原子力学会・春の年会仮想参加(その4)-発表内容の説明等

 2020年原子力学会・春の年会は中止になった。

 春の年会は新型コロナウイルスの影響で大規模な集会は控えるように、との国の要請を忖度した結果である。
 その3に続いて、春の年会に参加したと仮想して、予稿集から学会で興味があった内容についての内容等の説明をしてみる。

 期間は2020年の3/16(月)~3/18(水)の3日間で、福島大学で開催される予定であった。
 今回は福島事故関連がデブリとか原発内のものが多く、環境に関連したものが少なかったように思う。
 今回もプログラムや予稿集を見て、仮想聴講計画を立てた。
 聴講スケジュールは以下の通りとした。

3/16(月) AM1  AM2    PM1    PM2      PM3      
   F医学応用       G福島農業 F医学応用    F環境放射能  
   N放射線の医学利用         J社会調査    Jコミュニケーション
3/17(火)
   F環境放射能      K学会倫理 N光子計測   E福島県教育
               I福島若者* F環境安全*
               B汚染土壌*
               C新検査制度* (*は追加した項目)
3/18(水)
  N医療応用       I福島復興  F放射能測定  -
  F放射能測定 J核セキュリティ

 AM1は9:30-10:45くらいにある発表、AM2は10:45-12:00くらいにある発表、PM1は13:00-14:30にある特別セッション、PM2は14:45-16:00くらいにある発表、PM3は16:00-17:30 くらいにある発表時間帯である。

 各テーマについて整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 第二には、私が研究している核変換技術の情報収集と共同研究グループとの連携の検討である。
 第三には、教育、といっても私の研究の後継者探しという面が強い。
 第四に興味があるものの聴講、今回の場合は放射線治療である。
 その他として、トピックス的なものもミーハー的に仮想聴講した。

 以下に仮想聴講順にメモ程度に書き留めていく。

 長々と見たくない人は各ブログの末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。
 ただ今は新型コロナウイルスの影響でシンポジウム関係がほぼ中止なので、このブログもあまり詰め込まずにシリーズ的に順番に書いていく。
 思いつくままに書いていくので、いつこのシリーズが終わるかは不明である。

 第1日目の午前の聴講内容は(その1)に書いた。
 第1日目の午後の聴講内容は(その2)に書いた。
 第2日目の午前と午後の一部の聴講内容は(その3)に書いた。
 今回(その4)は第2日午後の一部からである。

 第2日の午後のセッションはF会場で「原子力政策とコミュニケーション」のテーマで、講演が行われた。

 2F_PL01では「グランドチャレンジ:日本の原子力の大挑戦」というタイトルで、原子力委員会委員長の岡氏が講演した。
 見直し後の原子力委員会、グランドチャレンジとは、原子力委員会/省庁/電力業界/メーカ/研究開発機関/大学等の組織と個人にそれぞれのグランドチャレンジがある。
 上記は何かの箇条書きのようである。
 何か変だな、と思っていたら、原子力委員会の4月17号(第291号)のメールマガジンにこの箇条書きの内容が書かれていた。
 このメールマガジンを参照して説明する。

 「見直し後の原子力委員会」
 この委員会は1956年にできて、福島原発事故後の2014年に見直されている。
 見直しの要点は以下である。
 ・原子力に関する諸課題の管理・運営の視点から、原子力利用に関する重要事項に取り組む。
 ・形骸化している事務などを廃止・縮小する。
 ・網羅的な原子力長期計画や原子力政策大綱は作らない。
 ・産業界や研究開発機関からの出向者は禁止
 ・中長期視点から原子力政策に取り組む。司令塔ではなく羅針盤の役割を果たす。
 ・原子力利用に関する基本的考え方を作成する。
 なお、原子力利用をすることは設置法の前提である。
 この見直し後に出向者は委員会事務局を去っており、中立な運営ができるようになった。

