防災学術連携体シンポにオンライン参加(その4:最後)
防災学術連携体シンポ(2021/1/14(木))にオンライン参加した。
今回は(その4:最後)について書く。
(その1)(その2)(その3)を読んだ方は以下は飛ばしてください。
昨年の11月25日(水)に防災学術連携体から上記のシンポの案内メールが来た。
メインテーマは「東日本大震災からの10年とこれから」というもので、今年3月でちょうど10年の節目になるので、いいタイミングである。
その時にすぐに参加の申し込みをした。
しかし、このシンポジウムは午前10時から18時半までの長丁場である。
しかも39学会の発表があり、1つの学会の発表時間が10分と短い。
よほどコンパクトに詰め込まないと、すぐにタイムオーバーしてしまう。
私もこのシンポの報告について、原子力学会の年会のように、4週に分けて書くこととする。
発表のプログラムの概要は以下のようになっている。
1.東日本大震災の全容解明と十年間の復旧・復興の総括(9件)
2.原子力発電所事故後の対応と放射能汚染の長期的影響(4件)
3.東電福島第一原発事故被災地域の現状と復興(2件)
4.東日本大震災が社会に与えた影響と今後の長期的影響(5件)
5.自然災害軽減と復旧・復興に関わる提言(3件)
6.わが国の国土・都市計画、まちづくり、人づくりと防災・減災対策(4件)
7.今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進(12件)
第1週(その1)はテーマ1の9件
第2週(その2)はテーマ2の4件とテーマ3の2件
第3週(その3)はテーマ4の5件、テーマ5の3件とテーマ6
第4週(その4)でテーマ7の12件
について書き、できればこれらのまとめも書いてみたい。
(その4)ではテーマ7として「今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進」についてである。
7-01では「JSCE2020 防災プロジェクトについて」というタイトルで、土木学会の目黒氏が発表した。
JSCE2020(土木学会5か年計画)プロジェクトについて説明する。
複合・巨大災害の全体像の解明と横断的対応体制の提案を行う。
土木学会は会員4万人いる。
我が国の自然災害の損失を見てみる。
関東大震災では約60億円で当時のGDPの40%くらいに当たる。
南海トラフ地震では土木学会の試算では約1500兆円、首都直下地震では約900兆円にもなり、国難災害と言える。

図1 南海トラフ地震の経済的な損失推定
江戸末期の黒船来航後に1854年に安政の南海トラフ地震が起きて、約3万人の犠牲者が出ている。
1855年に安政の首都直下地震が起きて、約1万人の犠牲者が出ている。
1856年に安政江戸暴風雨で高潮と台風の複合災害で約10万人の犠牲者が出ている。
1858年に江戸でコレラが大流行し、この安政のパンデミックで江戸だけで3~10万人の犠牲者が出ている。
複合災害が起きている状況でも、学問分野として細分化されている。
3.11では少数の専門分野だけでは無理である。
全体像の理解が必要である。
日本学術会議で専門委員会ができ、それから防災学術連携体の成立につながる。
国難的災害に取り組むために、分野横断の学際的体制を作り、全体像作りをしなければならない。
3.11において、東大有志で津波被災地の問題を検討した。
この全体像の構造は精度の高いものであり、有効と思われる。
しかし、この検討の視点は工学系だけで、それ以上の広がりに欠けていた。
国難的災害の全体像を作るために、46学会の論文を調べた。
これらの論文の関連論文ネットワークを作った。

図2 東日本大震災に関連した論文のネットワーク
検討の事例を示す。

図3 災害情報学会の検討例
学会ごとの領域の担当マップを作っている。
他の学会もこの活動に協力して欲しい、と説明した。
7-02では「東日本大震災の火災被害とその後 10 年間の地震火災研究」というタイトルで、日本火災学会の廣井氏が発表した。
火災学会は1950年に設立された。
3.11後に11回の調査ミーティングを経て、調査委員会を発足した。
津波火災の現地調査を行った。
常備消防に対する火災の質問を行い、情報収集した。
重油の流出における火災の火災実験を行った。
全体像の把握として、震災後1か月に発生した全火災3,162件を網羅的に調査した。
従来の火災と違うことが多かった。
この中から地震火災を398件抽出した。

図4 地震火災の状況
間接火災は64件であった。
津波火災は159件であった。
揺れに伴う火災は175件であった。
阪神淡路大震災では285件であるから、阪神淡路大震災を超える火災が発生したことがわかった。
阪神淡路大震災の延焼面積は65万m2、3.11では75万m2でこれも超えた。
地震火災の種類別件数を見ると、電気、ロウソク、ガレキ、車両によるものであった。
津波火災発生のメカニズムを検討した。

図5 津波火災のメカニズム
岩手県大槌町の例では、津波がガレキを押し流し、山際にこれらが押し付けられて発災した。
標高と火災の関連から見ると、7~10mの小山で火災が多かった。
宮城県石巻市の例では、車やプロパンガスが押し流されて発災した。
都市近郊型では車やプロパンによる火災が多い。
今後の取組としては糸魚川大規模火災の例が参考になる。
強風で飛び火が多く発生した。
地震津波、津波火災の研究に加えて、他の地域の地震火災調査、津波火災の予測の研究などが必要になる、と説明した。
7-03では「東日本大震災以降の日本活断層学会の取り組みと今後の展望」というタイトルで、日本活断層学会の宮内氏が発表した。
活断層学会は約300名の会員がいて、2007年に設立された。
社会との接点が多い学会である。
3.11では内陸型の地震が多発した。
3.11の1か月後に福島浜通りの地震は内陸型の活断層によるものである。
1995年以降のM7級の大地震を示すと2.3年に1回起きている。
江戸時代以降にM7級の大地震は20年に1回だったから、その10倍起きている。
平安時代以来の地震活動期に入っている。
活断層研究の進展により活断層が新たに見つかった例が岐阜・高山盆地などにみられる。
地下構造の解明などで伏在活断層が長岡平野で見つかった。
熊本地震は活断層の上で発生した。

図6 熊本地震での住宅被害の例
宇宙からの測地観測で地殻変動が見つかることもある。
熊本地震では地震断層と建物被害の相関があった。
技術向上の支援活動で、フォトコンテストなどを行った例がある、と説明した。
7-04では「東日本大震災からの機械分野の取り組みと今後の課題」というタイトルで、日本機械学会の古屋氏が発表した。
機械構造物の耐震性について説明する。
機械は固有振動数によって壊れる。
原子力分野では共振振動台を用いた弁強度の確認等を行っている。
高加速度、高荷重による耐震なども試験している。
こうした実験を通して機械系の耐震技術者の育成を図っている。
高圧ガス施設では、球形貯槽の火災・爆発事故が多いので、縮小試験体を用いた実験を行っている。

