2019年原子力学会秋の大会に参加(その2)-発表内容の説明等


 2019年原子力学会・秋の大会に参加した。

 (その2)は学会で発表された内容等の説明である。

 期間は2019年の9/11(水)~9/13(金)の3日間で、富山大学・五福キャンパスで開催された。
 今回も福島事故関連を主としたD会場(以下Dと略、会場はO会場まであった。)を主とした。

 聴講スケジュールは以下の通りとした。

 9/11(水) AM1  AM2    PM1     PM2     PM3    
   D環境放射能 同左    -   D環境放射能    同左      
 9/12(木)
   D放射線医学 同左   O倫理  B福島廃棄物   D環境放射能   
 9/13(金)
   D環境放射能 同左   D保健物理   -      -    

 AM1は 9:30-10:45くらいにある発表
 AM2は10:45-12:00くらいにある発表
 PM1は13:00-14:30にある特別セッション
 PM2は14:45-16:00くらいにある発表
 PM3は16:00-17:30くらいにある発表

 の時間帯である。

 各テーマについて整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 第二には、放射線医療関係のことを情報収集している。
 福島事故で未だに放射線による健康影響を心配している人は多く、少しでも正しいデータを収集して、放射線の恐怖を緩和できるような状況を探してみたいと思ったのである。
 また、私自身が前立腺がんにかかり、放射線治療を受けたこともある。
 第三には、今回も原子力学会の倫理や保健物理の将来に向けてのセッションとかもあったので、日頃思うところを意見として出しておきたいと思ったのである。
 後継者探しについては当分無理かなと思う。
 そもそも原子力学会で若い会員と話をする機会がない。
 若い会員が発表して、それにコメントや質疑をしても、誰もその後に会話しようとする気配がないのである。

 以下に聴講順にメモ程度に書き留めていく。

 長々と見たくない人は末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。

 第1日目の最初はD会場の「環境放射能とモニタリング」に行った。

 1D01はJAEA(原子力機構)の町田氏の発表で福島原発の港の中の汚染シミュレーションに関することなので省略する。
 1D02はJAEAの萩原氏の発表で最近話題のセシウムボール(セシウムのホットスポット的な微小粒子) に関するものであった。
  セシウムボールの構成成分がHEPAフィルタ成分ではないか、というものであった。
 1D03は福島県環境創造センターの竹内氏の発表で、セシウムボールが河川水試料から見つかったらしいが、これだけであるらしかった。
 1D04はやはり福島県環境創造センターの谷口氏の発表で、山木屋地区の除染で、河川に放射能がどの程度出てくるか、というものであったが、土砂が多くなる時に放射能が多くなるのは土壌の中に放射能が固定されているという従来のデータとほぼ同じものである。
 1D05 からシリーズ発表で「福島における放射性物質分布調査」で、予稿集のweb版のプログラムではこのタイトルだけしか載っていなくて、仕方なく予稿集の内容の部分を検索してタイトルの副題を調べるという余分の手間がかかった。
 1D05はJAEAの斎藤氏が(その1)として、「環境研究の課題」という副題で発表した。
  80㎞圏内の測定での歩行サーベイデータ、車での走行サーベイデータ、航空機モニタリング等を統合したマップを作ろうとしていた。
  私は質問で、この研究の報告書を作成するような予定はないかと聞いたが、その予定はないようだった。
  他の人が、このマップを福島県に説明するのか聞いていたが、文科省の管轄らしく、その中で閉じるような印象であった。
 1D06は京大の谷垣氏が(その2)として「KURAMA-Ⅱの展開と開発の現状と今後」という副題で発表した。
  KURAMA-Ⅱは簡易型のモニタリングシステムである。
  バス運行等に搭載してモニタリングしていたのを、農水省の委託により、放射能の高かった富岡町の農業での放射能汚染を「見える化」するために、トラクターに機器を搭載して放射能を測定するという新たな応用を展開していた。
  また原子力規制庁の委託により、発災直後のモニタリングのために、軽量小型化を目指した研究を始めたようであった。
  私は質問で、この前の北海道地震でのブラックアウトのような事態に備えて、蓄電池付きのシステムにできないかと聞いた。
  谷垣氏はそうすると重量的に厳しいものになるのでどうか、と少し疑問ではないかというニュアンスだった。
 1D07では新潟大学の後藤氏が自動車走行サーベイシステム・ASURAを使って、帰還困難区域の国道6号線を走行して、道路両側の線源調査を行った結果を発表していた。
  このASURAというのはKURAMAとはまた別のシステムで、前後左右上下の6種類の検出器を備えた車載型サーベイシステムである。