 「原子力委員会はなぜ司令しないのか」
 原子力委員会が司令してほしいとの声を、原子力関係者から時々聞く。
 なぜ司令しないのか、司令してはいけないと考えているか、を箇条書きにすると、
 ・司令塔ではなく羅針盤(委員会見直しの結果)
 ・司令すると、責任があいまいになる。自ら考えること、自ら行うことを放棄してしまう。
 ・各組織が置かれた状況のすべてを、原子力委員会は知ることはできないので、適切な司令はできない。
 ・国依存の思考や行動からの脱却が必要だから。
 ・事故や1990年代以降の停滞の原因の反省から。
 ・国の役割は、企業や研究開発機関を生き延びさせることではなく、事業環境を整えること、知識基盤構築など企業ではできないことを行う。

 「原子力政策を考える方法」
 根拠やエビデンスはネットで検索する。
 ネット時代なので、特に英語の情報について、根拠情報の入手は容易である。
 伝聞したことは、根拠の文献を探して、それをもとに考えることにしている。
 欧米の政府機関等のホームページ等に書かれていないこともあるので、必要に応じて指導層やその経験者と面談し、確認している。
 欧米の政府機関は、政策の情報を根拠の報告書とともに公開している。
 日本の行政の情報は、まだこのレベルには達してはいないが、委員会や審議会の資料や中間とりまとめなどが参考になる。
 留意しているのは、推進側の希望にそのまま従うのではなく、国民の便益から政策を考える必要がある点である。

 「グランドチャレンジ」
 グランドチャレンジは、「大胆で、横断的で、破壊的で、方向性があるものである。
 野心的で、ある期間内に、非現実的ではなく、イノベーシヨンと変化を生みだす、多数のボトムアップ型の解決策を含むものである。
 既存の連続的な改良のことではない。
 日本の電力業界のグランドチャレンジとは、例えばエネルギービジネスの国内外の変化への対応、自由化(競争化)への対応、国際的に割高な電気料金の低減、等がある。
 日本の電力業界の原子力部門のグランドチャレンジとは、例えば自主的安全性向上による発電電力量増大・事故率低減、原子力利用の中性化(普通にある状態にすること。安全や放射性廃棄物については特に)である。
 研究開発機関のグランドチャレンジは、例えば国が開発して民間が実用化するモデルから、知識基盤構築へ、研究論文作成から知識の体系化へ、縦割りから、それぞれの責任・役割を明確にした協力・連携へ、研究開発・仕事を通じた人材育成、経営と管理(改善メカニズムを機能させること、経営リスク対策など)がある。
 大学(原子力系)のグランドチャレンジは、例えば研究と教育での国際的プレゼンスの向上、国内外の優秀学生の獲得(大学の優秀人材を集める機能の向上)、被引用数の多い研究論文の作成などである。

 これらのことの基本的な要素としてコミュニケーションがある。
 情報体系の整備等にコミュニケーションのインフラ作りを行っていく必要がある、と説明した。

 要するに、今までの原子力委員会は事務局にメーカー等の出向者もおり、推進を前提にした政策作りを行ってきた。
 福島原発事故後にそれを見直し、中立の立場から、原子力の方向性を示す羅針盤のような機関として機能することらしい。
 原子力ムラにいると、原子力政策大綱をまた作って欲しい、というような希望を持っていたが、退職後にこの意見を見ると、これが正論なのかもしれないと思う。

 第2日の午後のセッション(その2)はE会場で「未来につなぐ福島県の放射線教育の取り組み」のテーマで、発表が行われた。

 2E_PL01では「(1)福島県教育委員会の放射線教育の取り組み」というタイトルで、福島県教育庁の阿部氏が発表した。
 東日本大震災により発生した1F の事故以降、福島県では、子どもたちの健康や生活に対する放射線の影響を、現在及び将来において最小限に食い止めることが極めて重要な課題となっていた。
 これまでの学校教育では、放射線に関する教育が十分に実施されていなかった。
 このため、多くの人々にとって、放射線等に関しての知識はあまり持ち得てない状況であった。
 空間線量率の単位や、放射線、放射性物質、放射能等の基本的な用語ですら、教育関係者もほとんど知識を持たない状態からのスタートとなった。
 教育実践例の開発、それに基づく研修会等の開催、教材の整備等を行って行った。
 平成29年度以降は防災教育と放射線教育を一本化した事業に取り組んでいる、と説明した。