図7 高圧ガス施設の地盤解析
また高圧ガス施設での基礎地盤等の解析評価を行っている。
昇降機やエスカレーターでは安全尤度の検討が行われた。

図8 昇降機の被災の例
クレーン構造物では天井クレーンの被害が多発した。
押えボルトの変形・破断によるものが多かった。
機械学会の取組としては35,000名の会員で3.11では7つのワーキンググループを組織し、被害調査を行った。
これまで防災の常設委員会がなかったため、2019年には防災・減災委員会を発足させ、被害データの集約や耐震基準の比較等を行っている、と説明した。
7-05では「立ち止まって考える南海トラフ巨大地震と西日本の地震防災」というタイトルで、日本自然災害学会の橋本氏が発表した。
この学会は1981年設立で会員は約700名である。
洪水被害が注目されている。
活動として、講演会、オープンフォーラム、学術情報誌発刊等を行っている。
開催場所に関連ある話題を取り上げている。
英文誌も発行している。
災害調査補助も行っている。
既往最大から最大クラスへと視点を変えて、想定外をなくす。
警戒宣言から臨時情報へとシフトした。
南海トラフ地震は今後30年間で70~80%は変更ない。
3.11以降の時系列を追った。
南海トラフ地震での最大34mの津波想定は3.31ショックと言われる。
確度の高い予測は困難として、2015年に「予知」という用語を削除した。
2016年に熊本地震、2018年に北海道地震、大阪地震と起こり、委員会内外からクレームがついた。
確率を出すべきではないという議論もあった。
南海トラフ地震は3.11以降に範囲が広がった。

図9 南海トラフ地震の想定範囲
人的被害は32万人にも増加した。
想定の科学的な妥当性はあるのか。
社会の認知はあるのか。
臨時情報に関する社会の認知は低い。
アナウンス効果が逆に事前に情報が出るのではないか、との誤解を生む可能性もある、と説明した。
7-06では「この 10 年間における日本地震学会の取組と地震研究の進捗」というタイトルで、日本地震学会の小原氏が発表した。
3.11は想定していなかった。
学会員みんなはショックを受けた。
学会への批判も多かった。
なぜ予知できなかったのか。
M9.0の想定はなかった。
地震学の未熟さが露呈した。
会員から意見を募集した。
出された意見を集約してモノグラフ(集約論文)として公表した。
対応委員会を発足した。
地震学の現状を社会に伝えた。
重要課題を議論した。
原発、東海地震、南海トラフ地震である。
南海トラフ地震では臨時情報を出すこととした。
半割れ(西側が割れてそれが東に連動しておきる甚大な被害が出る地震)、一部割れ(半割れより規模が小さい)、ゆっくりすべりの3つに防災対応を検討した。
研究発表会も開いた。
地震研究の一部を紹介する。

図10 地震研究の進捗状況
M9.0は当時の推定を覆した連鎖的な拡大であった。
起こりうる最大規模の評価を行う。
海域における測定技術の高度化を進めている。
合わせてリアルタイム警報の高度化も行っている、と説明した。
7-07では「日本地球惑星科学連合の巨大地震・激甚災害への取組」というタイトルで、日本地球惑星科学連合の松本氏が発表した。
この連合は51の学協会の連合体である。
激甚災害に対応すべく委員会が2008年に設置された。
今日発表している11学会も加盟している。
和文ニュースレターJGLを発行している。
英文オンライン機関誌PEPSも2014年に創刊した。
3.11後の緊急対応について説明する。
3.11後の翌日に特設メールアドレスを設置した。
震災研究伝言板をWeb上に設置した。
1か月後に会員に現地調査の要請を行った。
義援金を募集し、被災地の中学・高校に送った。
連合で緊急セッションを開催した。
分野別の学術セッション、学際領域のユニオンセッション、一般参加のパブリックセッションを企画した。
2016年には熊本地震の緊急セッションを開催した。
パブリックセッションで、激甚化する災害にどう取り組むかを議論した。
福島原発事故における放射能分布についてのニュースレターも発行した、と説明した。
7-08では「災害対応ロボティクスの現状と課題」というタイトルで、日本ロボット学会の松野氏が発表した。
この学会は1983年に設立された。
阪神淡路大震災はロボット学会が初めて対面した地震だった。
ロボットに何ができるか。
知的移動体であり、レスキューロボットや地理情報システム等の融合インテグレーションが重要になる。
日本ロボット学会誌を発行している。
東日本大震災は地震と津波ということで、阪神淡路大震災とは異なる災害である。
3.11後に八戸に入った。
水中ロボで水中のガレキの調査を行った。
東日本大震災は地震、津波、原発事故の巨大複合災害である。
放射能の飛散があり、ロボットに対する期待が大きかった。
事故直後やその後の廃炉作業に多くのロボットが使われた。

図11 福島原発事故後に使われたロボット

図12 福島原発事故後の廃炉作業に使われたロボット
3.11後に日本のロボットが活躍しないといわれた。
無人のクローラダンプや無人化施工機械は導入された。
無人化施工機械は1993年の雲仙普賢岳噴火の時に使われた。
災害ロボットには地上ロボ、水中ロボ、上空ロボ等への要求がある。
そのためには可搬性、電源、ロジスティクス(物流の高度化により需要と供給のバランスをとること)等の課題を解決する必要がある。
すべてのフェーズを踏まえたシステム作りが必要になる。
西日本豪雨ではヘビ型ロボットが使われた。

図13 緊急時と日常で使われるロボットの例
通常はダクト点検等を行う。
被災者のメンタルケアの例ではパロ(犬型ぬいぐるみ風ロボット)が使われた。

図14 ロボット犬パロ
平常時と緊急時のデュアルユースを目指し、安全で安心な社会を構築する、と説明した。
7-09では「東日本大震災以降の災害時における航空運用の現状と課題」というタイトルで、日本航空宇宙学会の小林氏が発表した。
JAXAと連携している。
3.11ではドクターヘリが活用された。
ヘリを持つ自衛隊、消防、警察、民間等の機関の連携をとった。
1日300機のヘリが活動した。
災害時の航空運用の課題は情報をいかに共有するか、どれを優先するか、ということがある。

