原子力学会春の年会仮想参加その6(最終回)-発表内容の説明等
2020年原子力学会・春の年会は中止になった。
春の年会は新型コロナウイルスの影響で大規模な集会は控えるように、との国の要請を忖度した結果である。
その5に続いて、春の年会に参加したと仮想して、予稿集から学会で興味があった内容についての内容等の説明をしてみる。
期間は2020年の3/16(月)~3/18(水)の3日間で、福島大学で開催される予定であった。
今回は福島事故関連がデブリとか原発内のものが多く、環境に関連したものが少なかったように思う。
今回もプログラムや予稿集を見て、仮想聴講計画を立てた。
聴講スケジュールは以下の通りとした。
3/16(月) AM1 AM2 PM1 PM2 PM3
F医学応用 G福島農業 F医学応用 F環境放射能
N放射線の医学利用 J社会調査 Jコミュニケーション
3/17(火)
F環境放射能 K学会倫理 N光子計測 E福島県教育
I福島若者* F環境安全*
B汚染土壌* H核変換**
C新検査制度* (*は追加した項目、**:再追加)
3/18(水)
N医療応用 I福島復興 F放射能測定 -
F放射能測定 J核セキュリティ C原子力イノベーション***(追加)
AM1は9:30-10:45くらいにある発表、AM2は10:45-12:00くらいにある発表、
PM1は13:00-14:30にある特別セッション、PM2は14:45-16:00くらいにある発表、
PM3は16:00-17:30 くらいにある発表時間帯である。
各テーマについて整理してみる。
第一には、福島事故関連の情報収集である。
第二には、私が研究している核変換技術の情報収集と共同研究グループとの連携の検討である。
第三には、教育、といっても、私の研究の後継者探しという面が強い。(今回は無理)
第四には、興味があるものの聴講、今回の場合は放射線治療である。
その他として、トピックス的なものもミーハー的に仮想聴講した。
以下に仮想聴講順にメモ程度に書き留めていく。
長々と見たくない人は各ブログの末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。
今は新型コロナウイルスの影響でシンポジウム関係がほぼ中止なので、このブログもあまり詰め込まずにシリーズ的に順番に書いていく。
思いつくままに書いていたが、今回で最終回となる。
第1日目の午前の聴講内容は(その1)に書いた。
第1日目の午後の聴講内容は(その2)に書いた。
第2日目の午前と午後の一部の聴講内容は(その3)に書いた。
第2日目の午後の一部の聴講内容は(その4)に書いた。
第2日目の午後の一部と第3日の午前は聴講内容(その5)に書いた。
今回は第3日の午後から(その6:最終回)を書く。
第3日の午後はC会場で「原子力イノベーションの追求」のテーマで、発表が行われた。
このセッションは経済産業省と文部科学省の共催である。
3C_PL01~03では「原子力イノベーションに向けた経済産業省/文部科学省/JAEAの取組み」というタイトルで、経産省の舟木氏、文科省の清浦氏、JAEAの門馬氏が発表したのであるが、3者とも同じ文面なので一括りでよい。
2018 年改訂の「エネルギー基本計画」では、原子力が直面する多様な技術課題の解決に向けて積極的に取り組む必要があり、安全性・信頼性・効率性や再生可能エネルギーとの共存、水素製造や熱利用という原子力関連技術のイノベーションを促進するという観点が重要である。
これを踏まえ、経産省及び文科省は、2019年4月の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力小委員会において、「原子力イノベーションの追求について」の政策構想を打ち出し、JAEAとともに原子力イノベーションを加速するための環境整備(エコシステム)の取組みを開始した。
ここでは、関係機関における取組みを共有・議論することにより、原子力イノベーションの促進に向けたエコシステムのあり方などを広く議論し、今後の学会の役割への示唆を得ることを目的とする。
具体的には、経産省は、2019 年度に「革新的な原子力技術開発支援事業」、「原子力安全性向上の技術開発補助事業」を開始し、民間主体の革新炉の開発、安全対策高度化に繋がる研究開発の促進、特に事業成立性に関する調査(フィージビリティ調査)に取り組んでおり、参考となる海外諸国での取組み事例も紹介する。
文科省は、2019年8月の原子力科学技術委員会において「原子力イノベーションの実現に向けた研究開発・研究基盤・人材育成施策の見直しについて」として、原子力イノベーションを支える基礎基盤研究を戦略的に推進するため、現行の原子力研究開発事業及び人材育成事業の見直しを図ることを打ち出しており、この検討・準備状況について紹介する。
また、JAEAは上記の作業部会において、「原子力イノベーションに向けた原子力機構の取組について」として、2017年3月に策定した「イノベーション創出戦略」を強化し、外部との協働・共創によるイノベーションデザイン、自らの知見・技術基盤の活用と他分野の最先端成果の取り込み、オープンイノベーションの場などを新たに加えるべき方向性として打ち出しており、その具体的内容等について紹介する、と説明した。
つまり内容については何も述べていないので、これ以上は何も言えない。
役人の文章の典型で、当日に何らかの事業例を2、3紹介して、後は勝手に議論して欲しい、ということであろう。
勝手に想像すると、今はおそらくSMR(原発の小型炉)を大量生産、ということを諸外国も目論んでいるので、日本もそれを推進する、ということか。
または来たるべき水素社会を見据えて、高温ガス炉で水の熱分解で水素製造等を考えているのであろうか。
筆者であれば、核融合研究を宇宙ステーションISSの中で行い、将来の惑星探査ロケットのエネルギー源として考える。
何といっても宇宙にある元素の90%以上は水素なので、エネルギー源として無尽蔵なのである。
これを利用することが後世に向けての一番の贈り物になると思う。
あとは筆者提案のダブルガンマ線利用の自在な核変換であろうか。
もしこれが利用可能であれば、現代の錬金術が可能だし、高レベル廃棄物の地層処分等で何十万年も子孫に負債を残すこともなくなるのである。
ただし、この理論について、今は机上の空論なので、夢は大きく広がるが、現実の世界がついていっていない。