 確かに、東日本大震災では地震・津波と福島原発事故が同時に襲ってきたわけだから、防災教育と放射線教育の一本化というのは必要なことかもしれない。
 筆者の希望としては、防災教育の中での放射線教育、という位置付けの方がよい気がする。

 2E_PL02では「(2) 探究的に学び,未来を切り拓くコミュタン福島の放射線教育」というタイトルで、コミュタン福島の岡氏が発表した。
 福島県環境創造センター交流棟『コミュタン福島』は、開館して4年目を迎え、放射線や環境問題に関する正確な理解を促進し、福島県の現状を伝える展示室であり、探究的な体験研修を備えた施設である。
 現在放射線領域の体験研修は、今年放射線防護が加わり、4つの体験研修の中から選択して実験を行っている。
R2-4-21 R1コミュタン福島の概要.jpg
         図1 コミュタン福島の概要

R2-4-21R1 コミュタン福島の内容の一例.jpg
         図2 コミュタン福島の内容の一部の例

 実際には、一方的な説明による実験は避け、あくまでも探究の過程にそった児童生徒主役の体験研修を行ってきた。
  (1)身の回りの物の放射線を測定してみよう。
  (2)霧箱で放射線の飛跡を観察しよう。
  (3)α線・β線・γ線を遮へいする物を探ろう。
  (4)放射線(γ線)から身を守る方法を実験で確かめよう。
 コミュタン福島では放射線出前授業、同施設を活用した放射線個別課題研究支援、教職員向け放射線教育研修実施、小学生理科自由研究のサポート等支援、「放射線の学び」講座の開設、等を行っている、と説明した。

 ここで行っていることは立派とは思うが、全国展開という視点から見ると、福島に特化した印象を持つ。
 ここでいくら放射線の教育支援を行っても、全国に展開しないと風評被害はいつまで経ってもなくならない。
 福島風評被害撲滅キャラバンのようなもので、全国展開、または全身の放射能を測定するホールボディカウンター(WBC)を備えた車で全国行脚等を行ってはどうか、と思う。

 2E_PL03では「(3)放射線教育の広がりと継続性への課題」というタイトルで、福島大学の山口氏が発表した。
 2011年の福島原発(1F)事故を契機として、福島県では積極的な放射線教育を進めており、これまでに多くの実践事例を積み重ねてきた。
 一方で、1F事故から9年が経ち今後の放射線教育をどのように位置づけていくべきか新たな課題も現れている。
 福島県における放射線教育を概観し課題を確認することは、単に1F事故との関連として捉えるだけでなく、全国的にどのように放射線教育を展開していくかを検証するケーススタディになると思われる。
 福島県は広く、1Fに近い太平洋沿いの「浜通り」と内陸に位置する「会津」地方とでは1F事故後の環境が大きく異なり、事故後の影響と直面した課題にも違いが見られる。
 例えば、浜通りでは多くの町村で長期にわたる避難が実施されたことから、避難、帰還という視点での放射線教育が実施された。
 一方で、会津地方では1F事故後も線量が低く、直接的には生活環境にほとんど影響が見られなかったが、「風評被害」「いじめ」といった社会的観点を含めた放射線教育が小学校において行われていた。
 また、いわき市の中学校では原子力防災を意識した放射線教育、郡山市の中学校ではキャリア教育の一環として廃炉に関わる先端技術を見せる放射線教育などが行われている。
 いずれも自然放射線や放射線防護三原則などの基礎知識の上に、地域の課題に合わせた放射線教育を行うことで、児童・生徒に身近な問題として認識させたいとの期待がある。
 福島大学、福島高専では廃炉ミッションのために必要となる人材育成を目指している。
 福島県内では様々な放射線教育が実施されてきた。
 しかし、9 年を経たことにより1F事故が風化した歴史として埋没し放射線教育が後退してしまうのではないか、という危機感がある。
 これまでの知見を継続的に学校教育に位置づけられる無理のない教育カリキュラムへ昇華させられれば、他県の学校教育においても活用できる、より普遍的な内容となると期待される、と説明した。