図15 航空機の運用の課題
広域・複数の被災地への対応が必要になる。
ドローンとの情報共有、機体と地上の情報共有、消防の情報を警察がいかに共有できるか、がある。
そこでD-NETができた。

図16 D-NETの概要
地上の情報を集約し、それを衛星に送信し、別の地上の機関に送信する。
2011東日本大震災、2016年熊本地震、2017年九州北部豪雨、2020年の7月豪雨を経て、被災地と省庁間の情報共有、有人機と無人機の情報共有が進んだ。
今後の課題としては、他システムとの連携、新しい技術の運用機関を増やす、悪天候時の技術の開発などがある、と説明した。
7-10では「災害廃棄物対策の歩みと今後に向けた課題、展望」というタイトルで、廃棄物資源循環学会の大迫氏が発表した。
災害廃棄物対策について説明する。
東日本大震災では数千万トンの災害廃棄物が発生し、処理に3年かかると言われている。

図17 東日本大震災での災害廃棄物の例
1兆円を超えるコストがかかる。
自然災害はもはや非定常ではない。
3.11では3100万トン、熊本地震では300万トン、昨年の台風では167万トン発生した。
災害廃棄物対策の重要性が言われる。
公衆衛生の面からの問題もある。
分別・排出から仮置き場へ移動し、仮置き場で選別し、処理・処分やリサイクルとなる。
平成27年に法改正が行われ、大規模な災害は国が処理を行うことになった。
災害の時は環境省が司令塔となる。
D.Waste-Net(災害廃棄物処理支援ネットワーク)の枠組みができた。

図18 D.Waste-Netの概要
国の人材バンク制度もできた。
今後の課題は社会の脆弱化(少子高齢化、地域力の疲弊等)の修復である、と説明した。
7-11では「COVID-19 に対する公衆衛生と医療の関係を展望する」というタイトルで、日本公衆衛生学会の高鳥毛氏が発表した。
コロナ(COVID-19)とDHEATについて説明する。
なぜ阪神淡路大震災なのか。
公衆衛生の制度が変化したからである。
1996年にO-157が出てきた。
2009年には新型インフルエンザが出てきた。
阪神淡路大震災で災害医療が発達してきた。

図19 保健行政と災害行政の体制
全国の保健師の応援・派遣活動が行われるようになった。
東日本大震災では自治体の公衆衛生活動支援チーム(DHEAT)が創設された。
(DHEAT:Disaster Health Emergency Assistance Team、正式には災害時健康危機管理支援チーム)
3.11後に公衆衛生有識者でパブリックヘルスフォーラムが立ち上げられた。
保健所は縮小されて活動できる人がいなかった。
3.11ではいろいろなシステムができたが、複合災害だった。
地域の保健・医療・介護体制と被災者支援が必要になった。
公衆衛生のガバナンス主体の変化があり、すべてのことを市町村が実施しなければならなかったが、それらがすべて壊滅した。
自治体機能を一から作り直さないといけなくなった。
超高齢社会に対応した被災者の支援体制が課題であった。

図20 被災者の支援活動の状況
南相馬では高齢者が多かった。
福島に保健師が来ない事態にもなった。
今はコロナ下で救急医療・災害医療の確立が求められている、と説明した。
7-12では「新たに認識された防ぎ得る災害死」というタイトルで、日本災害医学会の大友氏が発表した。
災害医学会は1995年の阪神淡路大震災後に発足した。
避けられた災害死が約500名いた可能性があった。
災害医療が阪神淡路大震災で機能しなかった。
住民の共助が多かった。
被災地の病院は断水していた。
だから重症者の治療ができなかった。
治療できれば助かった命があった。
災害医療を担う病院がなかった。
そこでDMATができた。

図21 DMATの体制
EMIS(広域災害救急医療情報システム)が整備された。
3.11前には災害医療体制が整備されていた。
石巻赤十字病院における患者の推移では1か月で約9,000人になった。
3.11では直接死が18,000人、災害関連死が3,500人いた。
避難所の環境は1995年後に変化はなかった。

図22 阪神淡路大震災と東日本大震災の被災者の比較
防ぎうる災害関連死があった。
急性期医療はDMATが担ったが、慢性期医療には問題があった。
保健医療に携わる人も参画するようになった。
避難所のアンケートも取った。
要支援者の心のケア等も重要になる。
熊本地震では災害関連死は避難者18万人いて、167人と減少できた。
大規模災害における保健医療活動の体制を医療と保険の連携を行う必要がある、と説明した。
これで(その4)を終了とする。
全体をまとめてみると、防災・予防、災害時対応、復興の3つの分野での発表に分類できる。