『追加:原子力学会誌2020年5月号で、JAEAの革新的な研究が4件載せられていた。
以前にJAEA成果報告会でも載せた内容かもしれないが、すごい内容なので、もう一度載せておく。
①超ウラン元素で核分裂でほとんど同じFPが2つ生成
普通ウランU-235であれば、中性子を照射して核分裂すると、Cs-137前後の原子核とSr-90前後の原子核のように、重さが40くらい違う核分裂生成物FPができる(非対称核分裂)。
しかし、超ウラン元素のフェルミウムFm-258ではほとんど同じFPが2個できる(対称核分裂)という。
筆者も今までは非対称核分裂が起きるのはなぜか、対称核分裂はなぜ起きないか、と漠然と思っていた。
普通に考えると、U-235は対称核分裂するとしたら、原子量120前後のスズSnやカドミウムCdができるように思うが、実際は偏ったFPしかできない。
でもウランより重い超ウラン元素でそういう対称核分裂をする元素があるらしいことを知って、逆になぜ非対称核分裂が起きるか不思議な気がしている。
②電子のスピンを利用した新たなメモリデバイス
スーパーコンピューター「京」は膨大な冷却棟を必要とし、情報はエネルギーを大量に食う、と言われている。
これを解決するのが、電子スピンである。
磁石をミクロな視点で見ると、N極とS極の向きがそろった小さな磁石(磁区)の集合体である。
それぞれの磁区は磁壁と呼ばれる磁気の壁により隔てられている。
この磁区の制御によりメモリの役割を負わせるというもので、磁極の向きを利用するために劣化が起きず、高い耐久性を持つという。
今まではその材料探しを世界中で競っていたが、JAEAのグループは磁石に電圧を加える操作で、従来の性能の10万倍のレベルに到達した、とのことである。
このスピントロニクスは電力の空中充電(電波みたいな状況で車などに充電)みたいなものにも使えると記憶にあるので、幅広い用途に使える可能性があるようである。
③磁場に負けない超伝導
これはあまりリアル感がないが、ウランの化合物URu2Si2が磁場に強い超伝導体であるらしい。
普通、超伝導体は強い磁場にさらされると、超伝導性を消失すると言われる。
でもURu2Si2は強い磁場でも超伝導性を消失しないので、このメカニズムを追求している、とのことである。
④原子の損傷後の自動修復
一般的に材料は放射線にさらされると劣化が進む。
セラミックスも同じである。
しかし、フッ化バリウムBaF2や酸化ウランUO2は照射損傷を受けにくい。
実験では放射線照射したBaF2は損傷を受けるが、再結晶化する(自己修復する)ことがわかった、とのことである。
特定のセラミックスが持つ自己修復機能のメカニズムが解明できれば、宇宙開発や原子力材料へのセラミックの利用拡大ができる、とのことである。』
第3日の午後(その2)はI会場で「福島復興・再生に向けて―震災後9 年を振り返る―」のテーマで、発表が行われた。
3I_PL01では「(1)地元と寄り添う福島特別プロジェクトの活動」というタイトルで、元東芝の藤田女史が発表した。
東日本大震災の津波に伴って発生した福島第一原発事故から9年が経った。
福島県では2017年3月には帰還困難区域を除いて避難指示が解除されたが、富岡町や浪江町では未だに帰還した住民の割合が1割以下である。
本年3月14日には常磐線が福島事故後初めて全線開通し、双葉町や富岡町の夜の森地区などの帰還困難区域も一部解除され、少しずつ、福島事故前の状況に戻りつつある。
しかしながら、浜通りの住民の方々は9年の月日の間に避難した先での生活基盤を築いた方が多く、今後帰還を進めることは容易ではない。
その状況の中で、少しでも帰還する住民の方々が増えることを願って、福島特別プロジェクト(PJ)が続けてきた活動について紹介する。
日本原子力学会は福島事故の翌年2012年6月に福島の住民の方々に寄り沿う活動をするために、理事会に直結する組織として『福島特別プロジェクト(福島PJ)』を設立した。
福島PJは『福島の住民の方々に寄り添い、住民と国や環境省の間のインターフェースの役割』を務めた。
当初、実施期間は中間貯蔵施設が設置され、運用されるまでの期間としたが、現在も活動を続けている。
活動は除染資料の発刊、シンポジウム開催や福島県等が運営する除染情報プラザへの人員派遣等を行ってきた。
またJAふくしま未来と協力して、稲作試験を行い、稲へのセシウム移行がほとんどないことを立証した。

図1 福島特別プロジェクト(福島PJ)の活動概要

図2 福島PJのシンポジウムの開催例

図3 除染情報プラザへの人員派遣

図4 稲作試験の例
福島の住民に寄り添った活動は原子力の再生には極めて重要と考えている。
今後はトリチウム水で問題となっている水産物に対する風評被害の払拭に努力していきたいと考えている、と説明した。
福島で何回か行われたシンポジウムには筆者も参加した。
その時の参加者の中に地元の人がいて、切実な思いを述べられていたのを記憶している。
学会の活動としては地味ではあるけれど、少しは地元民のために復興の協力ができたと思う。
今後はトリチウム水に関連した活動を行うようであるが、風評被害対策としては、ぜひトリチウム水で魚や貝の養殖を行って害のないことを実験して欲しいと思う。
3I_PL02では「(2)福島における除染等の進捗について(2020)」というタイトルで、環境省の小沢氏が発表した。
東日本大震災に伴う福島第一原発事故後、政府(環境省)では福島県内等の人の生活圏に飛散した放射性核種(特にセシウム)が付着した土壌等の除去作業を実施してきた。
本報告において、これまでの経緯を振り返り、今後の課題について述べる。
除染により発生し、福島県内の仮置場等に保管されている除去土壌等1400 万m3については、大熊町、双葉町にまたがる1600haの中間貯蔵施設区域に搬入することとされ、2015 年3 月から搬入が開始され、以降30年以内に、福島県外に最終処分することとしている。
2018 年3 月までに福島県内外での除染により発生した除去土壌は1700 万m3に達し、除染作業員は延べ3210万人、2018 年度までに計上された予算は2 兆9 千万円にのぼる。
今後の課題としては中間貯蔵施設への除去土壌の搬入で2021年度には福島県内の仮置場等に保管されている除去土壌等の概ね完了を予定している。
後は除去土壌の再生利用と避難指示区域解除後の住民の帰還が課題となる、と説明した。
環境省はそれなりの仕事をこなしているとは思うが、最終処分を福島県外で、というのは少し無理がある。