 ここでもやはり問題なのは、福島県内に留まる教育ということである。
 福島県外に発信できる教育でなければ、風評被害は払拭できないであろう。
 例えば、他県の姉妹都市協定があるようなところと相互交流を行い、その中で相手校の中に放射線教育の芽を育てる等の地道な取組が必要になるのではないかと思う。

 2E_PL04では「(4)福島の現状を学ぶ教育モデルについて」というタイトルで、福島県立安積高校の原氏、千葉氏が発表した。
 学習指導要領の改定により、2012年より約30 年ぶりに「放射線」が中学校理科の教科書に取り上げられた。
 福島県教育庁は「放射線などに関する指導資料」を5 回にわたり発刊した。
 この資料はDVDなどの映像資料も含む内容の充実したものであるが、残念ながら高校での授業実践例は殆ど取り上げられていない。

 原氏は東日本大震災当時に文科省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定された福島県立福島高校に勤務し、スーパーサイエンス部顧問を担当していた。
 スーパーサイエンス部は科学研究を行う生徒たちが所属する部活動である。
 原子力発電所事故直後より、放射線をテーマに研究したいという生徒の要望に応え、学校や生徒の線量調査などを指導してきた。
 またフランスで毎年開催される放射線防護に関する高校生の発表会に生徒を引率し、福島の現状を学びたいと来日するフランス高校生に、福島でのワークショップを実施してきた。
 以上は課外活動としての取組であるが、授業では総合的学習の時間を利用し、受講を希望する生徒に放射線や福島の現状を学ぶ授業を実施してきた。

 千葉氏は、前任の福島県立会津高校、2018年4月に異動後の現安積高校において、物理の授業時間や課外授業で放射線や福島の現状についての授業をのべ1,000人以上に行った。 
 特に近年は授業前後に放射線の基礎知識を問うテストや福島県産品への不安感などを問う意識アンケートを実施し、分析を行ってきた。
 放射線に関するテストの結果は原発に近い現任校の方が有意に平均点数は高かったが、共通して特に体内に放射性物質が入ったときに外に出ていかないという問いへの誤答率が高かった。
 授業後に同じ意識アンケートをとり、受講の前後で回答を比較した結果、不安を持つ生徒が有意に減り、放射線への関心を高めることができたことが分かった。
 単なる放射線についての知識にとどまらず、福島の状況や復興の状況を学んだことへの高い満足度が現れている、と説明した。

 いずれも放射線教育に関して、よい実践例を示しているが、広がりがない、と言っては少し厳しいかもしれない。
 2人の先生ができる範囲の中で実践というのはよいのだが、やはり県外への広がりが少ない。
 フランスからの学生が来た、という時に、福島県外ということが発想されなかったことが残念である。

 2E_PL05では討論(講演者とフロア参加者の意見交換)ということであったが、実際はなかった。


 第2日目の午後の次はK会場「学会等組織の倫理規程と組織構成員の行動 -1F 事故後に改定した倫理規程からの検討-」のテーマで発表が行われた。

 2K_PL01では「本企画セッションの意義~1F 事故と倫理規程,倫理委員会の活動について~」というタイトルで、JAEAの大場女史が発表した。
 日本原子力学会は、学会としての基本的な理念を示した「行動指針」と、学会員の心構えと言行の規範とである「倫理規程」を定めている。
 そして、これらはいずれも福島原発事故(以下、1F事故)を踏まえ、2014年に改定を行った。
 本企画セッションでは、1F事故後のこれらの改定の背景に再度注目するとともに、現在の学会あるいは学会員の活動を現在の「行動指針」および「倫理規程」に照らし合わせ、実践できているのか、いないのか。
 今後どのような活動が求められるかに、率直な議論をしたい。

