-03 招待講演:建築物における室内空気環境の現状と課題
鍵直樹(空気調和・衛生工学会/東京工業大学)
A-04 招待講演:大気環境中の化学反応によって生成する有害化学物質
亀田貴之(日本分析化学会/京都大学)
□【規制・管理】 10:55~12:15
A-05 招待講演:建築環境における感染症のリスクとその制御方法
柳宇(日本建築学会/工学院大学)
A-06 招待講演:大気中の汚染物質に関する法規制と研究の現状
兼保直樹(大気環境学会/産業技術総合研究所)
A-07 招待講演:日本のCO2海底下貯留の法制度のあり方
柳憲一郎(環境科学会/明治大学)
A-08 招待講演:欧州環境フットプリントへの参画を通した、環境政策推進におけるLCAの役割
並河治(日本LCA学会/(株)日立製作所)
■【特別講演】 13:00~13:30
S-01 特別講演:環境政策における意思決定とレギュラトリーサイエンス
秋葉澄伯(鹿児島大学名誉教授)
□【規制・管理】 13:40~14:40
P-01 招待講演:衛生学的視点からの水環境と水再利用の新たな目標設定の動向
田中宏明(土木学会/京都大学)
P-02 招待講演:水環境に関する規制とその課題
浅見真理(日本水環境学会/国立保健医療科学院)
P-03 招待講演:水質および土壌の規制制度とレギュラトリ-サイエンス
細見正明(化学工学会/東京農工大学)
□【規制・管理】 14:50~15:50
P-04 招待講演:地盤環境分野におけるレギュラトリーサイエンスと持続可能性に向けた取り組み
保高徹生(地盤工学会/産業技術総合研究所)
P-05 招待講演:電磁環境の擾乱とその対策
小野亮(静電気学会/東京大学)
P-06 招待講演:社会インフラを支える鋼構造物の腐食科学および防食工学の現状と今後の課題
藤田栄(日本鉄鋼協会/JFE テクノリサーチ(株))
□【技術】 16:00~17:00
P-07 招待講演:鉱物資源に含まれる環境負荷物質の除去と資源生産プロセスへの技術解決アプローチ
柴山敦(環境資源工学会/秋田大学)
P-08 招待講演:循環型社会・低炭素社会に向けた政策動向からみた環境・エネルギー分野の技術開発のあり方
小野田弘士(日本機械学会/早稲田大学)
P-09 招待講演:放射能汚染廃棄物の処理・処分に係る技術的研究
遠藤和人(廃棄物資源循環学会/国立環境研究所)
■閉 会 17:00~17:10
第31回環境工学連合講演会の総括
森口祐一(東京大学)
閉会挨拶
米田雅子(慶応義塾大学)
-以上-
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