引受先が簡単に決まるとは思えないからである。
もしあるとしたら、低レベル処分場のある青森県であろうが、そこは高レベル廃棄物の県外処分等の問題もあり、難しいだろう。
おそらく福島原発を廃炉にして、その更地に保管、というのが一番現実的であろう。
3I_PL03では「(3)福島復興に向けた長崎大学の取組」というタイトルで、長崎大学の高村氏が発表した。
福島第一原発事故直後から、長崎大学は福島における原子力災害医療体制の構築に協力するために、福島県立医科大学に医師、看護師、診療放射線技師や放射線防護学の専門家を派遣した。
さらに、混乱した福島において、放射線被ばくと健康影響についてのクライシスコミュニケーションを行うために、原爆後障害医療研究所の教授二名を派遣して、福島県健康リスク管理アドバイザーとして福島県における講演会活動を行った。
その後原発事故が収束し、避難した自治体が帰還への取り組みを進める中、長崎大学はいち早く帰村宣言を発表した福島県川内村との連携を2011年12月から開始した。
具体的には村内の居住区域における土壌中放射性セシウム濃度測定や空間線量率の測定をもとにした住民の内部被ばく線量の推定を行って、帰還の妥当性について評価を行った。
住民の帰還が始まった2012年4月以降、村内外の住民を対象とした放射線についての講演会を行った。
さらに2012年5月からは放射線被ばくと健康影響に精通した保健師を川内村に長期派遣し、戸別訪問を通じたリスクコミュニケーションを展開した。
2013年4月、川内村と長崎大学は包括連携協定を締結し、川内村内に「長崎大学復興推進拠点」を設置した。
この拠点の目的は、環境放射能測定や個人被ばく線量評価等を通じた住民の外部被ばく線量評価、食品等の放射性物質濃度評価を通じた内部被ばく線量評価に加え、それらの結果をもとにしたきめの細かいリスクコミュニケーションの実施を通じた復興の支援であった。
上述の保健師が川内村に3年間にわたって常駐し、リスクコミュニケーションの中心的役割を担った。
幸い、川内村は事故前に比較して約80%の住民が帰還し、「福島復興のモデルケース」として高く評価されている。
川内村において、長崎大学が進めてきた「住民、自治体と専門家が一体となった原子力災害からの地域の復興への取組」は、本学が原爆被爆者医療、チェルノブイリ支援活動を通じて得られたノウハウを応用したものであるといえる。
2017年、長崎大学は事故から6年後に帰還を開始した福島県富岡町にも復興推進拠点を設置し、川内村と同様に、住民の被ばく線量の評価を通じたリスクコミュニケーション活動を展開している。
さらに2019 年7月からは、同年帰還を開始した、原発立地自治体である福島県大熊町の支援も開始するなど、川内村の復興推進支援活動によって得られたノウハウを、他の自治体へと水平展開している。
ここでは、これまでの長崎大学の取り組みの具体例について紹介しながら、特に「原子力災害からの復興における住民、自治体と専門家の連携の重要性」について述べる、と説明した。
筆者は長崎大学のこれらの活動のことをまったく知らなかった。
確かに優れた活動であり、一見文句のつけようがないように見える。
しかし、気がかりな点がある。
長崎大学は長崎の原爆被爆とチェルノブイリ原発事故の活動に関するノウハウを活用した、という点である。
筆者はチェルノブイリ原発事故や広島・長崎の被爆の状況と福島原発事故は全く異なる事故であると思う。
チェルノブイリ原発事故等が引き合いに出されると、それだけで子孫への遺伝的な影響を福島の人は気にしてしまうし、福島県外の人が福島県の人と結婚を避ける状況も想像される。
しかし、福島では幸いにも核燃料は放出されず、事故後食物摂取制限を行ったので、本人はもちろん子孫への影響を心配する必要はまったくないのである。
でも長崎大学の人がチェルノブイリ原発事故のノウハウを使って活動、というと、それだけで風評被害というわけではないが、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故が同一視されてしまう。
長崎大学の人がその辺りの区別をしていたとしても、外部から見た印象では同じ事故という錯覚が起こってしまう。
これを解消するには、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故で汚染した人の臓器のα・β・γ放射線核種の蓄積と遺伝的な関係の研究が必要であるが、今のところそうした状況にはない。
福島は広島・長崎、チェルノブイリとは根本的に違う事故だ、ということを改めて表明しておく。
3I_PL04では総合討論の予定であったが、実際にはなかった。
第3日の午後のその次はF会場で「放射線(能)測定・線量計測」のテーマで、発表が行われた。
3F08では「PVA-KIゲル線量計の反応メカニズムについて(1)」というタイトルで、福井工大の青木氏が発表した。
青木氏らはポリビニルアルコールのヨード反応を利用した放射線医療で用いるゲル線量計、PVA-KIゲルを開発した。
ゲル線量計は放射線がん治療における放射線の可視化技術の中の一つであり、多種のゲル線量計が研究開発されている。
青木氏らは、ポリビニルアルコール(PVA)とヨウ化カリウム(KI)を用い、PVAとヨウ素Iとの赤の呈色反応を利用した新規のゲル、PVA-KIゲルを開発した。
PVA-KIゲルの特徴として、放射線照射によって赤く呈色したゲルを加温することで消色させることができ、再度使用することができる再利用性を持つ。

図5 PVA-KI線量計の加温の消失
ここではPVA-KIゲルに対しX 線照射を行い、ゲルの昇温前後での吸光度スペクトルの変化を確認し、消色反応のメカニズムについて検討し、ヨウ素イオンI3-の生成、消失が関連している、と説明した。
筆者はこの研究に注目している。
何といっても放射線治療に関する放射線被ばくの可視化であり、この研究が進めば、がん患者の放射線被ばく管理につながる、と考えるからである。
ただ惜しいのは、まだ基礎研究の段階であり、実際の被ばく管理の際には、ペン型の被ばく線量計のようなコンパクトなものが必要になると思われ、実用化はまだ先かと思う。
3F09では「エネルギー分析型甲状腺放射性ヨウ素モニタの開発-モニタの製作と測定手法の開発-」というタイトルで、JAEAの谷村氏が発表した。