 原子力学会の行動指針は2007年に制定された。
 その後、1F事故および学会の定款の改定を受け、行動指針も改定され,現在に至っている。
 現在の行動指針は信頼醸成への貢献、社会に役立つ原子力技術の追求、国際的な活動の3本柱となっている。
 倫理規程は1998年の使用済み燃料輸送容器データ改ざん等の問題を受け、学会員の心構えと言行の規範として2001年に制定された。
 「前文」「憲章」「行動の手引」の3 部構成は、6 回の改定を経た現在も変わっていない。
 1F 事故後は若干の改定を行った。
 憲章としては、
 ・人類の生存の質の向上および地球環境の保全に貢献するとした「行動原理」
 ・公衆の安全をすべてに優先とした「公衆優先原則」
 ・最新の知見を積極的に追究するとした「真実性原則」
 ・法令や社会の規範を遵守するとした「誠実性原則」
 ・原子力の専門家として誇りを持つとした「専門性原則」
 ・原子力が総合的な技術を要することを常に意識するとした「有能性原則」
 ・組織文化の醸成に取り組むとした「組織文化の醸成」
等である。
 倫理委員会の1F事故以降の主な活動としては、東日本大震災良好事例集の発行、大会における企画セッションの実施、倫理研究会の実施を行った。
 また、2019年の学会誌の6、7 月号に委員会活動を報告した。
 ここでは1F事故前から原子力産業に関係のある産業心理学の専門家の大橋氏に講演いただき、いろいろ議論したい、と説明した。

 2E_PL02では、「『社会に役立つ原子力技術の追求(行動指針第2 条)』とは」というタイトルで、宮城学院女子大学の大橋氏が講演した。
 2011年3月11日14時46分。
 東日本大震災に遭遇した時、大橋氏は福島県富岡町にいた。
 町役場に隣接する「学びの森」で14時50分から講演をする予定で、その4 分前のことだった。

 あれから9 年。
 日本のほぼすべての発電所を回り、原子力発電所を有するほぼすべての電力会社と対話をする中で、いま大橋氏は強い危機感をおぼえている。
 福島第一原発は事故を起こし、福島第二原発、東海第二原発、女川原発は辛くも大事故は免れた。
 原子力に関わる人たちは、あの日のそれらから何かを学び、自分たちの日々の業務に、何とか活かしていこうとしている、とは思う。
 しかし、そこには温度差を感じる。
 あの日の出来事から学ぶべきことはただ一つだと大橋氏は思う。
 すなわち、「人知を超えることは起こり得る」、当たり前のことだが、これに尽きる。
 しかし、想定外の想定内化は『人知を拡張すること』に寄与し、その結果として新たな、そして『あの時より想定外な』想定外を生んでいる。
 技術にとって想定が必要であることは誰もが知っているが、想定をする以上、常に同時に想定外も存在し続けることからは目を背ける。
 人間は不安定を嫌う生き物である。
 未知は不安定の代表だから、未知から目を背けたがるのは、ある意味自然である。
 本学会の倫理規程、行動憲章には次の記述がある。
 「広く国内外の知見・経験に学び、学術および技術の向上を主導する。」
 「広く学び」、「向上を主導する」ためには、まずは自らの中の未知の存在を認め、それを維持しなければならない。
 すなわち、『自らを不安定な状態に保つ』ことが必須なのだ。
 不安定を嫌う人間としての性に抗うことは容易ではない。
 しかし、原子力災害を二度と起こさないと誓うならば、その難しさを乗り越えねばならない、と説明した。

 「想定外」という言葉が福島原発事故後によく使われた。
 大橋氏はその言葉の持つ意味をよく考えないと、また同じ失敗を繰り返す、と指摘した。
 では不安定な状態に保つための方法は何か、という提案はなかった。
 私は一つの方法として、原子力防災の一般防災への取り込みだと思う。
 今、一般防災は、首都直下地震、南海トラフ地震、富士山噴火予測(2020/3/31内閣府発表)、千島海溝地震予測(2020/4/20内閣府発表)等、日本の人を不安にさせる報道が多い。
 何かを準備しないといけないのだが、さて何をすればいいのかわからない。
 でもこのような防災は不安定状態の宝庫なのである。
 原子力防災だけに限ってしまえば、今原子力防災訓練等を行っているだけで十分と考えている人でも、一般防災まで広げると、不安定で何かをしないではいられない状態になりそうである。
 しかしそこまでやる必要はあるのか、と聞かれそうだが、考えてみると、福島原発事故は地震・津波という自然災害が引き金になっている。
 今は地震・津波に限定した対策に収束している感じがある。
 大橋氏が指摘した『想定外を想定内』に取り込んだ対策で、これさえクリアできれば安全、という認識ができつつあるのではないか。
 また、広島高裁が伊方原発差し止めの判断、とかの司法の反乱?も必要なのかもしれない。

 次はF会場「環境安全」のテーマで仮想聴講した。

 2F07は「サイト特性を踏まえたレベル3PRA 手法の検討 (1)サイトデータへの統計情報の活用に関する検討」というタイトルで、原子力規制庁の鈴木女史が発表した。
 この発表の前にレベル3PRAとは何かを書いておく。
 レベル1PRAは炉心損傷確率、レベル2PRAは放射能放出確率、レベル3PRAは健康影響確率に関するリスク評価のことである。

R2-4-23R1 レベル3PRAの概要.jpg
         図3 レベル3PRAの概要

 レベル3PRA のリスク評価の実施に当たっては、原発施設周辺の人口分布等の地域特性に基づくデータ(サイトデータ)が必要である。
 これまで、平成7-8 年度に旧原子力発電技術機構が整備したサイトデータを主に用いてきたが、現在活用可能な統計情報を改めて調査した上でモデルの再検討を行った。
 本報告では、サイトデータのうち、通常活動時の被ばく低減係数(施設周辺住民が日常的な生活を送り続ける状態を想定し、防護措置を一切実施しないケースの線量の評価に使用される)に着目してその導出モデルの内容について検討した結果、従来の値とほとんど変わらないことがわかった、と説明した。
 ここには具体的なデータがないことから、そんなものか、程度しか感想はない。

 2F08では「サイト特性を踏まえたレベル3PRA 手法の検討 (2)空間放射線量率基準に基づく避難モデル検討」というタイトルで、原子力規制庁の市川氏が発表した。
 この発表は2F07とのシリーズ発表である。
 ここでは予め運用上の介入レベル(OIL)についての知識が必要である。

R2-4-23R1 OILの概要.jpg
         図4 OILの概要(IAEA基準との比較)

 簡単に言えば、どの程度の空間線量率になったら避難するか、という避難の目安である。

 サイト特性を踏まえたリスク評価のための、レベル3PRA 手法を検討している。
 避難の開始時間への影響を考慮するため、空間線量率を避難等の判断基準として設定した防護措置モデルを確率論的環境影響評価コード(MACCS2-NRA)に導入し、サンプル解析によって機能を確認した。
 レベル3PRA では、評価対象のサイトについて、人口データ、農畜産物データ、防護対策データ等が計算に必要となる。
 防護対策データには避難の開始時間が含まれるが、従来のMACCS2-NRA では、避難の開始時間に空間放射線量率等の計測可能な値で表される運用上の介入レベル(OIL)を判断基準とする設定ができなかった。
 このため、MACCS2-NRA へOIL を判断基準とした避難モデル(OIL避難モデル)を導入した。
 OIL避難モデルの導入により、気象条件の違いによる避難の開始時間への影響を定量的に計算できることを確認した、と説明した。

 簡単に言えば、避難の目安がより柔軟性をもつようになった、と言えるようである。

 2F09では「原発事故対象大気拡散計算のアンサンブル評価 (1)大気中濃度実測値を利用した事後評価」というタイトルで、名大の中村氏が発表した。
 福島原発事故後の大気拡散計算は、国際モデル比較プロジェクト参加の12個のモデルによって同一の気象データ、放出源情報及び水平格子間隔(3 km)を用いて計算された。
 このシミュレーションは不確かさが大きいことが指摘されている。
 この国際モデル間比較プロジェクトの一環として、事故後測定された実測値を用いたアンサンブル評価を行った。
 本研究ではSPM(浮遊粒子状物質)で測定された大気中濃度実測値を用いた重み付けアンサンブルについて、統計評価を行うことで不確かさの低減について検討した。
 福島原発事故の事後評価では、大衆の内部被ばく評価に放射性核種の大気中濃度分布および時系列データが必要である。
 事故後の環境モニタリングによって大気中濃度のデータは得られているものの、空間的・時間的に離散しているのが現状である。
 本研究では、事故後得られた大気中濃度の実測値を用いることで、複数モデルによる計算結果をアンサンブル評価することによって、不確かさの低減について評価した。
 この検討の結果、各モデルの単純平均より、重み付けをしたデータがより有効、との説明があった。