R1 R1-9-22 ASURA2.jpg
         図1 ASURAシステムの概要

  北から南に向けてのものと南から北に向けて走行したデータに大きな差異があり、車と汚染源の距離に関係すると推定していた。
  私は質問で、森林の影響が大きいと思うが、その森林地帯は国道沿いにあったのか聞いたが、明確な回答はなかった気がする。
 1D08はJAEAのLiu氏の発表で、放射能分布の2年未満、10年未満、100年未満の生態学的な半減期の話のようであったが、英語での発表だったので詳細は不明である。

 午後の最初のJ会場の「SMR」(Small Modular Reactor :小型原子炉)は今世界の原子力関係者が注目している原子炉である。
 単価は高くなるが小回りがきくので、大量生産で元を取ろうとしているような気がする。
 一応情報収集と思ってJ会場に行ってみたが、満席で立ち見の状態になりそうなので、あきらめて休憩室に戻った。
 後で予稿集を見ると、日立・GEが30万kWのBWR、三菱重工が原子力船「むつ」の応用の小型PWR、高温ガス炉や小型高速炉(W数は不明)、東芝が高温ガス炉の小型炉(1万kW)を想定しているようであった。

 午後の次のセッションはまたD会場「環境放射能・モニタリング」であった。

 1D09では東北大学の吉田女史は旧・現避難区域での家の内外の線量率を測定しており、この女史もこの研究を継続して行っている。
 1D10ではJAEAの武宮氏の原発80㎞圏内での線量率マップの異なる測定方法(歩行サーベイ、走行サーベイ、航空機モニタリング)のデータの統合に関する発表であった。
  異なる測定方法で得たデータの統合で、より正確なデータとなるようである。
  私は統合データの検証で、モニタリングポストのデータを使ったが聞いたが、使っていないようであった。
 1D11では日立の佐藤氏の生活経路に沿った空間線量率測定に関するもので、帰還後の被ばく評価に役立てようとするものであった。
  測定システムKURAMA-Ⅱを使いながら、2014年から2018年までの5年間で大熊町等ののべ311名の行動経路を評価したようであった。
  約90%の人が年間2mSv以下<普通のところでは年間2.4mSvと言われる>であった。
  私は質問でこれらの自治体と協力しているのか聞いたが、そうでないようであった。
 1D12では、ローレンス・バークレー研のWainright女史(名前がHaruko Murakami Wainrightという外国人と結婚した日本女性か?)が広域放射線モニタリングネットワークの最適化というタイトルで発表した。
  最初のパソコンのプロジェクタ接続でトラブルが発生していた。
  海外ではフェイクニュースが多いという。
  福島はゴーストタウンであるというようなものもある。
  米国では核兵器跡地でのモニタリングが重要である。
  環境の変化や異常の探知を行う。
  コミュニケーションも重要な要素である。
  ロッキーフラットはプルトニウム工場跡地でモニタリングデータを州政府が支持しており、訴訟等にも有効である。
  ここではデータの統合にベイジアン生態学的手法を用いて、長期モニタリングを行い、そのデータを基にモニタリングポストの最適化を図ったりするようであった。
 1D13ではJAEAのMalin氏が森林の放射能に関する発表を行ったが、英語だったのでほとんどわからなかった。
 1D14では筑波大の加藤氏が福島県の森林における放射性セシウム移行の現状について発表した。
  山木屋地区や浪江地区でのデータを取っていた。
  針葉樹林と広葉樹林でセシウム挙動が違う等従来とあまり変わらないデータだったと思う。
 1D15では筑波大のSaidin氏が樹木の幹と枝葉でのセシウムの移動に関して発表したが、英語での発表でよくわからなかった。
 1D16では筑波大の高橋女史が森林土壌でのセシウムについて発表した。
  土壌の変化に関して目新しいものはなかった。
 1D17では筑波大のMtibaa氏が土壌汚染と集水に関する発表を行ったが、あまりよくわからなかった。
 1D18では筑波大の恩田氏が河川の放射能分布に関して発表した。
  河川のセシウムに関しては土壌の流れの中のセシウムということのみに関心があればよいので、あまり参考にならなかった。
 1D19では福島大学の脇山氏が斜面のセシウム流出について発表した。
  土壌の流出とセシウムは関係があるが、データのばらつきが多いようであった。
 1D20ではJAEAの関氏が福島県のモニタリングポストの測定結果の時間的統合について発表した。
  福島県の1544カ所のモニタリングポスト(MP)のデータのスクリーニングを行い、1万のデータを約7千に絞り込んだ。
  この結果を評価して妥当な結果を得た。
  私は質問で、1万個のデータのうちの3千個が除外というのは少し多いので、その除外された中の傾向や分類を検討してみるべきではないかと聞いた。
  考えてみる、とのことだった。
  また、著しく外れたデータはガンマ線バースト(宇宙における爆発現象、例えていうなら、太陽フレアみたいなものか?) ではないか、というような質問もあったが、答えは忘れた。