JAEAでは、原子力施設での事故等の高バックグラウンド線量率下において、公衆及び作業者の甲状腺の内部被ばく線量を測定するために、γ線スペクトロメータを用いたエネルギー分析型甲状腺放射性ヨウ素モニタ(甲状腺モニタ)を開発している。
今回、周辺遮蔽体、検出器2個及び検出器位置固定用治具で構成される公衆用と作業者用の2種類の甲状腺モニタを製作した。

図6 甲状腺放射線ヨウ素モニタの例
公衆用及び作業者用の検出器として、それぞれLaBr3(Ce)シンチレーション検出器及びCdZnTe半導体検出器を採用した。
さらに、被検者の甲状腺に蓄積された放射性ヨウ素放射能を測定する手法を開発した、と説明した。
福島原発事故時には住民の甲状腺被ばくが問題となったが、測定する機器がなかった。
この研究ではそこをカバーするものであるから、有意義な研究である。
しかも検出器上部に設置する固定用治具は、プラスチック樹脂を原料として3Dプリンタで製作した、とのことである。
ついに原子力の分野でも3Dプリンターの道具が登場したことに驚きがある。
これを参考にして、他の研究でも出てくるかもしれない。
3F10では「スクリーニングのための海水中トリチウム分析時間の最適化」というタイトルで、茨城大学の本間氏が発表した。
海水中トリチウム迅速分析法の開発のため、ルミネッセンスの影響と測定時間の最適化について検討した。
分析の最適化の結果、計測時間は通常モードで50 分、低バックグラウンドモードで30 分であり、分析全体の所要時間は1 試料あたり最短で4~5時間まで短縮できた、と説明した。
トリチウムの分析は水素の分析である。
ガスとしてのトリチウムと水の中のトリチウム(水分子の水素の1個または2個がトリチウムTと置き換わる。H2OがHTOまたはT2Oとなる)がある。
ここでは海水中のトリチウムであるから、後者のみでよい。
基本的には濃度が薄い時は、濃縮して、それを液体シンチレータで測定すると思われる。
トリチウムに関しては、今福島原発で最も頭が痛い問題であろう。
解決法として、希釈して海に流すことで、法律上の問題はない。
でも海に流すことで、海産物の風評被害は免れない。
筆者は
(1)水族館形式で、希釈トリチウム汚染水で養殖した魚や貝のトリチウム濃度を定期的に分析して無害を証明する
(2)東京、大阪、福島の3地点で同時に1か月くらいの試験放流を行って、海産物の無害なことを証明する
というアイデアがあるが、毎日新聞に投書して却下されている。
3F11では「フォトルミネッセンス抑制による効率的なトリチウム分析工程の構築」というタイトルで、東京パワーテクノロジーの大木女史が発表した。
液体シンチレータを用いたトリチウム分析では、ルミネッセンス(疑似発光)を減衰させる為に一昼夜程度放置する必要がある。
この放置時間の短縮による分析の迅速化を目的に、外的要因とされるフォトルミネッセンス抑制手法について、検討した結果を報告する。
100 mL の試験管に純水50mLと1週間以上暗所で保管したシンチレータ50mLを、太陽光の入らない部屋にて4種類のLED照明下で混和した。
カクテル調製後、遮光を維持して速やかに液体シンチレータLSCに装荷し計測を行った。
自然光の下で調製した試料は計測値が安定しバックグラウンドレベルBG付近に至るまでに100時間程度要した。
一方で、暗所保管したシンチレータを用いてLED照明下で混和し計測まで遮光を維持した試料は、LSC装荷後1時間程度でBGレベルに達した、と説明した。

図7 ルミネセンスの減少の例
100時間の放置が1時間でいいとなると、相当な短縮である。
今までは自然(太陽)光のある中で分析していたので、その影響を受けて蛍光が減少しなかったというのは、コロンブスの卵的なものかもしれないと思った。
以上で、今回の2020年日本原子力学会春の年会の仮想聴講を終了とする。
以下はそのまとめである。
第3日の午後のセッションはC会場では「原子力イノベーションの追求」のテーマで発表が行われた。
3C_PL01~03では「原子力イノベーションに向けた経済産業省/文部科学省/JAEAの取組み」というタイトルで、経産省の舟木氏、文科省の清浦氏、JAEAの門馬氏が発表した。
3者とも同じ文面なので一括りでよいし、お役人の文章は型通りで面白みのないものである。
第3日の午後(その2)はI会場で「福島復興・再生に向けて―震災後9 年を振り返る―」のテーマで、発表が行われた。
最初に原子力学会の福島特別プロジェクトのことが紹介され、シンポジウム開催、除染プラザへの人の派遣、稲作実験等を行った。
次に環境省の除染の話があり、汚染土壌1,700万m3を中間貯蔵施設に搬送中であり、最終処分をどうするかを検討中とした。
長崎大学の人が福島原発事故直後に福島県に入って活動、というのは初めて知った。
川内村で地に足の着いた活動をしていたようである。
しかし、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故が同じとみなされる危険性があることを危惧する。
福島原発事故は広島・長崎、チェルノブイリ原発事故とは全く別(核燃料が放出されなかったことと事故後の食物摂取制限による健康影響が本人にも子孫にも及ばない)、ということを指摘しておく。
第3日の午後のセッションはF会場で「放射線(能)測定・線量計測」のテーマで、発表が行われた。
3F08ではがんの放射線治療での患者の被ばくを測定するゲル線量計に関するもので、線量計の呈色反応のメカニズムがわかった。
3F09では甲状腺被ばくに関係する放射性ヨウ素モニタの開発で、普通の開発と違っているのは固定用治具を3Dプリンタで製作した。
3F10と3F11では共にトリチウム分析に関する研究で、10はよくわからない。
11では今まで太陽光で妨害されていたものをLEDで減少させた、というコロンブスの卵的な発想の研究であった。
以上でこの仮想聴講は終了とする。
長いことお付き合いいただきありがとうございました。
さて5月7日に原子力学会からメールが届き、今年の学会・秋の大会(9/16(水)-9/18(金):九州大学・伊都キャンパス)についての案内があった。
緊急事態宣言の延長、その後の各団体の対応が新型コロナウイルス対策を講じての開催が要請されているように忖度しており、中止、ネット聴講等の選択肢を検討しているらしかった。
詳細が決まれば、また連絡する、とのことであった。
新型コロナウイルスに日本中、世界中が翻弄され続けている。
終息は見えるのか、現状では誰もその展望は語れないかもしれない。
-以上-