図23 防災学術連携体の発表のテーマ別マップ
やはり学会としては、3.11より得た教訓を首都直下地震や南海トラフ地震に備える方向ではないかと思う。
また、全体として、他学会と連携という点で、みなてんでバラバラである。
7-01で土木学会が他の学会の論文の比較を行い、ネットワーク作りをしていた。
この活動の中に他学会の活動も集約して行えれば効果的になると思えるのだが、学会のプライドが邪魔をしているように思う。
もうすぐ東日本大震災から10年になる。
多くの人の生活が変化したであろう。
私自身も会社を退職し、「放射線何でも相談室」を立ち上げて、福島原発事故の復旧・復興の後方支援をしたいと思っていたが、現実にはなかなか力になれなかったと思う。
しかし、何もしないで後悔するよりやって後悔した方がいい、と、NHK朝ドラの1つ前の「エール」の中でヒロインのお父さんが言っていたことを、そうだなと思う。
これからも福島の復興を願って微力でもいいから努力していきたいと思う。
<日本学術会議主催学術フォーラム・第11回防災学術連携シンポジウム>
「東日本大震災からの十年とこれから-58学会、防災学術連携体の活動-」
“10 Years Memorial and Beyond Great East Japan Earthquake Disaster” 58 Academic Societies and Japan Academic Network for Disaster Reduction
1.日時:2021年(令和3年)1月14日(木)10:00~18:30
2.会場:オンライン
3.主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会、土木工学・建築学委員会、防災学術連携体(58学会)
4.参加費:無料
5.申込み方法:事前に参加申し込みをお願いします。
6.概要
2011年東日本大震災の甚大な被害から十年が過ぎる。
この期間にも日本の各地で多くの自然災害が発生した。
これらの災害について、多くの学会は調査研究、記録、提言、支援などを続けてきた。
大震災後10年を迎えるにあたり、防災学術連携体の各構成学会と防災減災学術連携委員会の委員が、東日本大震災の経験とその後の活動への展開を振り返り、今後の取り組みについて発表する。
同時に、防災学術連携体の前身である「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」の30学会共同声明(2012年5月)を振り返り、今後の防災・減災、学会連携について議論する。
7.プログラム
10:00 【開会挨拶】 防災学術連携体代表幹事 大友康裕
10:05 【来賓挨拶】 内閣府 防災担当政策統括官 青柳一郎
10:10 【開会講演】 日本学術会議第 22/23 期会長 大西 隆
10:20 【日本学術会議、防災学術連携体の活動総括】
防災学術連携体代表幹事 米田雅子
10:30 【各学会からの発表】(後述)
18:15 【まとめ】 防災学術連携体運営幹事 和田 章
18:25 【閉会挨拶】 防災学術連携体副代表幹事 森本章倫
18:30 【終了】
【各学会からの発表】 ( 予定 )
10:30-12:00 1.東日本大震災の全容解明と十年間の復旧・復興の総括
1-01 社会的モニタリングとアーカイブ 日本学術会議社会学委員会東日本大震災後の社会的モニタリングと復興の課題検討分科会 青柳みどり
1-02 災害記録の分野を横断した共有について 横断型基幹科学技術研究団体連合 出口光一郎
1-03 日本海洋学会による震災復興への取り組み 日本海洋学会 神田穣太
1-04 日本計画行政学会における防災・減災と復旧・復興のための活動 日本計画行政学会 山本佳世子
1-05 復興に資する学会の研究実践―被災に寄り添い積極果敢に参与する支援・研究― 日本災害復興学会 大矢根淳
1-06 宇宙から捉えた東日本大震災の被災状況とその後の復興 日本リモートセンシング学会 伊東明彦
1-07 高田松原津波復興祈念公園の事例から考える震災復興とグリーンインフラ 日本緑化工学会 島田直明
1-08 東日本大震災を踏まえた農業・農村の復興と新たな防災・減災技術 農業農村工学会 鎌田知也
1-09 東日本大震災後の人々の健康 日本災害看護学会 酒井明子
12:00-13:00 休 憩
13:00-13:40 2 .原子力発電所事故後の対応と放射能汚染の長期的影響
2-01 福島第一原子力発電所事故後の原子力学会の取り組み 日本原子力学会 中島健
2-02 日本地震工学会研究委員会の活動:原子力発電所の地震安全の基本原則の提案と実践 日本地震工学会 高田毅士
2-03 原子力関連施設事故に伴う放射性物質の拡散監視・予測技術の強化に向けて 日本気象学会 近藤裕昭
2-04 原発事故による森林の放射能汚染の影響と教訓 日本森林学会 三浦覚
13:40-14:00 3 .東電福島第一原発事故被災地域の現状と復興
3-01 原子力災害研究と東日本大震災・原子力災害伝承館の今後の取り組み 日本災害情報学会 関谷直也
3-02 福島原発事故と復興政策-10 年間の検証- 日本地域経済学会 山川充夫
14:00-14:50 4.東日本大震災が社会に与えた影響と今後の長期的影響
4-01 震災と原発事故災害からの復興を問い、レジリエントな建築・まちづくりを考える 日本建築学会 久田嘉章・川﨑興太・糸長浩司
4-02 災害から学び、災害に備える 地理情報システム学会 大佛俊泰
4-03 砂防学会における東日本大震災関連の取り組み 砂防学会 小杉賢一朗
4-04 東日本大震災で認識された宅地地盤における地震対策の重要性 地盤工学会 安田 進
4-05 東日本大震災後の古津波堆積物研究の現状と将来展望 日本地質学会 後藤和久
14:50-15:20 5.自然災害軽減と復旧・復興に関わる提言
5-01 東日本大震災発生後の学校安全の推進に関する研究と実践 日本安全教育学会 佐藤健・藤岡達也・矢崎良明・戸田芳雄
5-02 東日本大震災を契機とした災害廃棄物/災害発生土への対応の変化とこれから 日本応用地質学会 登坂博行
5-03 地震地すべりの減災ー過去に学び、地域とグローバルの視点で考える 日本地すべり学会 檜垣大助
15:20-15:35 休 憩
15:35-16:15 6.わが国の国土・都市計画、まちづくり、人づくりと防災・減災対策
6-01 地域安全学会における東日本大震災への取り組みと今後の展望 地域安全学会 村尾 修
6-02 ランドスケープ科学が担う中長期的復興支援:コミュニティの再建から記憶の継承と新たな国土像の創造まで 日本造園学会 秋田典子
6-03 東日本大震災から 10 年のハザードマップの発展 ~それは「ハザードマップを信じるな」から始まった 日本地図学会 宇根寛
6-04 防災概念の変革期における地理学の役割と戦略 日本地理学会 鈴木康弘
16:15-18:15 7.今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進
7-01 JSCE2020 防災プロジェクトについて 土木学会 目黒公郎
7-02 東日本大震災の火災被害とその後 10 年間の地震火災研究 日本火災学会 廣井 悠
7-03 東日本大震災以降の日本活断層学会の取り組みと今後の展望 日本活断層学会 宮内崇裕
7-04 東日本大震災からの機械分野の取り組みと今後の課題 日本機械学会 古屋 治
7-05 立ち止まって考える南海トラフ巨大地震と西日本の地震防災 日本自然災害学会 橋本 学
7-06 この 10 年間における日本地震学会の取組と地震研究の進捗 日本地震学会 小原一成
7-07 日本地球惑星科学連合の巨大地震・激甚災害への取り組み 日本地球惑星科学連合(JpGU)松本 淳
7-08 災害対応ロボティクスの現状と課題 日本ロボット学会 松野文俊
7-09 東日本大震災以降の災害時における航空運用の現状と課題 日本航空宇宙学会 小林啓二
7-10 災害廃棄物対策の歩みと今後に向けた課題、展望 廃棄物資源循環学会 大迫政浩
7-11 COVID-19 に対する公衆衛生と医療の関係を展望する 日本公衆衛生学会 高鳥毛敏雄
7-12 新たに認識された防ぎ得る災害死 日本災害医学会 大友康裕10:00 【開会挨拶】 防災学術連携体代表幹事 大友康裕
-以上-
今回は(その4:最後)について書く。
(その1)(その2)(その3)を読んだ方は以下は飛ばしてください。
昨年の11月25日(水)に防災学術連携体から上記のシンポの案内メールが来た。
メインテーマは「東日本大震災からの10年とこれから」というもので、今年3月でちょうど10年の節目になるので、いいタイミングである。
その時にすぐに参加の申し込みをした。
しかし、このシンポジウムは午前10時から18時半までの長丁場である。
しかも39学会の発表があり、1つの学会の発表時間が10分と短い。
よほどコンパクトに詰め込まないと、すぐにタイムオーバーしてしまう。
私もこのシンポの報告について、原子力学会の年会のように、4週に分けて書くこととする。
発表のプログラムの概要は以下のようになっている。
1.東日本大震災の全容解明と十年間の復旧・復興の総括(9件)
2.原子力発電所事故後の対応と放射能汚染の長期的影響(4件)
3.東電福島第一原発事故被災地域の現状と復興(2件)
4.東日本大震災が社会に与えた影響と今後の長期的影響(5件)
5.自然災害軽減と復旧・復興に関わる提言(3件)
6.わが国の国土・都市計画、まちづくり、人づくりと防災・減災対策(4件)
7.今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進(12件)
第1週(その1)はテーマ1の9件
第2週(その2)はテーマ2の4件とテーマ3の2件
第3週(その3)はテーマ4の5件、テーマ5の3件とテーマ6
第4週(その4)でテーマ7の12件
について書き、できればこれらのまとめも書いてみたい。
(その4)ではテーマ7として「今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進」についてである。
7-01では「JSCE2020 防災プロジェクトについて」というタイトルで、土木学会の目黒氏が発表した。
JSCE2020(土木学会5か年計画)プロジェクトについて説明する。
複合・巨大災害の全体像の解明と横断的対応体制の提案を行う。
土木学会は会員4万人いる。
我が国の自然災害の損失を見てみる。
関東大震災では約60億円で当時のGDPの40%くらいに当たる。
南海トラフ地震では土木学会の試算では約1500兆円、首都直下地震では約900兆円にもなり、国難災害と言える。