 第2日目はまたD会場「放射線医学と生物影響」に行った。

 2D01では京大のBakr氏がBNCTにおける新しい検出方法を発表していた。
  BNCTとはBoron Neutron Capture Therapy(中性子捕捉療法)のことで、原子炉等から出た中性子をホウ素(Boron)に照射して、そこで核反応で発生したアルファ線をがん患部に当てて、がんを死滅させる技術である。
  反応を書くと以下のようになる。
  B-10+n→α(1.47MeV)+Li-7(0.84 MeV)+γ(0.48 MeV) (94%)
    or →α(1.78MeV)+Li-7(1.01 MeV)       ( 6%)
  この中性子の効果を測るのに従来は0.48Mevのγ線を測定していたらしいが、ノイズが多いのでα線を測定しようとするものらしかった。
  それ以上は不明である。
 2D02では東大のPohl氏が肺がんに放射線を照射しようとすると患部が呼吸により動くので、それを3次元CTで予測するもので、これも継続研究であり、過去に彼の発表を聞いた記憶がある。
  今回の成果についてはよくわからなかった。
 2D03では東大の酒井氏が「α線治療のためのヘリウムイオンマイクロビームDNA照射のための基礎研究」というタイトルで発表した。
  α線を前立腺がんに照射した時のDNAの損傷回復というテーマで20分で修復完了するのを修復の可視化という観点で調べていたらしいが、いかんせん医学の知識が不足していて、なおかつ前回発表の継続試験ということで、それ以上の理解ができなかった。
  ただDNAの修復及びその可視化というのは私の放射線治療(私が照射されたのはγ線でα線よりDNAのダメージは少ないし、治療効果はα線照射より劣るが、その分周りの正常細胞へのダメージも少ない。)にも関連があるので、わからないながらも関心を持っていきたいと思う。
 2D04では核融合研の小林氏が「ダイヤモンド検出器を用いたBNCT反応の直接測定」というタイトルで発表した。
  2D01でも書いた反応でα線、γ線が共に出るので、この2つを弁別するのが主要なテーマらしい。
  私は質問で、もしダイヤモンド検出器に不純物があるとしたら、その放射化が問題になるのではないかと聞いたが、まだそれほど使用しているわけではなく、放射化が出るレベルにはないのでわからないとのことだった。
 2D05では東大の竹本氏が「細胞への放射線照射による遺伝子発現変動解析」というタイトルで発表した。
  細胞への放射線照射に関する研究であるが、マクロ解析で蛍光による損傷の可視化、ミクロ解析におけるDNA修復遺伝子、BRCA(乳がんに関係)遺伝学、遺伝子発現解析、マイクロアレイ解析、qPCR法(細胞等からDNAを抽出してその中から特定の遺伝子定量を行うことらしく応用範囲が広いと後で調べた文献に書いてあった)等の遺伝学に関する専門用語が多すぎて、理解不能であった。
  少し遺伝学の知識がないとこの放射線治療分野の研究が理解できないのかもしれないと思った。