 2F10では「原発事故対象大気拡散計算のアンサンブル評価 (2)緊急時応用のための事前評価」というタイトルで、名大の山澤氏が発表した。
 これは2F09とのシリーズ発表である。
 この発表は2F09の結論とほとんど変わらない結果なので、感想は省略する。

 2F11では「大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量をγ線画像から推定する手法開発 (1)研究の概要」というタイトルで、JAEAの永井氏が発表した。
 原子力機構JAEAでは、放射性物質の大気拡散予測の信頼性を向上するための研究開発として、大気拡散計算と放射線計測を融合して大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量を推定する手法の開発を進めている。
 この手法により得られる放射性物質の放出量と放出地点近傍の濃度分布データを大気拡散計算に取り入れることで、より現実に近い大気拡散状況の予測が可能となる。

R2-4-23R1 2F11 JAEA永井氏 核種濃度分布可視化の概要.jpg
         図5 放出量等を推測する手法の概要

 放射線計測技術としては、京都大学が新規開発した電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)を用いた。
 ETCCは、γ線のコンプトン散乱における3 次元電子飛跡を検出することでγ線到来方向を決定し、γ線の幾何光学に基づく完全可視化を世界で初めて実現した。
 ETCC により得られるγ線の定量的画像(入射角度分布)は放射性核種ごとにその量と空間分布を特定できることから、大気中に放出された放射性物質からのγ線に対するETCC 測定結果から濃度分布を推定する手法を開発した。
この手法では、複数箇所で測定されたγ線画像の組合せから大気中の放射性物質の核種ごとの濃度分布を一定の時間間隔で再構成するとともに、時間間隔ごとの濃度増加量から放出量も推定することを目指した、と説明した。

 ガンマ線をコンプトン散乱から可視化したことがそもそもすごい技術と思う。
 さらにこの可視化と大気拡散コード等から、放射能分布、放出量まで迫る、というのはなかなか野心的な試みと思う。

 2F12では「大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量をγ線画像から推定する手法開発 (2)大気中核種濃度分布の計算」というタイトルで、JAEAの中山氏が発表した。
 大気拡散計算と放射線計測を融合して大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量を推定する手法の開発を進めている。
 ここでは、大気中核種濃度分布の計算方法について述べる。
 この手法により得られる放射性物質の放出量と放出地点近傍の濃度分布データを大気拡散計算に取り入れることで、より現実に近い大気拡散状況の予測が可能となる。
 本研究では、現実の実験データが存在しないため、シミュレーションにより模擬実験データを生成し、解析手法の開発と検証を行う計画である。
 この模擬実験データとして、大気放出された放射性核種の濃度分布データの作成について報告する。
 大気中核種濃度分布は、原子力機構が開発した局所域高分解能大気拡散予測コードLOHDIM-LESにより計算した、と説明した。

 JAEAが開発した解析コードで、実物データがないからシミュレーションしたということで、評価のしようがないものである。

 2F13では「⼤気放出された放射性核種の濃度分布と放出量をγ線画像から推定する手法開発 (3)仮想γ線画像と応答関数の作成」というタイトルで、JAEAの中山氏が発表した。
 大気拡散計算と放射線計測を融合して大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量を推定する⼿法の開発を進めている。
 ここではγ線画像から核種分布を逆解析するために必要な応答関数の整備について述べる。
 JAEAでは、大気放出された放射性核種からのγ線を電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)で撮影した画像から、線源核種の濃度分布と放出量を推定する逆解析手法の開発を進めている。
 得られた濃度分布と放出量を大気拡散計算の入力データとして用いることで、拡散計算の予測精度を向上させることができる。
 本研究では、シミュレーションによってETCCの仮想γ線画像と逆解析に使用する応答関数行列を作成し、逆解析手法の開発及び検証を行った、と説明した。