図1 南海トラフ地震の経済的な損失推定
江戸末期の黒船来航後に1854年に安政の南海トラフ地震が起きて、約3万人の犠牲者が出ている。
1855年に安政の首都直下地震が起きて、約1万人の犠牲者が出ている。
1856年に安政江戸暴風雨で高潮と台風の複合災害で約10万人の犠牲者が出ている。
1858年に江戸でコレラが大流行し、この安政のパンデミックで江戸だけで3~10万人の犠牲者が出ている。
複合災害が起きている状況でも、学問分野として細分化されている。
3.11では少数の専門分野だけでは無理である。
全体像の理解が必要である。
日本学術会議で専門委員会ができ、それから防災学術連携体の成立につながる。
国難的災害に取り組むために、分野横断の学際的体制を作り、全体像作りをしなければならない。
3.11において、東大有志で津波被災地の問題を検討した。
この全体像の構造は精度の高いものであり、有効と思われる。
しかし、この検討の視点は工学系だけで、それ以上の広がりに欠けていた。
国難的災害の全体像を作るために、46学会の論文を調べた。
これらの論文の関連論文ネットワークを作った。

図2 東日本大震災に関連した論文のネットワーク
検討の事例を示す。

図3 災害情報学会の検討例
学会ごとの領域の担当マップを作っている。
他の学会もこの活動に協力して欲しい、と説明した。
7-02では「東日本大震災の火災被害とその後 10 年間の地震火災研究」というタイトルで、日本火災学会の廣井氏が発表した。
火災学会は1950年に設立された。
3.11後に11回の調査ミーティングを経て、調査委員会を発足した。
津波火災の現地調査を行った。
常備消防に対する火災の質問を行い、情報収集した。
重油の流出における火災の火災実験を行った。
全体像の把握として、震災後1か月に発生した全火災3,162件を網羅的に調査した。
従来の火災と違うことが多かった。
この中から地震火災を398件抽出した。

図4 地震火災の状況
間接火災は64件であった。
津波火災は159件であった。
揺れに伴う火災は175件であった。
阪神淡路大震災では285件であるから、阪神淡路大震災を超える火災が発生したことがわかった。
阪神淡路大震災の延焼面積は65万m2、3.11では75万m2でこれも超えた。
地震火災の種類別件数を見ると、電気、ロウソク、ガレキ、車両によるものであった。
津波火災発生のメカニズムを検討した。

図5 津波火災のメカニズム
岩手県大槌町の例では、津波がガレキを押し流し、山際にこれらが押し付けられて発災した。
標高と火災の関連から見ると、7~10mの小山で火災が多かった。
宮城県石巻市の例では、車やプロパンガスが押し流されて発災した。
都市近郊型では車やプロパンによる火災が多い。
今後の取組としては糸魚川大規模火災の例が参考になる。
強風で飛び火が多く発生した。
地震津波、津波火災の研究に加えて、他の地域の地震火災調査、津波火災の予測の研究などが必要になる、と説明した。
7-03では「東日本大震災以降の日本活断層学会の取り組みと今後の展望」というタイトルで、日本活断層学会の宮内氏が発表した。
活断層学会は約300名の会員がいて、2007年に設立された。
社会との接点が多い学会である。
3.11では内陸型の地震が多発した。
3.11の1か月後に福島浜通りの地震は内陸型の活断層によるものである。
1995年以降のM7級の大地震を示すと2.3年に1回起きている。
江戸時代以降にM7級の大地震は20年に1回だったから、その10倍起きている。
平安時代以来の地震活動期に入っている。
活断層研究の進展により活断層が新たに見つかった例が岐阜・高山盆地などにみられる。
地下構造の解明などで伏在活断層が長岡平野で見つかった。
熊本地震は活断層の上で発生した。

図6 熊本地震での住宅被害の例
宇宙からの測地観測で地殻変動が見つかることもある。
熊本地震では地震断層と建物被害の相関があった。
技術向上の支援活動で、フォトコンテストなどを行った例がある、と説明した。
7-04では「東日本大震災からの機械分野の取り組みと今後の課題」というタイトルで、日本機械学会の古屋氏が発表した。
機械構造物の耐震性について説明する。
機械は固有振動数によって壊れる。
原子力分野では共振振動台を用いた弁強度の確認等を行っている。
高加速度、高荷重による耐震なども試験している。
こうした実験を通して機械系の耐震技術者の育成を図っている。
高圧ガス施設では、球形貯槽の火災・爆発事故が多いので、縮小試験体を用いた実験を行っている。