 次に同じD会場であるが、テーマは「放射線管理」だった。
 2D06では近畿大学の小川氏が「ガントリー型リニアックを用いた治療施設の漏えい線量評価」について発表した。
  モンテカルロ法を用いた計算結果なので、直接的な関係はないのだが、私が半年前に行われたガントリー型リニアックでの前立腺がんの放射線治療で、線量計の放射化現象が起きた。
  これは漏えい線量による影響と思ったのである。
  私は質問でこのような状況下では線量計の放射化はあり得るかと聞いた。
  小川氏は、彼が実験で使用したのは6Mevのガンマ線であるが、15Mevのガンマ線(私の治療の線源エネルギー)くらいであれば、漏えい線量で光核反応が起きてもおかしくはない、との答えだった。
 2D07では大阪府立大学の秋吉氏が「高い漏えい線量を示すクルックス管に対する放射線管理」というタイトルで発表した。
  放射線は新しい学習指導要領で教えることになるが、今全国の学校で持っているクルックス管は漏えい線量が大きいものがある。
  15㎝離れて200mSv/hになるものもある。
  年間の自然被ばく線量が2.4mSvであることを考えると大きな数値である。
  クルックス管のX線は20Kev程度で、普通のサーベイメータは50Kev以下はカットされるので役に立たない。
  一番簡単な遮へいは10㎝くらいの水槽を置いてやればよい。
  20KevのX線の水での半価層は1㎝(1㎝で半分の強度になる厚さ)だからである。
  私は質問で法的な規制はないか聞いたら、完全に盲点で規制がない、とのことだった。
 2D08では三菱電機の西沢氏が「中間貯蔵施設における車両表面汚染の自動スクリーニング検査装置の開発」というタイトルで発表した。
  今福島では汚染土壌がフレコンパックで1400万m3くらい溜まっており、1319カ所の仮置き場に置いている。
  1日に中間貯蔵施設へのダンプは1,500~2,000台/日で、車両のスクリーニングが大変である。
  これをカバーするためにスクリーニング装置が開発された。

R1車両のスクリーニング装置2 R1-9-21.jpg
         図2 自動スクリーニング検査装置の概要

  私は質問で横と上は測定されているが、前面のガラス部分、底の部分の汚染はどうか、また、人的なサーベイとスクリーニング装置との比較試験を行ったか聞いた。
  両方ともできていないようであった。
 2D09では大成建設の時吉氏が「被ばくトレーサビリティシステムの開発」というタイトルで発表した。
  福島等放射線を扱う現場での作業員の被ばく管理が重要である。
  そのために線量と位置情報をリアルタイムに把握するために「見える化」ツールを開発した。
  実際福島の工事現場で半導体検出器とGPS搭載のアンドロイド端末を作業員3名に約2週間つけさせて実験した。
  私は質問で、もし線量が高いところに行った場合は本人に通知できるか聞いたが、まだできないようだった。
  他の人で、これだけのデータを管理するのにはメモリが相当必要ではないか、と聞いた人がいたが、答えはどうだったか忘れた。

 この日の午後最初のセッションは当初A会場の「社会課題への貢献に向けた学会の役割」に出ようと思っていた。

 しかし、新幹線で来る途中にプログラムを見直して、急遽O会場の「技術の現場と倫理の相互作用 AI技術を中心に」に変更した。
 倫理はもういいかなと思っていたが、最後のAIというところに興味があったからである。

 趣旨説明で電中研の菅原氏は技術と倫理の相互作用について語り、最近急速な発達を遂げているAIについて、その相互作用等を議論したい、とのことであった。
 (1)では名大の久木田氏が「技術開発に倫理を組み込むこと 人工知能の事例から」というタイトルで講演した。
  久木田氏は言語哲学が専門で技術開発に倫理を組み込むことについてAIの事例を取り上げた。
  情報をキーワードとして、文理の壁を乗り越える。
  人工知能(AI)は最近倫理的な問題で大きく取り上げられている。
  その問題点を整理してみる。
  第一に安全性と制御性である。
   AIのネットワークが働いている時に人間が制御できない状況を作り出す危険性である。
   ソフトでの売買における株価の暴落等が危惧される。
   (以前テレビのAI関係の番組で、AIで株を短期的に売買するのに、市場のちょっとした変化に対応してAIは株の売買をするのは人間より優れているが、AI同士が株価の上下に引きずられて、リーマンショックのような株価の大暴落のようなことが起きるかもしれない、とのことだった。)
  第二に透明性と答責性の問題がある。
   ディープラーニング(深層学習)のように、その判断の根拠や理由を人間が理解できない可能性がある。
   だからAIが判断を誤った時にその検証ができないこともあり得る。
  第三に責任の問題がある。
   AIには多くの人が関与している。
   システムの開発者、製造・販売者、データ提供者、ユーザーである。
   (つい最近AIの自動運転車がテスト中に路上で事故を起こし、その責任は開発者にあることは明らかである。
   しかしこれが実用化した時に誰が責任を負うのか難しいことになる。)
  第四にプライバシーの問題がある。
   企業はこのAI開発には多くの良質なデータを求めるが、このデータにはプライバシーに関わるデータも多いので、企業の勇み足となるような事態も懸念される。
  第五に差別や不平等の問題がある。
   AIは人間と違って偏りがないとされる。
   しかし実際にはAIを設計した人間の見解や先入観が反映される。
   社会のバイアス(偏見)も反映される。
   結果として、AIの判断は不公平で差別的、社会の不公平さを固定化したり、助長したりすることになる。
  第六に軍事転用の問題がある。
   最近のトピックとして、自動的に標的を探して、攻撃する致死型・自律型兵器が懸念されている。
   このAI兵器は国際法に抵触するか。
   (サウジアラビアの油田を攻撃したのは無人ドローンではないか、との憶測もある)