 ちょっと違っているかもしれないが、筆者なりの解釈をしてみる。
 AX=Bという式がある。
 1次元であれば、X=A^(-1)×B(普通はB/Aと書くが、ここでは広がりを考えてこう書く)となる。
 2次元であれば、同じくX=A^(-1)×Bとなる。
 これをn次元に広げても、同じ式になる。
 Xを線源強度、Aを応答関数行列、Bを仮想γ線画像または放射能分布として考えると、AとBを求めておくとXが求められる。
 そのために、Aを様々なシミュレーションでのX0、X1、・・Xn・とB0、B1、・・Bn・から求めておく。
 万が一事故が発生した場合に、ETCCという方法でγ線画像Bを求めておけば、線源強度Xがわかることになる。
 ちょっと舌足らずのところはあるが、感覚的にはこういう手法になると思う。

 今回はここで終わりにする。

 午後の最初のセッションはF会場では「原子力政策とコミュニケーション」のテーマで発表が行われた。
 2F_PL01では「グランドチャレンジ:日本の原子力の大挑戦」というタイトルで、原子力委員会委員長の岡氏が講演した。
 原子力委員会は福島原発事故後に従来の原子力推進から中立の立場へ立ち位置を変えた。
 事務局の中のメーカー出向者等をなくして、原子力政策大綱のようなものも作成しない。
 中長期的な視点から原子力政策に取り組むとしたらしい。
 グランドチャレンジとは、イノベーションのようであり、電力業界であれば電力自由化への対応等、研究機関では知識の体系化等、大学では国際的な貢献等である、と説明した。

 第2日の午後のセッション(その2)はE会場で「未来につなぐ福島県の放射線教育の取り組み」のテーマで、発表が行われた。
 2E_PL01では福島県教育委員会の放射線教育の取組で、防災教育と放射線教育の一本化を図っているようであった。
 2E_PL02では「コミュタン福島」という放射線教育のための施設で、放射線測定や放射線防護等を体験型で学習できる施設のようであった。
 2E_PL03では福島県の各地域で行われている放射線教育を概観した。
 いずれも自然放射線や放射線防護三原則などの基礎知識の上に、地域の課題に合わせた放射線教育を行うことで、児童・生徒に身近な問題として認識させたいが、福島原発事故の風化とともに、放射線教育が後退するのでは、との危惧もある。
 無理のない教育カリキュラムの作成を考えているようであった。
 2E_PL04では福島県の教師2人が放射線教育の実践例を報告した。
 2E_PL05では講演者とフロア参加者の意見交換であったが、実際はなかった。

 上記の実践はよいことなのであるが、いずれも福島県内にとどまったものであることが残念である。
 風評被害の低減のためには、この取組を県外にも広めていけるような方法を模索しないといけないが、そこまで求めるのは酷だろうか。

 第2日目の午後の次はK会場「学会等組織の倫理規程と組織構成員の行動 -1F 事故後に改定した倫理規程からの検討-」のテーマで発表が行われた。
 2K_PL01では原子力学会の行動指針、倫理規程についての概要を説明した。
 2K_PL02では東日本大震災の時に福島県富岡町にいたという大橋氏が発表した。
 想定外を想定内化してはいけない、自らを不安定な状態におく必要がある、とした。

 私は一般防災の中に原子力防災を取り込むことではないかと思う。

 次はF会場「環境安全」のテーマで仮想聴講した。

 2F07・08は原子力規制庁のレベル3PRAという放射能放出した場合の避難の目安をどのように計算するか、という発表であった。
 2F09・10は名古屋大学の発表で、福島原発事故後の放射能の大気拡散における国際モデル12個のデータ評価で、単純平均より重み付けをしたデータが実測値に近い、とのことであった。
 2F11・12・13はやはりシリーズ発表で、ガンマ線の可視化画像から、逆算して放出量や放射能分布を推定するもので、なかなか野心的な試みである。

 以降も同じように、仮想聴講を行っていきたいと思う。

 次回は第2日目の午後の残りの仮想聴講(その5)からである。
 -以上-

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