春の年会は新型コロナウイルスの影響で大規模な集会は控えるように、との国の要請を忖度した結果である。
その5に続いて、春の年会に参加したと仮想して、予稿集から学会で興味があった内容についての内容等の説明をしてみる。
期間は2020年の3/16(月)~3/18(水)の3日間で、福島大学で開催される予定であった。
今回は福島事故関連がデブリとか原発内のものが多く、環境に関連したものが少なかったように思う。
今回もプログラムや予稿集を見て、仮想聴講計画を立てた。
聴講スケジュールは以下の通りとした。
3/16(月) AM1 AM2 PM1 PM2 PM3
F医学応用 G福島農業 F医学応用 F環境放射能
N放射線の医学利用 J社会調査 Jコミュニケーション
3/17(火)
F環境放射能 K学会倫理 N光子計測 E福島県教育
I福島若者* F環境安全*
B汚染土壌* H核変換**
C新検査制度* (*は追加した項目、**:再追加)
3/18(水)
N医療応用 I福島復興 F放射能測定 -
F放射能測定 J核セキュリティ C原子力イノベーション***(追加)
AM1は9:30-10:45くらいにある発表、AM2は10:45-12:00くらいにある発表、
PM1は13:00-14:30にある特別セッション、PM2は14:45-16:00くらいにある発表、
PM3は16:00-17:30 くらいにある発表時間帯である。
各テーマについて整理してみる。
第一には、福島事故関連の情報収集である。
第二には、私が研究している核変換技術の情報収集と共同研究グループとの連携の検討である。
第三には、教育、といっても、私の研究の後継者探しという面が強い。(今回は無理)
第四には、興味があるものの聴講、今回の場合は放射線治療である。
その他として、トピックス的なものもミーハー的に仮想聴講した。
以下に仮想聴講順にメモ程度に書き留めていく。
長々と見たくない人は各ブログの末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。
今は新型コロナウイルスの影響でシンポジウム関係がほぼ中止なので、このブログもあまり詰め込まずにシリーズ的に順番に書いていく。
思いつくままに書いていたが、今回で最終回となる。
第1日目の午前の聴講内容は(その1)に書いた。
第1日目の午後の聴講内容は(その2)に書いた。
第2日目の午前と午後の一部の聴講内容は(その3)に書いた。
第2日目の午後の一部の聴講内容は(その4)に書いた。
第2日目の午後の一部と第3日の午前は聴講内容(その5)に書いた。
今回は第3日の午後から(その6:最終回)を書く。
第3日の午後はC会場で「原子力イノベーションの追求」のテーマで、発表が行われた。
このセッションは経済産業省と文部科学省の共催である。
3C_PL01~03では「原子力イノベーションに向けた経済産業省/文部科学省/JAEAの取組み」というタイトルで、経産省の舟木氏、文科省の清浦氏、JAEAの門馬氏が発表したのであるが、3者とも同じ文面なので一括りでよい。
2018 年改訂の「エネルギー基本計画」では、原子力が直面する多様な技術課題の解決に向けて積極的に取り組む必要があり、安全性・信頼性・効率性や再生可能エネルギーとの共存、水素製造や熱利用という原子力関連技術のイノベーションを促進するという観点が重要である。
これを踏まえ、経産省及び文科省は、2019年4月の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力小委員会において、「原子力イノベーションの追求について」の政策構想を打ち出し、JAEAとともに原子力イノベーションを加速するための環境整備(エコシステム)の取組みを開始した。
ここでは、関係機関における取組みを共有・議論することにより、原子力イノベーションの促進に向けたエコシステムのあり方などを広く議論し、今後の学会の役割への示唆を得ることを目的とする。
具体的には、経産省は、2019 年度に「革新的な原子力技術開発支援事業」、「原子力安全性向上の技術開発補助事業」を開始し、民間主体の革新炉の開発、安全対策高度化に繋がる研究開発の促進、特に事業成立性に関する調査(フィージビリティ調査)に取り組んでおり、参考となる海外諸国での取組み事例も紹介する。
文科省は、2019年8月の原子力科学技術委員会において「原子力イノベーションの実現に向けた研究開発・研究基盤・人材育成施策の見直しについて」として、原子力イノベーションを支える基礎基盤研究を戦略的に推進するため、現行の原子力研究開発事業及び人材育成事業の見直しを図ることを打ち出しており、この検討・準備状況について紹介する。
また、JAEAは上記の作業部会において、「原子力イノベーションに向けた原子力機構の取組について」として、2017年3月に策定した「イノベーション創出戦略」を強化し、外部との協働・共創によるイノベーションデザイン、自らの知見・技術基盤の活用と他分野の最先端成果の取り込み、オープンイノベーションの場などを新たに加えるべき方向性として打ち出しており、その具体的内容等について紹介する、と説明した。
つまり内容については何も述べていないので、これ以上は何も言えない。
役人の文章の典型で、当日に何らかの事業例を2、3紹介して、後は勝手に議論して欲しい、ということであろう。
勝手に想像すると、今はおそらくSMR(原発の小型炉)を大量生産、ということを諸外国も目論んでいるので、日本もそれを推進する、ということか。
または来たるべき水素社会を見据えて、高温ガス炉で水の熱分解で水素製造等を考えているのであろうか。
筆者であれば、核融合研究を宇宙ステーションISSの中で行い、将来の惑星探査ロケットのエネルギー源として考える。
何といっても宇宙にある元素の90%以上は水素なので、エネルギー源として無尽蔵なのである。
これを利用することが後世に向けての一番の贈り物になると思う。
あとは筆者提案のダブルガンマ線利用の自在な核変換であろうか。
もしこれが利用可能であれば、現代の錬金術が可能だし、高レベル廃棄物の地層処分等で何十万年も子孫に負債を残すこともなくなるのである。
ただし、この理論について、今は机上の空論なので、夢は大きく広がるが、現実の世界がついていっていない。
『追加:原子力学会誌2020年5月号で、JAEAの革新的な研究が4件載せられていた。
以前にJAEA成果報告会でも載せた内容かもしれないが、すごい内容なので、もう一度載せておく。
①超ウラン元素で核分裂でほとんど同じFPが2つ生成
普通ウランU-235であれば、中性子を照射して核分裂すると、Cs-137前後の原子核とSr-90前後の原子核のように、重さが40くらい違う核分裂生成物FPができる(非対称核分裂)。
しかし、超ウラン元素のフェルミウムFm-258ではほとんど同じFPが2個できる(対称核分裂)という。
筆者も今までは非対称核分裂が起きるのはなぜか、対称核分裂はなぜ起きないか、と漠然と思っていた。
普通に考えると、U-235は対称核分裂するとしたら、原子量120前後のスズSnやカドミウムCdができるように思うが、実際は偏ったFPしかできない。
でもウランより重い超ウラン元素でそういう対称核分裂をする元素があるらしいことを知って、逆になぜ非対称核分裂が起きるか不思議な気がしている。
②電子のスピンを利用した新たなメモリデバイス
スーパーコンピューター「京」は膨大な冷却棟を必要とし、情報はエネルギーを大量に食う、と言われている。
これを解決するのが、電子スピンである。
磁石をミクロな視点で見ると、N極とS極の向きがそろった小さな磁石(磁区)の集合体である。
それぞれの磁区は磁壁と呼ばれる磁気の壁により隔てられている。
この磁区の制御によりメモリの役割を負わせるというもので、磁極の向きを利用するために劣化が起きず、高い耐久性を持つという。
今まではその材料探しを世界中で競っていたが、JAEAのグループは磁石に電圧を加える操作で、従来の性能の10万倍のレベルに到達した、とのことである。
このスピントロニクスは電力の空中充電(電波みたいな状況で車などに充電)みたいなものにも使えると記憶にあるので、幅広い用途に使える可能性があるようである。
③磁場に負けない超伝導
これはあまりリアル感がないが、ウランの化合物URu2Si2が磁場に強い超伝導体であるらしい。
普通、超伝導体は強い磁場にさらされると、超伝導性を消失すると言われる。
でもURu2Si2は強い磁場でも超伝導性を消失しないので、このメカニズムを追求している、とのことである。
④原子の損傷後の自動修復
一般的に材料は放射線にさらされると劣化が進む。
セラミックスも同じである。
しかし、フッ化バリウムBaF2や酸化ウランUO2は照射損傷を受けにくい。
実験では放射線照射したBaF2は損傷を受けるが、再結晶化する(自己修復する)ことがわかった、とのことである。
特定のセラミックスが持つ自己修復機能のメカニズムが解明できれば、宇宙開発や原子力材料へのセラミックの利用拡大ができる、とのことである。』
第3日の午後(その2)はI会場で「福島復興・再生に向けて―震災後9 年を振り返る―」のテーマで、発表が行われた。
3I_PL01では「(1)地元と寄り添う福島特別プロジェクトの活動」というタイトルで、元東芝の藤田女史が発表した。
東日本大震災の津波に伴って発生した福島第一原発事故から9年が経った。
福島県では2017年3月には帰還困難区域を除いて避難指示が解除されたが、富岡町や浪江町では未だに帰還した住民の割合が1割以下である。
本年3月14日には常磐線が福島事故後初めて全線開通し、双葉町や富岡町の夜の森地区などの帰還困難区域も一部解除され、少しずつ、福島事故前の状況に戻りつつある。
しかしながら、浜通りの住民の方々は9年の月日の間に避難した先での生活基盤を築いた方が多く、今後帰還を進めることは容易ではない。
その状況の中で、少しでも帰還する住民の方々が増えることを願って、福島特別プロジェクト(PJ)が続けてきた活動について紹介する。
日本原子力学会は福島事故の翌年2012年6月に福島の住民の方々に寄り沿う活動をするために、理事会に直結する組織として『福島特別プロジェクト(福島PJ)』を設立した。
福島PJは『福島の住民の方々に寄り添い、住民と国や環境省の間のインターフェースの役割』を務めた。
当初、実施期間は中間貯蔵施設が設置され、運用されるまでの期間としたが、現在も活動を続けている。
活動は除染資料の発刊、シンポジウム開催や福島県等が運営する除染情報プラザへの人員派遣等を行ってきた。
またJAふくしま未来と協力して、稲作試験を行い、稲へのセシウム移行がほとんどないことを立証した。

図1 福島特別プロジェクト(福島PJ)の活動概要

図2 福島PJのシンポジウムの開催例

図3 除染情報プラザへの人員派遣

図4 稲作試験の例
福島の住民に寄り添った活動は原子力の再生には極めて重要と考えている。
今後はトリチウム水で問題となっている水産物に対する風評被害の払拭に努力していきたいと考えている、と説明した。
福島で何回か行われたシンポジウムには筆者も参加した。
その時の参加者の中に地元の人がいて、切実な思いを述べられていたのを記憶している。
学会の活動としては地味ではあるけれど、少しは地元民のために復興の協力ができたと思う。
今後はトリチウム水に関連した活動を行うようであるが、風評被害対策としては、ぜひトリチウム水で魚や貝の養殖を行って害のないことを実験して欲しいと思う。
3I_PL02では「(2)福島における除染等の進捗について(2020)」というタイトルで、環境省の小沢氏が発表した。
東日本大震災に伴う福島第一原発事故後、政府(環境省)では福島県内等の人の生活圏に飛散した放射性核種(特にセシウム)が付着した土壌等の除去作業を実施してきた。
本報告において、これまでの経緯を振り返り、今後の課題について述べる。
除染により発生し、福島県内の仮置場等に保管されている除去土壌等1400 万m3については、大熊町、双葉町にまたがる1600haの中間貯蔵施設区域に搬入することとされ、2015 年3 月から搬入が開始され、以降30年以内に、福島県外に最終処分することとしている。
2018 年3 月までに福島県内外での除染により発生した除去土壌は1700 万m3に達し、除染作業員は延べ3210万人、2018 年度までに計上された予算は2 兆9 千万円にのぼる。
今後の課題としては中間貯蔵施設への除去土壌の搬入で2021年度には福島県内の仮置場等に保管されている除去土壌等の概ね完了を予定している。
後は除去土壌の再生利用と避難指示区域解除後の住民の帰還が課題となる、と説明した。
環境省はそれなりの仕事をこなしているとは思うが、最終処分を福島県外で、というのは少し無理がある。
引受先が簡単に決まるとは思えないからである。
もしあるとしたら、低レベル処分場のある青森県であろうが、そこは高レベル廃棄物の県外処分等の問題もあり、難しいだろう。
おそらく福島原発を廃炉にして、その更地に保管、というのが一番現実的であろう。
3I_PL03では「(3)福島復興に向けた長崎大学の取組」というタイトルで、長崎大学の高村氏が発表した。
福島第一原発事故直後から、長崎大学は福島における原子力災害医療体制の構築に協力するために、福島県立医科大学に医師、看護師、診療放射線技師や放射線防護学の専門家を派遣した。
さらに、混乱した福島において、放射線被ばくと健康影響についてのクライシスコミュニケーションを行うために、原爆後障害医療研究所の教授二名を派遣して、福島県健康リスク管理アドバイザーとして福島県における講演会活動を行った。
その後原発事故が収束し、避難した自治体が帰還への取り組みを進める中、長崎大学はいち早く帰村宣言を発表した福島県川内村との連携を2011年12月から開始した。
具体的には村内の居住区域における土壌中放射性セシウム濃度測定や空間線量率の測定をもとにした住民の内部被ばく線量の推定を行って、帰還の妥当性について評価を行った。
住民の帰還が始まった2012年4月以降、村内外の住民を対象とした放射線についての講演会を行った。
さらに2012年5月からは放射線被ばくと健康影響に精通した保健師を川内村に長期派遣し、戸別訪問を通じたリスクコミュニケーションを展開した。
2013年4月、川内村と長崎大学は包括連携協定を締結し、川内村内に「長崎大学復興推進拠点」を設置した。
この拠点の目的は、環境放射能測定や個人被ばく線量評価等を通じた住民の外部被ばく線量評価、食品等の放射性物質濃度評価を通じた内部被ばく線量評価に加え、それらの結果をもとにしたきめの細かいリスクコミュニケーションの実施を通じた復興の支援であった。
上述の保健師が川内村に3年間にわたって常駐し、リスクコミュニケーションの中心的役割を担った。
幸い、川内村は事故前に比較して約80%の住民が帰還し、「福島復興のモデルケース」として高く評価されている。
川内村において、長崎大学が進めてきた「住民、自治体と専門家が一体となった原子力災害からの地域の復興への取組」は、本学が原爆被爆者医療、チェルノブイリ支援活動を通じて得られたノウハウを応用したものであるといえる。
2017年、長崎大学は事故から6年後に帰還を開始した福島県富岡町にも復興推進拠点を設置し、川内村と同様に、住民の被ばく線量の評価を通じたリスクコミュニケーション活動を展開している。
さらに2019 年7月からは、同年帰還を開始した、原発立地自治体である福島県大熊町の支援も開始するなど、川内村の復興推進支援活動によって得られたノウハウを、他の自治体へと水平展開している。
ここでは、これまでの長崎大学の取り組みの具体例について紹介しながら、特に「原子力災害からの復興における住民、自治体と専門家の連携の重要性」について述べる、と説明した。
筆者は長崎大学のこれらの活動のことをまったく知らなかった。
確かに優れた活動であり、一見文句のつけようがないように見える。
しかし、気がかりな点がある。
長崎大学は長崎の原爆被爆とチェルノブイリ原発事故の活動に関するノウハウを活用した、という点である。
筆者はチェルノブイリ原発事故や広島・長崎の被爆の状況と福島原発事故は全く異なる事故であると思う。
チェルノブイリ原発事故等が引き合いに出されると、それだけで子孫への遺伝的な影響を福島の人は気にしてしまうし、福島県外の人が福島県の人と結婚を避ける状況も想像される。
しかし、福島では幸いにも核燃料は放出されず、事故後食物摂取制限を行ったので、本人はもちろん子孫への影響を心配する必要はまったくないのである。
でも長崎大学の人がチェルノブイリ原発事故のノウハウを使って活動、というと、それだけで風評被害というわけではないが、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故が同一視されてしまう。
長崎大学の人がその辺りの区別をしていたとしても、外部から見た印象では同じ事故という錯覚が起こってしまう。
これを解消するには、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故で汚染した人の臓器のα・β・γ放射線核種の蓄積と遺伝的な関係の研究が必要であるが、今のところそうした状況にはない。
福島は広島・長崎、チェルノブイリとは根本的に違う事故だ、ということを改めて表明しておく。
3I_PL04では総合討論の予定であったが、実際にはなかった。
第3日の午後のその次はF会場で「放射線(能)測定・線量計測」のテーマで、発表が行われた。
3F08では「PVA-KIゲル線量計の反応メカニズムについて(1)」というタイトルで、福井工大の青木氏が発表した。
青木氏らはポリビニルアルコールのヨード反応を利用した放射線医療で用いるゲル線量計、PVA-KIゲルを開発した。
ゲル線量計は放射線がん治療における放射線の可視化技術の中の一つであり、多種のゲル線量計が研究開発されている。
青木氏らは、ポリビニルアルコール(PVA)とヨウ化カリウム(KI)を用い、PVAとヨウ素Iとの赤の呈色反応を利用した新規のゲル、PVA-KIゲルを開発した。
PVA-KIゲルの特徴として、放射線照射によって赤く呈色したゲルを加温することで消色させることができ、再度使用することができる再利用性を持つ。

図5 PVA-KI線量計の加温の消失
ここではPVA-KIゲルに対しX 線照射を行い、ゲルの昇温前後での吸光度スペクトルの変化を確認し、消色反応のメカニズムについて検討し、ヨウ素イオンI3-の生成、消失が関連している、と説明した。
筆者はこの研究に注目している。
何といっても放射線治療に関する放射線被ばくの可視化であり、この研究が進めば、がん患者の放射線被ばく管理につながる、と考えるからである。
ただ惜しいのは、まだ基礎研究の段階であり、実際の被ばく管理の際には、ペン型の被ばく線量計のようなコンパクトなものが必要になると思われ、実用化はまだ先かと思う。
3F09では「エネルギー分析型甲状腺放射性ヨウ素モニタの開発-モニタの製作と測定手法の開発-」というタイトルで、JAEAの谷村氏が発表した。
JAEAでは、原子力施設での事故等の高バックグラウンド線量率下において、公衆及び作業者の甲状腺の内部被ばく線量を測定するために、γ線スペクトロメータを用いたエネルギー分析型甲状腺放射性ヨウ素モニタ(甲状腺モニタ)を開発している。