図7 高圧ガス施設の地盤解析
また高圧ガス施設での基礎地盤等の解析評価を行っている。
昇降機やエスカレーターでは安全尤度の検討が行われた。

図8 昇降機の被災の例
クレーン構造物では天井クレーンの被害が多発した。
押えボルトの変形・破断によるものが多かった。
機械学会の取組としては35,000名の会員で3.11では7つのワーキンググループを組織し、被害調査を行った。
これまで防災の常設委員会がなかったため、2019年には防災・減災委員会を発足させ、被害データの集約や耐震基準の比較等を行っている、と説明した。
7-05では「立ち止まって考える南海トラフ巨大地震と西日本の地震防災」というタイトルで、日本自然災害学会の橋本氏が発表した。
この学会は1981年設立で会員は約700名である。
洪水被害が注目されている。
活動として、講演会、オープンフォーラム、学術情報誌発刊等を行っている。
開催場所に関連ある話題を取り上げている。
英文誌も発行している。
災害調査補助も行っている。
既往最大から最大クラスへと視点を変えて、想定外をなくす。
警戒宣言から臨時情報へとシフトした。
南海トラフ地震は今後30年間で70~80%は変更ない。
3.11以降の時系列を追った。
南海トラフ地震での最大34mの津波想定は3.31ショックと言われる。
確度の高い予測は困難として、2015年に「予知」という用語を削除した。
2016年に熊本地震、2018年に北海道地震、大阪地震と起こり、委員会内外からクレームがついた。
確率を出すべきではないという議論もあった。
南海トラフ地震は3.11以降に範囲が広がった。

図9 南海トラフ地震の想定範囲
人的被害は32万人にも増加した。
想定の科学的な妥当性はあるのか。
社会の認知はあるのか。
臨時情報に関する社会の認知は低い。
アナウンス効果が逆に事前に情報が出るのではないか、との誤解を生む可能性もある、と説明した。
7-06では「この 10 年間における日本地震学会の取組と地震研究の進捗」というタイトルで、日本地震学会の小原氏が発表した。
3.11は想定していなかった。
学会員みんなはショックを受けた。
学会への批判も多かった。
なぜ予知できなかったのか。
M9.0の想定はなかった。
地震学の未熟さが露呈した。
会員から意見を募集した。
出された意見を集約してモノグラフ(集約論文)として公表した。
対応委員会を発足した。
地震学の現状を社会に伝えた。
重要課題を議論した。
原発、東海地震、南海トラフ地震である。
南海トラフ地震では臨時情報を出すこととした。
半割れ(西側が割れてそれが東に連動しておきる甚大な被害が出る地震)、一部割れ(半割れより規模が小さい)、ゆっくりすべりの3つに防災対応を検討した。
研究発表会も開いた。
地震研究の一部を紹介する。

図10 地震研究の進捗状況
M9.0は当時の推定を覆した連鎖的な拡大であった。
起こりうる最大規模の評価を行う。
海域における測定技術の高度化を進めている。
合わせてリアルタイム警報の高度化も行っている、と説明した。
7-07では「日本地球惑星科学連合の巨大地震・激甚災害への取組」というタイトルで、日本地球惑星科学連合の松本氏が発表した。
この連合は51の学協会の連合体である。
激甚災害に対応すべく委員会が2008年に設置された。
今日発表している11学会も加盟している。
和文ニュースレターJGLを発行している。
英文オンライン機関誌PEPSも2014年に創刊した。
3.11後の緊急対応について説明する。
3.11後の翌日に特設メールアドレスを設置した。
震災研究伝言板をWeb上に設置した。
1か月後に会員に現地調査の要請を行った。
義援金を募集し、被災地の中学・高校に送った。
連合で緊急セッションを開催した。
分野別の学術セッション、学際領域のユニオンセッション、一般参加のパブリックセッションを企画した。
2016年には熊本地震の緊急セッションを開催した。
パブリックセッションで、激甚化する災害にどう取り組むかを議論した。
福島原発事故における放射能分布についてのニュースレターも発行した、と説明した。
7-08では「災害対応ロボティクスの現状と課題」というタイトルで、日本ロボット学会の松野氏が発表した。
この学会は1983年に設立された。
阪神淡路大震災はロボット学会が初めて対面した地震だった。
ロボットに何ができるか。
知的移動体であり、レスキューロボットや地理情報システム等の融合インテグレーションが重要になる。
日本ロボット学会誌を発行している。
東日本大震災は地震と津波ということで、阪神淡路大震災とは異なる災害である。
3.11後に八戸に入った。
水中ロボで水中のガレキの調査を行った。
東日本大震災は地震、津波、原発事故の巨大複合災害である。
放射能の飛散があり、ロボットに対する期待が大きかった。
事故直後やその後の廃炉作業に多くのロボットが使われた。

図11 福島原発事故後に使われたロボット

図12 福島原発事故後の廃炉作業に使われたロボット
3.11後に日本のロボットが活躍しないといわれた。
無人のクローラダンプや無人化施工機械は導入された。
無人化施工機械は1993年の雲仙普賢岳噴火の時に使われた。
災害ロボットには地上ロボ、水中ロボ、上空ロボ等への要求がある。
そのためには可搬性、電源、ロジスティクス(物流の高度化により需要と供給のバランスをとること)等の課題を解決する必要がある。
すべてのフェーズを踏まえたシステム作りが必要になる。
西日本豪雨ではヘビ型ロボットが使われた。

図13 緊急時と日常で使われるロボットの例
通常はダクト点検等を行う。
被災者のメンタルケアの例ではパロ(犬型ぬいぐるみ風ロボット)が使われた。

図14 ロボット犬パロ
平常時と緊急時のデュアルユースを目指し、安全で安心な社会を構築する、と説明した。
7-09では「東日本大震災以降の災害時における航空運用の現状と課題」というタイトルで、日本航空宇宙学会の小林氏が発表した。
JAXAと連携している。
3.11ではドクターヘリが活用された。
ヘリを持つ自衛隊、消防、警察、民間等の機関の連携をとった。
1日300機のヘリが活動した。
災害時の航空運用の課題は情報をいかに共有するか、どれを優先するか、ということがある。