 これらの問題点を解決するために国際的な議論が行われている。

 こうした中での倫理指針の一つの例がアシロマAI原則である。
 2017年に米のNPOが発表したものらしい。
 Research Issues、Ethics and Values、Long-term Issues の三分野に分かれて、全部で23 の原則がある。
 Ethics and Values の分野では安全性、透明性、責任、価値との調和、プライバシー、自由、利益の共有、人間による制御、社会的市民的プロセスの尊重、AI 軍拡競争などに関する原則が挙げられている。
 興味がある人は調べてみるといいかもしれない。
 私は一応日本語訳のものを入手した。

 他にIEEE(国際電気通信学会)のような機関でも議論されている。

 日本でも人工知能(AI)学会が倫理指針を出しており、その9条にAIは倫理基準に従うこととしているのが注目される。
 何のために倫理指針を作るのか。
 AI学会で紛糾した。
 好きな研究ができない、ということである。
 倫理指針を作る前にオープンに議論し、綱領から指針へと縛りの緩和等を行っている。

 ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)やイーロン・マスク(宇宙NPOスペースX社設立者及びテスラ設立者)等は「AIは人類を滅ぼす危険性がある」「核兵器より危険」と言っている。

 AIの悪用や乱用は現実的な懸念としてある。
 それを抑制する必要がある、とのことであった。

(2)では東大の出町氏が「保全分野におけるAI導入に向けた取組事例」として講演した。
 原子力保全でのAI導入については今年2月の保全学会で「AIの原子力導入」のセミナーを行った。
 AIはニューラルネットワークとして入力層、中間層、出力層の三層からなり、中間層の多層化が最近の状況である。
 (脳の神経回路を模擬したものである。)
 会話するAI、自動運転、チャットボット(チャット・ロボット<会話するロボット>)、ヒアリングの文字起こし(原子力規制委員会)等が行われている。
 ただ過度に保守的なトリコとなっていて、AIをどこに導入すればいいか、困っていた。
 AIには「弱いAI」と「強いAI」である。
 「弱いAI」は人間介在型であり、「強いAI」は自律型・人間不介在型である。
 前者のAIを目指す。
 今、保全で扱うAIタイプは9個ある。
 PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルで言えば、Pの計画自動作成、業務支援、Dの材料損傷、機器故障予測、作業アドバイス、行動監視、Cの異常診断、寿命評価、AのCAP(是正措置プログラム)自動化、SDP(重大事故につながるような重要度決定プロセス)自動化である。

 材料損傷の例でいえば、FEM(有限要素法)による亀裂予測を深層学習させたり、蒸気発生器の傷欠き深さを予測する等人間の自己決定権を持ちながら機械の故障予知を利用する。
 原子力こそAI導入の宝島ではないか、ということだった。

 この後議論のはずだったが、ほとんど時間がなかった。
 私は中国のAIによる危険人物監視等国家によるAIの悪用について意見を言ったが、政治的な発言と取られて、すぐに議論は終わった。

