放射能なんて怖くない(前編)

 放射能なんて怖くない(前編)

 このタイトルは原子力学会に投稿した資料のものである。
 福島原発事故の放射能の基本となる事項を整理して、放射能が怖くないことを説明したものである。
 学会からは新規性がないということで却下された。
 ただ、福島県の人、また日本全国の人は放射能に恐怖を持っている人も多いと思う。
 そういう人に少しでも放射能のことを理解してもらえたらよいと思う。

 今週と来週の2回に分けて掲載する。
 今週はキーポイントの(1)から(4)までとし、来週は後編としてキーポイント(5)を掲載する。

1.はじめに
 福島原発事故において、今まであまりなじみのなかった放射能が身近になり、怖いと感じている人も多いと思う。
 そこで、放射能の正しい知識の一端を紹介する。
 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というように、放射能の正しい知識を持ってもらい、放射能はそんなに怖くないということを知ってもらいたいと思う。
 そこで、以下のような5つの簡単な項目を挙げて、その意味を(初級)(中級)(上級)にランク分けして説明する。

 ここで、(初級)とはあまり科学と縁のない人向けの説明である。
 私の妻や娘は文系であったので、あまり科学には詳しくない。
 妻や娘に説明するつもりで書いたものである。
 (中級)は多少科学の知識はあるが、原子力の知識はそんなに詳しく知っているわけではない人を対象とする。
 私の息子は理系の大学を出ているので、息子に説明するつもりで書いたものである。
 (上級)は原子力の専門家に向けて書いたものである。
 私は原子力分野に三十年間籍を置いていたので、専門家のつもりである。
 私の今まで得た知識を少し整理するつもりで書いたものである。

2.放射線に関するキーポイントの説明
 (1)セシウムはナトリウムの親戚である。
 (2)セシウムの放射線は紫外線と同じ電磁波である。
 (3)高山に住んでいる人の被ばくは平地より多いが、平地と変わらない生活を送っている。
 (4)広島・長崎の原爆やチェルノブイリ原発事故と福島原発事故の比較は適当ではない。
 (5)放射線に当たって細胞が一部壊れても、人間の体内の回復機能で回復する。

 以上の項目を順に説明する。

 (1)セシウムはナトリウムの親戚である。
(初級)
 セシウムは周期律表でナトリウムやカリウムと同一の列にあるように、ナトリウムやカリウムと同じ化学挙動をする。(図1参照)

1R2-9-27R1 1図1 周期律表.jpg
         図1 周期律表の一例

 わかりやすく言えば、ナトリウムやカリウムの親戚のようなものである。
 水で流せば、塩と同じように流れていく。
 でも、土の中の粘土等の成分と独自の結合をすると、動かないで安定したものとなる。
 人間の体内ではナトリウムと同じような動きをして、体内に蓄積せず、新陳代謝で排出されていく。
 ただし、セシウムが付着したほこりのようなものを吸って肺に入ると、排出しにくくなる。
 また、カリウムもナトリウムやセシウムの親戚であり、微量ではあるが天然の放射能(放射性核種)を持っている。
 カリウムはバナナ等の食物の中に多く含まれている。

(中級)
 セシウムは元素記号Csで原子番号55の元素であり、放射能のないものは原子量133である。
 (記号ではCs-133のように書く。ただし原子量133のように安定なものについては通常このような表記はしない。) 
 セシウムには中性子の数が違う同位体として、主にCs-137とCs-134がある。
 福島原発事故ではほぼ1:1の割合で放出された。(引用文献1:末尾に添付)
 前者の半減期は30.04年、後者は2.065年である。
 2年経つと、前者はほとんど変化ないが、後者は約半分となり、全体の線量として7割程度に減少する。

(上級)
 セシウムは土中で化学的に強固に吸着している。(引用文献2)