図15 航空機の運用の課題
広域・複数の被災地への対応が必要になる。
ドローンとの情報共有、機体と地上の情報共有、消防の情報を警察がいかに共有できるか、がある。
そこでD-NETができた。

図16 D-NETの概要
地上の情報を集約し、それを衛星に送信し、別の地上の機関に送信する。
2011東日本大震災、2016年熊本地震、2017年九州北部豪雨、2020年の7月豪雨を経て、被災地と省庁間の情報共有、有人機と無人機の情報共有が進んだ。
今後の課題としては、他システムとの連携、新しい技術の運用機関を増やす、悪天候時の技術の開発などがある、と説明した。
7-10では「災害廃棄物対策の歩みと今後に向けた課題、展望」というタイトルで、廃棄物資源循環学会の大迫氏が発表した。
災害廃棄物対策について説明する。
東日本大震災では数千万トンの災害廃棄物が発生し、処理に3年かかると言われている。

図17 東日本大震災での災害廃棄物の例
1兆円を超えるコストがかかる。
自然災害はもはや非定常ではない。
3.11では3100万トン、熊本地震では300万トン、昨年の台風では167万トン発生した。
災害廃棄物対策の重要性が言われる。
公衆衛生の面からの問題もある。
分別・排出から仮置き場へ移動し、仮置き場で選別し、処理・処分やリサイクルとなる。
平成27年に法改正が行われ、大規模な災害は国が処理を行うことになった。
災害の時は環境省が司令塔となる。
D.Waste-Net(災害廃棄物処理支援ネットワーク)の枠組みができた。

図18 D.Waste-Netの概要
国の人材バンク制度もできた。
今後の課題は社会の脆弱化(少子高齢化、地域力の疲弊等)の修復である、と説明した。
7-11では「COVID-19 に対する公衆衛生と医療の関係を展望する」というタイトルで、日本公衆衛生学会の高鳥毛氏が発表した。
コロナ(COVID-19)とDHEATについて説明する。
なぜ阪神淡路大震災なのか。
公衆衛生の制度が変化したからである。
1996年にO-157が出てきた。
2009年には新型インフルエンザが出てきた。
阪神淡路大震災で災害医療が発達してきた。

図19 保健行政と災害行政の体制
全国の保健師の応援・派遣活動が行われるようになった。
東日本大震災では自治体の公衆衛生活動支援チーム(DHEAT)が創設された。
(DHEAT:Disaster Health Emergency Assistance Team、正式には災害時健康危機管理支援チーム)
3.11後に公衆衛生有識者でパブリックヘルスフォーラムが立ち上げられた。
保健所は縮小されて活動できる人がいなかった。
3.11ではいろいろなシステムができたが、複合災害だった。
地域の保健・医療・介護体制と被災者支援が必要になった。
公衆衛生のガバナンス主体の変化があり、すべてのことを市町村が実施しなければならなかったが、それらがすべて壊滅した。
自治体機能を一から作り直さないといけなくなった。
超高齢社会に対応した被災者の支援体制が課題であった。

図20 被災者の支援活動の状況
南相馬では高齢者が多かった。
福島に保健師が来ない事態にもなった。
今はコロナ下で救急医療・災害医療の確立が求められている、と説明した。
7-12では「新たに認識された防ぎ得る災害死」というタイトルで、日本災害医学会の大友氏が発表した。
災害医学会は1995年の阪神淡路大震災後に発足した。
避けられた災害死が約500名いた可能性があった。
災害医療が阪神淡路大震災で機能しなかった。
住民の共助が多かった。
被災地の病院は断水していた。
だから重症者の治療ができなかった。
治療できれば助かった命があった。
災害医療を担う病院がなかった。
そこでDMATができた。

図21 DMATの体制
EMIS(広域災害救急医療情報システム)が整備された。
3.11前には災害医療体制が整備されていた。
石巻赤十字病院における患者の推移では1か月で約9,000人になった。
3.11では直接死が18,000人、災害関連死が3,500人いた。
避難所の環境は1995年後に変化はなかった。

図22 阪神淡路大震災と東日本大震災の被災者の比較
防ぎうる災害関連死があった。
急性期医療はDMATが担ったが、慢性期医療には問題があった。
保健医療に携わる人も参画するようになった。
避難所のアンケートも取った。
要支援者の心のケア等も重要になる。
熊本地震では災害関連死は避難者18万人いて、167人と減少できた。
大規模災害における保健医療活動の体制を医療と保険の連携を行う必要がある、と説明した。
これで(その4)を終了とする。
全体をまとめてみると、防災・予防、災害時対応、復興の3つの分野での発表に分類できる。

図23 防災学術連携体の発表のテーマ別マップ
やはり学会としては、3.11より得た教訓を首都直下地震や南海トラフ地震に備える方向ではないかと思う。
また、全体として、他学会と連携という点で、みなてんでバラバラである。
7-01で土木学会が他の学会の論文の比較を行い、ネットワーク作りをしていた。
この活動の中に他学会の活動も集約して行えれば効果的になると思えるのだが、学会のプライドが邪魔をしているように思う。
もうすぐ東日本大震災から10年になる。
多くの人の生活が変化したであろう。
私自身も会社を退職し、「放射線何でも相談室」を立ち上げて、福島原発事故の復旧・復興の後方支援をしたいと思っていたが、現実にはなかなか力になれなかったと思う。
しかし、何もしないで後悔するよりやって後悔した方がいい、と、NHK朝ドラの1つ前の「エール」の中でヒロインのお父さんが言っていたことを、そうだなと思う。
これからも福島の復興を願って微力でもいいから努力していきたいと思う。
<日本学術会議主催学術フォーラム・第11回防災学術連携シンポジウム>
「東日本大震災からの十年とこれから-58学会、防災学術連携体の活動-」
“10 Years Memorial and Beyond Great East Japan Earthquake Disaster” 58 Academic Societies and Japan Academic Network for Disaster Reduction
1.日時:2021年(令和3年)1月14日(木)10:00~18:30
2.会場:オンライン
3.主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会、土木工学・建築学委員会、防災学術連携体(58学会)
4.参加費:無料
5.申込み方法:事前に参加申し込みをお願いします。
6.概要
2011年東日本大震災の甚大な被害から十年が過ぎる。
この期間にも日本の各地で多くの自然災害が発生した。
これらの災害について、多くの学会は調査研究、記録、提言、支援などを続けてきた。
大震災後10年を迎えるにあたり、防災学術連携体の各構成学会と防災減災学術連携委員会の委員が、東日本大震災の経験とその後の活動への展開を振り返り、今後の取り組みについて発表する。
同時に、防災学術連携体の前身である「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」の30学会共同声明(2012年5月)を振り返り、今後の防災・減災、学会連携について議論する。
7.プログラム
10:00 【開会挨拶】 防災学術連携体代表幹事 大友康裕
10:05 【来賓挨拶】 内閣府 防災担当政策統括官 青柳一郎
10:10 【開会講演】 日本学術会議第 22/23 期会長 大西 隆
10:20 【日本学術会議、防災学術連携体の活動総括】
防災学術連携体代表幹事 米田雅子
10:30 【各学会からの発表】(後述)
18:15 【まとめ】 防災学術連携体運営幹事 和田 章
18:25 【閉会挨拶】 防災学術連携体副代表幹事 森本章倫
18:30 【終了】
【各学会からの発表】 ( 予定 )
10:30-12:00 1.東日本大震災の全容解明と十年間の復旧・復興の総括
1-01 社会的モニタリングとアーカイブ 日本学術会議社会学委員会東日本大震災後の社会的モニタリングと復興の課題検討分科会 青柳みどり
1-02 災害記録の分野を横断した共有について 横断型基幹科学技術研究団体連合 出口光一郎
1-03 日本海洋学会による震災復興への取り組み 日本海洋学会 神田穣太
1-04 日本計画行政学会における防災・減災と復旧・復興のための活動 日本計画行政学会 山本佳世子
1-05 復興に資する学会の研究実践―被災に寄り添い積極果敢に参与する支援・研究― 日本災害復興学会 大矢根淳
1-06 宇宙から捉えた東日本大震災の被災状況とその後の復興 日本リモートセンシング学会 伊東明彦
1-07 高田松原津波復興祈念公園の事例から考える震災復興とグリーンインフラ 日本緑化工学会 島田直明
1-08 東日本大震災を踏まえた農業・農村の復興と新たな防災・減災技術 農業農村工学会 鎌田知也
1-09 東日本大震災後の人々の健康 日本災害看護学会 酒井明子
12:00-13:00 休 憩
13:00-13:40 2 .原子力発電所事故後の対応と放射能汚染の長期的影響
2-01 福島第一原子力発電所事故後の原子力学会の取り組み 日本原子力学会 中島健
2-02 日本地震工学会研究委員会の活動:原子力発電所の地震安全の基本原則の提案と実践 日本地震工学会 高田毅士
2-03 原子力関連施設事故に伴う放射性物質の拡散監視・予測技術の強化に向けて 日本気象学会 近藤裕昭
2-04 原発事故による森林の放射能汚染の影響と教訓 日本森林学会 三浦覚
13:40-14:00 3 .東電福島第一原発事故被災地域の現状と復興
3-01 原子力災害研究と東日本大震災・原子力災害伝承館の今後の取り組み 日本災害情報学会 関谷直也
3-02 福島原発事故と復興政策-10 年間の検証- 日本地域経済学会 山川充夫
14:00-14:50 4.東日本大震災が社会に与えた影響と今後の長期的影響
4-01 震災と原発事故災害からの復興を問い、レジリエントな建築・まちづくりを考える 日本建築学会 久田嘉章・川﨑興太・糸長浩司
4-02 災害から学び、災害に備える 地理情報システム学会 大佛俊泰
4-03 砂防学会における東日本大震災関連の取り組み 砂防学会 小杉賢一朗
4-04 東日本大震災で認識された宅地地盤における地震対策の重要性 地盤工学会 安田 進
4-05 東日本大震災後の古津波堆積物研究の現状と将来展望 日本地質学会 後藤和久
14:50-15:20 5.自然災害軽減と復旧・復興に関わる提言
5-01 東日本大震災発生後の学校安全の推進に関する研究と実践 日本安全教育学会 佐藤健・藤岡達也・矢崎良明・戸田芳雄
5-02 東日本大震災を契機とした災害廃棄物/災害発生土への対応の変化とこれから 日本応用地質学会 登坂博行
5-03 地震地すべりの減災ー過去に学び、地域とグローバルの視点で考える 日本地すべり学会 檜垣大助
15:20-15:35 休 憩
15:35-16:15 6.わが国の国土・都市計画、まちづくり、人づくりと防災・減災対策
6-01 地域安全学会における東日本大震災への取り組みと今後の展望 地域安全学会 村尾 修
6-02 ランドスケープ科学が担う中長期的復興支援:コミュニティの再建から記憶の継承と新たな国土像の創造まで 日本造園学会 秋田典子
6-03 東日本大震災から 10 年のハザードマップの発展 ~それは「ハザードマップを信じるな」から始まった 日本地図学会 宇根寛
6-04 防災概念の変革期における地理学の役割と戦略 日本地理学会 鈴木康弘
16:15-18:15 7.今後の防災・減災分野の研究のあり方、諸分野の連携のさらなる推進
7-01 JSCE2020 防災プロジェクトについて 土木学会 目黒公郎
7-02 東日本大震災の火災被害とその後 10 年間の地震火災研究 日本火災学会 廣井 悠
7-03 東日本大震災以降の日本活断層学会の取り組みと今後の展望 日本活断層学会 宮内崇裕
7-04 東日本大震災からの機械分野の取り組みと今後の課題 日本機械学会 古屋 治
7-05 立ち止まって考える南海トラフ巨大地震と西日本の地震防災 日本自然災害学会 橋本 学
7-06 この 10 年間における日本地震学会の取組と地震研究の進捗 日本地震学会 小原一成
7-07 日本地球惑星科学連合の巨大地震・激甚災害への取り組み 日本地球惑星科学連合(JpGU)松本 淳
7-08 災害対応ロボティクスの現状と課題 日本ロボット学会 松野文俊
7-09 東日本大震災以降の災害時における航空運用の現状と課題 日本航空宇宙学会 小林啓二
7-10 災害廃棄物対策の歩みと今後に向けた課題、展望 廃棄物資源循環学会 大迫政浩
7-11 COVID-19 に対する公衆衛生と医療の関係を展望する 日本公衆衛生学会 高鳥毛敏雄
7-12 新たに認識された防ぎ得る災害死 日本災害医学会 大友康裕10:00 【開会挨拶】 防災学術連携体代表幹事 大友康裕
-以上-
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