 午後2番目はB会場の「福島事故廃棄物処理」に行った。

 2B10では福井工大の伊藤氏が放射性土壌の磁気分離について発表した。
  セシウムを吸着しているバミキュライトは常磁性なので、磁気分離が可能、というものであったが、ちょっと無理かなと思った。
 2B11ではJAEAのYin氏が亜臨界水を用いたセシウム除去について発表した。
  セシウムの亜臨界抽出は2B13の東工大の研究の継続であり、英語のためほとんどわからなかった。
  しかし、カラムで汚染土からセシウムを脱離する際にCe3+>La3+>Al3+>Ca2+>Mg2+>K+≒Na+の順に脱離しやすく、また一般的にM3+>M2+>M+となるらしかった。
 2B12では福井工大の青木氏が「アルゴンプラズマを用いた放射性セシウムの分離研究」というタイトルで発表した。
  マイクロ波放電で生成したアルゴンプラズマを用いて、セシウムをプラズマイオンとして取り出すというもので、研究のための研究という感じで、セシウム分離の応用が期待できそうになかった。
 2B13では東工大の竹下氏が「亜臨界水イオン交換法によるバミキュライトからのCs+分離」というタイトルで発表した。
  これは2B12と続く発表である。
  汚染土1300万m3の中から放射能の高い汚染土壌10万m3に対して分級、亜臨界水でセシウム分離して、土壌を清浄化するプロセスである。
  触媒としてMgに着目したプロセスであり、温度も150℃、250℃と試していた。
  このプロセスの有効性は明らかであるが、亜臨界水を作るには相当なエネルギーが必要になる。
  以前の発表でこの辺を突いた質問もしたような気がする。
  今回の質問では、Mgに着目していたが、2B11のYin氏の結果だと、Mg2+よりAl3+の方が良い結果になるのではないかと聞いた。
  何と答えたかは覚えていない。
 2B14では東工大の金川氏が「アルミニウムを用いたアパタイト構造を有するCs含有固化体の合成」というタイトルで発表した。
  これも2B13に続く研究で、土壌から脱離したセシウムを固化体で安定化させるもので、有用な固化体ができたことを説明していた。

 午後の3番目はD会場の「環境放射能・放射線測定」に行った。

 2D15では東京都市大学の熊谷氏が「赤城大沼湖底質のセシウム吸着特性の温度依存性」というタイトルで発表した。
  湖の底質は泥もあるがプランクトン等の成分もあるようで、セシウムの吸着がよくないと説明した。
  私は質問で底質の化学分析で元素組成を調べたか聞いたが、調べていないようであった。
 2D16では産総研の小川氏が「山林土壌用放射性セシウム簡易深度分布計の開発」というタイトルで発表した。
  山林は福島県の7割を占め、キノコが食べられない、イノシシが増えて被害が出ているなどの状況がある。
  また土砂災害や森林火災が心配であるが、山林へのアクセスが大変である。
  以前開発した溜池用の深度分布計を山林に適用してみた結果を報告した。
  サンプリングして分析した土壌の放射能と簡易深度計の値がよく合った、とのことであった。
  私は質問でドローンを使った調査等との連携はどうか、と聞いたが、やっていないようであった。
 2D17では環境研の柿内氏が「大気二酸化炭素C-14評価のためのパッシブサンプラー開発」というタイトルで発表した。
  これは六ヶ所村での六ヶ所再処理工場が2007年にせん断試験を行った時の大気中のC-14の収集・分析のために開発された。
  ポンプを用いた大気吸引ではコストがかかるので、炭酸ガスを吸う性質のあるエタノールアミン溶液で捕集し、それを沈殿させた後にC-14を分析するもので、効率よくC-14が収集できたということだった。
 2D18では神戸大の梅川氏が「原発事故時における海上モニタリングデータを用いた放射性核種放出率推定手法の提案」というタイトルで発表した。
  福島原発事故では使えなかった放射能分散解析コードSPEEDIを有効にするためにはモニタリングデータが必要である。
  海上の制約が緩い観測ブイの設置を考えた。
  観測データから放出率の検討を行った。
  実気象データから逆推定する等の方法を使って、御坊火力発電所を原発と見立てて計算を行った。
  ブイの5地点のデータから逆推定計算で求めた数値はばらつきが大きいようであった。
  私は質問で、潮の流れがあるし、船の航行もあるので、5カ所のブイを固定して設置するのは難しいのではないかと聞いた。
  まだ仮想ブイの段階らしかった。
 2D19では名大の森泉氏が「地上NaI(Tl)波高分布による放射性セシウムの地表面濃度及び土壌中濃度深度分布の同時推定法」というタイトルで発表した。
  どうもNaIのデータから深度分布の推定をしていたようであるが、ちょっと強引な手法のような気がした。
 2D20から2D23は大気拡散モデルの発表だったので割愛する。