1R2-9-27R1 2図2 土壌中のセシウム.jpg
         図2 セシウムの土壌中の固定状況

 また、樹木の中では樹皮表面に吸着している。
 セシウムの放出時のセシウムの化学形態は不明である。
 私は当初ヨウ化セシウム(NaClと同じ化学形態でCsIと書く。)ではないかと思った。
 しかし、そうであるなら雨が降るとすぐに流れていくはずであるが、土中に留まっている。
 エアロゾルとかアモルファスではないか、との推測もある。
 枯葉を燃やすと、気体中に移行するセシウムは70%程度であり、ほとんどフィルター等で除去できる。(引用文献3&4)
 このセシウムの放射能を人工的に消滅させるには、原子炉等の中性子を使う。
 その熱中性子を吸収させてCs-138にすると、短半減期のBa-138となり、安定な同位体となる。
 また加速器を使って消滅させる方法もある。

 (2)セシウムの放射線は紫外線と同じ電磁波である。
(初級)
 紫外線も当たりすぎれば皮膚ガンになるが、少量であれば皮膚は回復する。
 それと同じように、セシウムの放射線も紫外線より少しエネルギーの高い電磁波である。
 少量であれば、人間にはあまり影響はない。
 福島で問題とされているのはセシウムのみである。
 9年経った今では平地はほぼ除染されてごく微量になっているので、必要以上におそれることはない。

(中級)
 Cs-137は主に0.514Mevのβ線を出して、Ba-137 mとなる。
 このBa-137 mはまだ不安定で、そこから0.662Mevのγ線を出してBa-137となり、安定となる。
 Cs-134は主にβ線0.658Mevを放出してBa-134となり、この同位体は安定な物質である。
 β線はアルミ金属程度で止まる。
 γ線は透過性が強く、鉛等で遮へいすることが多い。
 バリウムBaは胃の検査でも使われており、カルシウムCaの親戚なので、比較的取扱いやすいし、人体に無害である。

(上級)
 紫外線の波長は200-400nm(ナノメーター)である。
 Cs-137のγ線エネルギーは0.662Mevであるから、これは1.1×10E(-13) Jである。
 エネルギーE=hν(hはプランクの定数)であるから、Cs-137のγ線の振動数ν=1.6×10E20 Hz(s-1) 、c=λν(c:光の速度3.0×10E8m/s、λ:波長)から、このγ線は0.002 nmである。
 1個あたりの光のエネルギーとしては紫外線の約10万倍となるため、与える影響は紫外線よりはるかに大きい。

 (3)高山等に住んでいる人の被ばくは平地より多いが、平地と変わらない生活を送っている。
(初級)
 一般の人が平地で被ばくする線量は約2.4mSv/年(年間2.4ミリシーベルト)である。

1R2-9-27R1 3図3 自然放射線.jpg
         図3 普通の人が1年間に浴びる線量

 高い山に住んでいる人や花崗岩の多い地域に住んでいる人は、宇宙線や花崗岩から出る放射線で平地の人の数倍の量を浴びている。
 しかし、ガンが多く発生しているという話は聞かない。

1R2-9-27R1 4図4 ケララ疫学調査結果3.jpg
         図4 線量の高い地域での健康調査の例

 カリウムはバナナ、納豆、肉や魚等の中に含まれている成分だが、この中に微量の天然の放射能を含んでいる。
 通常これらの食物を食べると、必然的に放射能を身体に取り込んでいるが、健康に与える影響は特にない。

(中級)
 ブラジルのガラパリなどでは5mSv/年程度の線量を浴びているようである。
 しかし、これらの地域での発ガン率が多いという話は聞かない。(引用文献5)
 カリウムは牛肉の中に100Bq/kg(1㎏の中に100ベクレル)、魚の中に100Bq/kg、牛乳の中に50Bq/kg、ビールの中に10Bq/kgの放射能を含んでいる。(引用文献6)
 これらを毎日摂取しても、新陳代謝で排出されているから、蓄積するようなことはない。
 セシウムはカリウムの親戚だから、上記のような摂取をしていれば、何ら問題はない。

(上級)
 発がんの確率では、100mSv被ばくすることで0.1%程度増加するに過ぎない。(引用文献7)
 1日に1μSv/hの線量率の場所にいると、年間で8.8mSv/年となり、10年で上記の10倍で約100mSvとなる。
  (我が家で測定すると、0.04μSv/h程度であり、これが自然界の放射線レベルBGに近い値である。年間では約0.4mSvとなる。この他、食物摂取、宇宙線の飛来等の変動を平均して、年間に世界で2.4mSvとされている。)
 宇宙飛行士について、国際宇宙ステーション(ISS)滞在中は1日0.5~1mSv程度被ばくしているとされる。(引用文献8)
 半年滞在すると、約200mSvとなり、ガン発生割合が若干増加すると考えられる。

 (4)チェルノブイリ原発事故や広島・長崎の原爆被爆との比較は適当ではない。
(初級)
 チェルノブイリ原発事故は原子炉そのものが破壊されて、その中の核燃料、放射能(または死の灰)のかなりのものが放出された。
 また、広島ではウランを主とした核物質やその放射能が核爆発ですべて飛び散った。
 長崎での爆弾はプルトニウムを主とした核物質であり、やはり核爆発で核燃料や放射能がすべて飛び散った。

 両方の場合において、その当時の国や住民の放射能の知識が不十分だったために、事故後や原爆爆発後に、飲食物の摂取制限をしなかった。
 このため、住民は原子炉の爆発や原爆の爆発による直接の放射線だけでなかった。
 その後に核燃料や放射能で汚染された飲食物を摂取したために、体内にウラン、プルトニウム等の核燃料の元素、セシウムやストロンチウム等の死の灰と呼ばれる核分裂性の放射性物質が体内に残った。
 これらの内部被ばくも加わり、遺伝的な影響もより多く受けることになった。

 福島原発事故は建屋の爆発であり、核燃料のウラン等はほとんど外部に放出されていない。
 外部放出はセシウムとヨウ素がほとんどである。
 今はヨウ素の影響(放射能のヨウ素131は半減期8日程度)もあまり考えられない状況では、セシウムのみの影響があると考えられる。

 こうした事例は今までにない。
 チェルノブイリ事故や広島・長崎の原爆被災と福島原発事故の比較は遺伝的な面で恐怖ばかりあおるが、事例比較としては適当でないと思う。

 福島事故が起きてから、福島の子どもの甲状腺がんが通常の地域より多いのではないかという議論がある。
 しかし、これは医療機器の高度化により、従来見つからなかったものが見つかったことが大きい。
 また、福島以外では喉に異常があった子どもの受診で発見されるのに対して、福島では全部の子どもの受診による発見というためである。
 最初に検査を受ける状況が著しく異なることに起因している。
 福島県と他の県での甲状腺がんの発生比率に差はない。(引用文献9)

(中級)
 チェルノブイリ原発事故は原子炉そのものが破壊されて、その中の燃料、放射能がかなり放出された。
 また、広島ではウランの反応性の高いウラン235(U-235)がほぼ100%近くの物質が核分裂反応ですべて飛び散った。
 長崎ではプルトニウム239(Pu-239)が主原料の爆弾であった。
 両方の場合において、住民の放射能の知識が不十分だったために、事故後や原爆爆発後に、飲食物の摂取制限をほとんどしなかった。
 このために、住民は原爆の直接放射線だけでなく、その後の汚染した飲食物等を摂取し、ウラン、プルトニウム等の核燃料の元素、セシウムやストロンチウム等の死の灰と呼ばれる核分裂物質が体内に残り、遺伝的な影響を大きく受けることになったと考えられる。
 この中でプルトニウムは骨髄等に蓄積しやすく、ストロンチウムはカルシウムと同族であり、骨に沈着しやすい性質を持っている。

 福島原発事故は、建屋の爆発であり、外部放出はセシウムとヨウ素がほとんどであった。
 今はヨウ素の影響もあまり考えられない状況で、セシウムのみの影響があると考えられる。
 なお、原子力発電所で使用される核燃料はそのまま原子爆弾に転用しようと思っても、反応性のあるウラン235の濃度が3%程度と低く、90%以上の濃度がないと原爆として役に立たないようである。

(上級)
 チェルノブイリ原発の事故を起こした4号機からの放射能の放出は10日間続いた。(引用文献11&12)
 放射能の構成成分はガス、エアロゾル(微粒子)、燃料粒子が含まれていた。燃料は約180tが炉内に装荷されていた。
 ちょっと強引だが、BWRの使用済燃料の1g当たりの放射能を原子力百科事典ATOMICAから引用する。
  Cs-137:約1.0×10E10 Bq/g、Cs-134:約1.0×10E10 Bq/g、Sr-90:約5.0×10E9 Bq/g
が使用済燃料冷却後1年経った放射能量の概算である。
 チェルノブイリ4号機では装荷燃料の約1.5%が放出されたとみられている。
 このことから、燃料としては180t×0.015=2.7t=2.7×10E6 gが放出されたことになる。
 チェルノブイリ4号機で放出した放射能量はCs-137で2.7×10E16 Bq、Cs-134で2.7×10E16 Bq、Sr-90で1.4×10E16 Bq程度となるはずである。
 チェルノブイリ原発事故の報告書で記載されているのは、
  総量1.4×10E19 Bqであり、I-131が1.8×10E18 Bq、Cs-137とCs-134を合わせて8.5×10E16 Bq、Sr-90が1.0×10E16 Bqである。
 おおよそ正しいレベルにあると考えていいかもしれない。
 ちなみに、福島原発事故では旧原子力安全委員会の2011年4月の推定ではI-131が1.5×10E17Bq、Cs-137が1.2×10E16 Bqとしている。
 おおよそチェルノブイリ原発事故のおおよそ10分の1程度である。

 Wikipediaにおいて、公的な機関の発表を引用した各事故の放射能量比較がある。
 遺伝的影響に関係があり、骨に沈着するプルトニウム239は福島事故はチェルノブイリ事故の約4000分の1の放出量であり、ストロンチウム90は約70分の1のレベルである。
 また、環境省のHPでも福島原発事故での健康影響についての説明が記載されている。(引用文献13)
 これをみても、福島での原発近辺以外の地域で、健康に与える影響はほぼ通常の地域と変わらず、ないと考えられる。

-参考資料-
(1)河田燕他 Isotope News 2012年5月号 NO.697
(2)三倉通孝 東京電力福島第一原子力発電所事故後の環境回復の取り組み 2014年1月19日 「日本原子力学会シンポジウム」
(3)外崎他 「放射性セシウムによる森林や木材への影響について」日本森林学会
http://www.jwrs.org/woodience/mm023/tonosaki.pdf
(4)大迫政浩 国立環境研究所 「放射能汚染廃棄物」平成25年2月18日放射能汚染ジョイントセミナー 「焼却灰の放射能」
http://www.nies.go.jp/chiiki/houshano_seminer_files/06%20oosako_haikibutsu.pdf
(5)ATOMICA百科事典
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-07-03
(6)カリウム40 ATOMICA百科事典
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010403/01.gif
(7)2013年1月20日(日)にコラッセふくしま(福島市)で開催された本会シンポジウムにおける講演資料 「放射線の健康影響について」 酒井一夫(放射線医学総合研究所)
http://www.aesj.net/document/event-fukushima-pj-20130120sakai.pdf
(8)JAXA HP 放射線被ばく管理
iss.jaxa.jp/med/research/radiation/ (9)日本学術会議 報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」2017年9月1日
(10)日本学術会議 チェルノブイリ原発事故による環境への影響とその修復:20年の経験 2013年
(11)Wikipedia :チェルノブイリ事故と福島原発事故の比較
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%96%E3%82%A4%E3%83%AA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%AF%94%E8%BC%83
(12)原子力百科事典ATOMICA
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_04-07-01-02.html
(13)環境省の福島原発事故での環境影響評価
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-05a.html
 -以上-

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