今回、周辺遮蔽体、検出器2個及び検出器位置固定用治具で構成される公衆用と作業者用の2種類の甲状腺モニタを製作した。

図6 甲状腺放射線ヨウ素モニタの例
公衆用及び作業者用の検出器として、それぞれLaBr3(Ce)シンチレーション検出器及びCdZnTe半導体検出器を採用した。
さらに、被検者の甲状腺に蓄積された放射性ヨウ素放射能を測定する手法を開発した、と説明した。
福島原発事故時には住民の甲状腺被ばくが問題となったが、測定する機器がなかった。
この研究ではそこをカバーするものであるから、有意義な研究である。
しかも検出器上部に設置する固定用治具は、プラスチック樹脂を原料として3Dプリンタで製作した、とのことである。
ついに原子力の分野でも3Dプリンターの道具が登場したことに驚きがある。
これを参考にして、他の研究でも出てくるかもしれない。
3F10では「スクリーニングのための海水中トリチウム分析時間の最適化」というタイトルで、茨城大学の本間氏が発表した。
海水中トリチウム迅速分析法の開発のため、ルミネッセンスの影響と測定時間の最適化について検討した。
分析の最適化の結果、計測時間は通常モードで50 分、低バックグラウンドモードで30 分であり、分析全体の所要時間は1 試料あたり最短で4~5時間まで短縮できた、と説明した。
トリチウムの分析は水素の分析である。
ガスとしてのトリチウムと水の中のトリチウム(水分子の水素の1個または2個がトリチウムTと置き換わる。H2OがHTOまたはT2Oとなる)がある。
ここでは海水中のトリチウムであるから、後者のみでよい。
基本的には濃度が薄い時は、濃縮して、それを液体シンチレータで測定すると思われる。
トリチウムに関しては、今福島原発で最も頭が痛い問題であろう。
解決法として、希釈して海に流すことで、法律上の問題はない。
でも海に流すことで、海産物の風評被害は免れない。
筆者は
(1)水族館形式で、希釈トリチウム汚染水で養殖した魚や貝のトリチウム濃度を定期的に分析して無害を証明する
(2)東京、大阪、福島の3地点で同時に1か月くらいの試験放流を行って、海産物の無害なことを証明する
というアイデアがあるが、毎日新聞に投書して却下されている。
3F11では「フォトルミネッセンス抑制による効率的なトリチウム分析工程の構築」というタイトルで、東京パワーテクノロジーの大木女史が発表した。
液体シンチレータを用いたトリチウム分析では、ルミネッセンス(疑似発光)を減衰させる為に一昼夜程度放置する必要がある。
この放置時間の短縮による分析の迅速化を目的に、外的要因とされるフォトルミネッセンス抑制手法について、検討した結果を報告する。
100 mL の試験管に純水50mLと1週間以上暗所で保管したシンチレータ50mLを、太陽光の入らない部屋にて4種類のLED照明下で混和した。
カクテル調製後、遮光を維持して速やかに液体シンチレータLSCに装荷し計測を行った。
自然光の下で調製した試料は計測値が安定しバックグラウンドレベルBG付近に至るまでに100時間程度要した。
一方で、暗所保管したシンチレータを用いてLED照明下で混和し計測まで遮光を維持した試料は、LSC装荷後1時間程度でBGレベルに達した、と説明した。

図7 ルミネセンスの減少の例
100時間の放置が1時間でいいとなると、相当な短縮である。
今までは自然(太陽)光のある中で分析していたので、その影響を受けて蛍光が減少しなかったというのは、コロンブスの卵的なものかもしれないと思った。
以上で、今回の2020年日本原子力学会春の年会の仮想聴講を終了とする。
以下はそのまとめである。
第3日の午後のセッションはC会場では「原子力イノベーションの追求」のテーマで発表が行われた。
3C_PL01~03では「原子力イノベーションに向けた経済産業省/文部科学省/JAEAの取組み」というタイトルで、経産省の舟木氏、文科省の清浦氏、JAEAの門馬氏が発表した。
3者とも同じ文面なので一括りでよいし、お役人の文章は型通りで面白みのないものである。
第3日の午後(その2)はI会場で「福島復興・再生に向けて―震災後9 年を振り返る―」のテーマで、発表が行われた。
最初に原子力学会の福島特別プロジェクトのことが紹介され、シンポジウム開催、除染プラザへの人の派遣、稲作実験等を行った。
次に環境省の除染の話があり、汚染土壌1,700万m3を中間貯蔵施設に搬送中であり、最終処分をどうするかを検討中とした。
長崎大学の人が福島原発事故直後に福島県に入って活動、というのは初めて知った。
川内村で地に足の着いた活動をしていたようである。
しかし、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故と福島原発事故が同じとみなされる危険性があることを危惧する。
福島原発事故は広島・長崎、チェルノブイリ原発事故とは全く別(核燃料が放出されなかったことと事故後の食物摂取制限による健康影響が本人にも子孫にも及ばない)、ということを指摘しておく。
第3日の午後のセッションはF会場で「放射線(能)測定・線量計測」のテーマで、発表が行われた。
3F08ではがんの放射線治療での患者の被ばくを測定するゲル線量計に関するもので、線量計の呈色反応のメカニズムがわかった。
3F09では甲状腺被ばくに関係する放射性ヨウ素モニタの開発で、普通の開発と違っているのは固定用治具を3Dプリンタで製作した。
3F10と3F11では共にトリチウム分析に関する研究で、10はよくわからない。
11では今まで太陽光で妨害されていたものをLEDで減少させた、というコロンブスの卵的な発想の研究であった。
以上でこの仮想聴講は終了とする。
長いことお付き合いいただきありがとうございました。
さて5月7日に原子力学会からメールが届き、今年の学会・秋の大会(9/16(水)-9/18(金):九州大学・伊都キャンパス)についての案内があった。
緊急事態宣言の延長、その後の各団体の対応が新型コロナウイルス対策を講じての開催が要請されているように忖度しており、中止、ネット聴講等の選択肢を検討しているらしかった。
詳細が決まれば、また連絡する、とのことであった。
新型コロナウイルスに日本中、世界中が翻弄され続けている。
終息は見えるのか、現状では誰もその展望は語れないかもしれない。
-以上-
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