 第3日目はやはりD会場「環境放射能・自然放射線」に行った。

 3D01では名大の矢口氏が「日本国内の降水に伴う空間線量率上昇の地域的・季節的変化とラドン長距離輸送の解析」というタイトルで発表した。
  全国のモニタリングポスト11カ所で常時環境中の空間線量率が測定されている。
  この季節的な変動において、冬の日本海側が比較的大きな線量率となることがわかった。
  この原因を検討していきたい、とのことであった。
  私は質問で黄砂の影響があるのではないか、と聞いたが、はっきりした答えはなかった。
 3D02では名大の赤松氏が「長距離Rn-222輸送モデルの改良による東アジア域でのPb-210沈着計算」というタイトルで発表した。
  これも3D01と同じく、日本海側で大きな沈着があり、黄砂の影響ではないかと私は思った。
 3D03ではJAEAの栗原氏が「人形峠環境技術センターにおけるラジウムの挙動」というタイトルで発表した。
  人形峠は廃鉱になるのだが、その中でラジウムRa放射能等の安定化が求められている。
  鉱水にラジウムが流れ出さないようにするための挙動をRaと化学的に似たBaを使って調べている。
  私は土壌中のpHはいくらか聞いた。
  酸性であれば、炭酸バリウムはできないし、アルカリ性であれば、炭酸バリウムの沈殿で水の中に溶け込むことが妨害できると思った。
  pHはいくらだったかメモには残っていない。
 3D04ではJAEAの鈴木氏が人形峠ウラン鉱物の安定性評価ということ発表し、主にウランを含んだ鉱物のXRD解析に関する報告であった。
 3D05では電中研の佐々木氏が「インドネシア高自然放射線地域における放射線線量評価」というタイトルで発表した。
  インドネシアの高線量地域ということで、高い時には1.4μSv/h、年間で5mSv/年を超える地域である。
  (我が家ではだいたい0.05μSv/h、2.4mSv/年くらいである。)
  ここにdシャトルという線量計を9か月間置いて測定したら、夜間が高く2μSv/hくらいにもなった。
  これはラドンとして考えると高すぎるが、何かは不明、とのことだった。
  私は質問ではポータブルGe検出器で測定したことはないか聞いた。
  そういうものは予算のないところでは無理で、地元の研究者の話ではウランやトリウムが点在している、とのことらしかった。

 続いてD会場「放射線測定・線量評価」にいた。

 3D06では福井工大の柴岡氏が「PVA-KIゲルを用いた線量評価技術研究」というタイトルで発表した。
  放射線を用いたがん治療で放射線の可視化は正確な線量分布の評価のために必要な技術である。
  PVA(ポリビニルアルコール)とKI(ヨウ化カリウム)を用いたゲル線量計も継続した研究で、以前も聞いた記憶がある。
  今回、8GyのX線照射を行った結果について、実験値と解析の結果が一致する良好な結果が得られた。
  私は質問で、これより大きな線量での評価は可能か聞いた。
  大型化は可能なようであった。
  他の質問で、これを実際の患者で試すとしたら、鉛エプロン等の防護措置が必要になるのではないか、と聞いていた。
  しかしまだそこまでは考えていないようであった。
 3D07ではQST(量研機構)の吉井氏が「ウラン汚染瓦礫酸溶出液の全反射蛍光X線分析によるスクリーニング」というタイトルで発表した。
  春の学会発表の続き、とのことで、その辺りのデータを私は持っていない。
  瓦礫のスクリーニングをするのに、5gくらい削るのは大変で、今回は0.5gとした。
  このサンプルを処理してX線分析すると、本来のULα線に妨害要素としてBrLβ線が混入してきたが、ピークフィッティングで除去できた。
  私は質問でこの方法のオンライン分析は考えているのか聞いたが、考えていないようであった。
 3D08ではQSTの伊豆本女史が「創傷部ふき取り模擬試料中ウラン及びプルトニウムの蛍光X線分析」というタイトルで発表した。
  ウランやプルトニウムの内部被ばくが核燃料施設でよく起きる。
  この時に患部の汚染検査でαサーベイしようとしても血流でα線測定が阻害される。
  またウランとプルトニウムの複合汚染の時はULα線13.6keV、PuLα線14.3keVで、PuがUに隠れてしまう。
  そこでろ紙でサンプルを採取し、蛍光X線分析する方法を開発してきた。
  試験の結果、Puの100倍のU量があっても両方ともに分析可能という結果を得た。
  他の人の質問では血がドバドバ流れている場合にはどうするのか聞いていたが、答えは忘れた。
 3D09では東電の田中氏が「1/2号機共用排気塔の解体計画における排気塔内部の汚染評価について」というタイトルで発表した。
  排気塔は解体が決まっているが、その際にどの程度の汚染があるか評価する必要がある。
  まず上から120~60mの解体がある。
  飛散防止剤や飛散カバーを設置する。
  ダスト監視も行う。
  今回の試験ではCZT半導体検出器をクレーンで吊って排気塔内部に下して放射能測定を行った。
  今回の結果敷地境界で1mSv/年以下であることを確認した。

R1 R1-9-22 排気塔モニタ装置2 R1-9-22.jpg
         図3 排気塔内部の汚染調査の状況

  私は質問でα線のスミアとかはしていないかと聞いたが、底部の液のα線分析を示されただけであった。

 午後にはD会場の「中長期の保健物理・環境科学研究の方向性」に行った。
 (1)ではQSTの吉田氏が「QSTの放射線影響・被ばく研究」というタイトルで講演した。
  QSTは放射線医学総合研究所と原子力機構の核融合部門と量子ビーム(主に高崎研)を統合したものである。
  職員1200名、年間予算400億円である。
  被ばく医療関係で量子生命科学部門を創設した。
  次世代放射線施設整備計画、被ばく医療の体制強化に努力している。
  高度被ばく医療センターは44名いる。
  QST病院は切り離した。
  最近の研究例では被ばく後の乳がんは妊娠・出産経験でリスク低下がわかってきた。
  思春期前の被ばくでは乳がんは少ない。
  J-RIME(被ばく医療研究情報ネットワーク)を構築している。
  JAEAのPu被ばく作業員の受け入れを行った。
  わが国で初めてキレート剤のDTPAを用いた治療を行った。
  (キレート剤はPuやCu等の遷移元素に対して、キレート捕捉を行うので、これで体内のPuの除去を狙っているものと思う。)
  私は私は質問で、広島・長崎、チェルノブイリ原発事故、福島事故の患者の内臓のα、β、γ核種の分布データを取ることはないか聞いたが、そういう予定はなさそうだった。

 (2)ではJAEAの植頭氏が「保健物理・環境科学研究における原子力機構の役割」というタイトルで講演した。
  JAEAは事業所が北海道・幌延(地層処分研究)、青森(原子力船・むつ)、東海、大洗、福島地区、東濃(地層処分)、敦賀(もんじゅ、ふげん)、人形峠と全国に分散している。
  福島地区では楢葉に遠隔技術開発センター(水中ロボ、ドローン、VR<バーチャルリアリティー>で作業員訓練等)、相馬に遠隔モニタリング研究所、三春町に環境創造センター、富岡に廃炉国際共同センター、大熊町に分析研究センター等を設置している。
  福島事故での相談件数は34,000件にも上った。
  Pu汚染事故では迷惑をかけたが、この事故の水平展開であちこちが混乱した。
  今は意識改革、業務のスリム化、出口戦略、科学データの蓄積等を行っている。
  私は質問で「福島のセシウムのゆりかごから墓場まで」のようなシナリオを作成するつもりはないか、また最近防災の分野でやさしい日本語というのが流行しているが、やさしい日本語で作ってはどうかと聞いた。
  あまり乗り気ではないようであった。

 以上で今回の2019年原子力学会秋の大会の聴講は終了した。14:30であった。

 最初に掲げた各テーマについて自分なりの収穫を整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 森林に関するものが若干あった。
 森林から土壌に移行して、そこで安定化するような機構なのではないかと思う。
 土壌に入ったものは田畑でも山林でも同じく粘土層にセシウムが固定化して安定して存在する。
 何も対策を打たなければ、30年でやっと半分の放射能ということは変わらない。

 放射能分布に関しては今までバラバラだったデータを統合していく試みが出てきた。
 これをわかりやすい報告書の形でできれば、と思う。

 セシウムボールはホットスポットとして危険であるが、もうほとんど影響はないとみて差支えない。
 しかし、研究者は熱心に研究し、マスコミはそれを危険の代表のように取り上げるのはどうかと思う。

 今回の特徴としては、やはり放射線医学関係の発表が多くなった。
 放射線を測定する線量計としてのDNA模擬体、また損傷したDNAの修復に関する研究や可視化の試み等の新しい展開が期待できる。

 今回はトピックとして、AIと倫理に関してのセッションが参考になった。
 世界に先駆けてアシロマAI原則のようなものが出ていることに心強さを感じると同時に、国家がAIを悪用する中国の反体制派駆逐等をみると、AIと倫理の住み分けは可能なのかと不安に思う部分もある。

 前回は前立腺がんの放射線治療で参加できなかったが、今後はこうした学会に極力参加して、福島関係の情報収集をしたいと思う。

 また、私の知的興味をくすぐる情報や多少不安になる情報もあり、希望と不安の入り混じった未来になるかも、という気もしている。
  -以上-

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント