核セキュリティ研究会に参加

 核セキュリティ研究会(H31-4-26)に参加した。

 4月17日(水)に原子力学会より上記研究会の案内メールが届いた。
 東京オリンピック2020年が開催されるのに向けて、核セキュリティは喫緊の課題である。
 以前から核セキュリティのシンポジウムにはかなり参加しており、今回のシンポジウムにも行って、最新の情報等を得たいと思い、すぐに参加申込のメールを研究会事務局に送った。
 翌日事務局より参加了承のメールが届いた。

 研究会当日は晴れていたと思う。
 会場の東工大の田町キャンパスのキャンパスイノベーションセンターは以前行ったことがある場所だったので、比較的楽に行けた。
 JR田町駅を降りて、すぐ、歩いて2分くらいのところにあった。
 途中で500mlのペットボトルのお茶を買って行った。
 会場は2階であり、すぐに逃げられる場所なので、非常口は確認しなかった。
 トイレには行っておいた。
 会場は普通の教室みたいなところで、30人くらいで定員くらいの広さだったように思う。
 受付で名前をいうと登録済を確認してくれたが、資料は何もなかった。
 研究会も手作り感があって、いきなり始まったように思う。

 最初の講師はJAEAの核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)の木村氏で、主に核鑑識について講演した。
 核セキュリティの脅威については図1のようなことが考えられている。

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         図1 核セキュリティの脅威の概念図(外務省HPより抜粋)

 原子力施設等から核・放射性物質が盗まれたり破壊されたりして持ち出され、NED(核起爆装置)やRDD(放射性物質の飛散装置)等により爆発させて、物的・人的被害を引き起こすものである。
 人の集まる駅や空港等でこの種の爆発が起きると損害は大きいものになる。
 これに関する国際的な監視組織もある。

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         図2 核セキュリティの脅威を監視する国際的な組織図

 核鑑識については、過去の核セキュリティシンポジウム等でなじみがある用語であった。
 私はテレビ朝日の「科捜研の女」をよく見ている。
 例えば殺人という犯罪が起きるとする。
 その現場に行き、犯行に使われた凶器や犯人につながる証拠を集める。

 これと同じことが核鑑識でも行われる。
 ある放射性物質の汚染がある場所に行くとする。
 その汚染物質は何か、ということを試料採取して、分析できる研究所に搬送する。
 研究所で核物質かRIかを特定し、分析する。
 分析の結果、汚染物質の特定を行う。
 汚染物質を核物質データベースと照合して過去の事例を検索する。
 犯人の指紋が付いた凶器等の指紋を鑑定して、過去の指紋データベースと照合して、犯罪歴のある犯人かどうか、凶器の入手方法等を確認する作業に似ている。

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         図3 核鑑識の概念フロー

 これと並行して核検知というのもある。
 これは核物質等の汚染行為の未然防止という側面を持つ。
 対象となる核・放射性物質の量、対象物と測定器の距離、測定可能な時間、バックグラウンド放射能の存在、遮へい物の存在、センサーの性質等が関連する要素である。
 これら2つの事項について各国で整備を進めている。

 ここで用語としてMORC(規制管理外の物質)が出てくる。
 MORCの起源や履歴を整理し、グローバルな核セキュリティの対策を取る。
 IAEAでデータベース約3千件で、年間130件くらいが報告されている。
 Group1(たぶん核物質)の線源約300件で、プルトニウムPu2件、Pu-Be8件等がある。
 ソ連崩壊後のどさくさで流出したものが多い。

 毎年1,2件の例があり、そのうちの3例を挙げる。
 ミュンヘン空港のルフトハンザ航空でMOX(ウランとプルトニウムの混合酸化物)、トリチウム汚染金属等が見つかった。
 ドイツのITUという専門機関で分析してPu-239(核爆弾に使える)がかなりの割合のMOXだったようである。
 (筆者注:後でグーグル等で検索してみたが、事件らしい資料は見当たらなかった。)

 2つ目はブルガリア国内で10gの高濃縮ウランが見つかり、U-236の割合が高かった。
 (筆者注:U-236は再処理で出てくるもので、放射性物質として迷惑物質の意味合いが強い。ただし、この記事もグーグルで探したが出てこなかった。)

 3件目はドイツのカールスルーエで放射性廃棄物を盗んで、奥さんに飲ませた事件があったらしい。
 (筆者注:これもグーグルで探しても出てこなかった。)

 核鑑識の目的はMORC(盗難RI等)が国内由来か外国製なのかを判別するためである。
 MORCの種類、脅威、使用目的は何か、等を明らかにする。

 ここでまた聞き慣れない用語が出てくる。
 シグネチャ(痕跡)という用語である。
 物理的なシグネチャと化学的なシグネチャを分析で明らかにするという。
 性質というのを核鑑識特有の使い方をしているのかもしれない。
 物理的シグネチャは粒径とか形状であろうか。
 化学的シグネチャはUO2、UO3、イエローケーキ(ウラン精鉱)の不純物組成である。
 この他に同位体シグネチャというのもある。
 安定核種の同位体組成、ウランの濃縮度、プルトニウムの濃縮度、娘核種との同位体比(筆者注:RIはある時間を経過すると崩壊して他の元素に変わる。例えば、セシウムCs-137は30年で半分がガンマ線とベータ線を出してバリウムBaに変わる。)等で、どのシグネチャが重要になるか、を判別する。

 テロ対応体制を整備しないといけない。
 国としてどう対応するか。
 警察等司法、JAEA等がある。
 核鑑識をどこが主導するか。
 専門機関の支援が必要になる。
 指紋やDNA分析との連携も必要になる。
 日本以外ではEUやアメリカの体制整備が進んでいる。
 分析データの解釈が必要で、そのための核鑑識ライブラリが重要になる。

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         図4 核鑑識ライブラリの概念図

 このライブラリシステムは核物質データベース(DB)とRI分析DBの2本柱からなる。
 前者は原子炉で照射される前後の条件や性状を登録しておくもので、後者は物理的、化学的、同位体的シグネチャを登録しておくものである。
 また分析ラボも重要になるし、分析技術の確立も重要になる。
 司法手続きとしては証拠品としての管理を行う。
 EUではドイツのITUが主体で行う。
 日本ではJAEAが行う。

 日本での核鑑識技術開発の例は以下の通りである。

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         図5核鑑識技術開発の例

 ここ数年、核鑑識の論文数は増えている。
 新しい分野で年間数10件である。
 初動対応、物質輸送、分析となる。
 技術開発ニーズとしては初動対応、原因核種の特定、現場の汚染度、軽量機器、イメージング技術、多核種分析、現場の被ばく管理、システムの自律性、試料採取の安全性、防護、被ばく管理等がある。
 輸送に関しては輸送容器の開発がある。
 試料がラボに送られた後の分析、汚染試料の取扱、分類・汚染状況の把握、指紋やDNAの採取がある。
 分析手法として即時性、分析化学の手法、信頼性向上の問題がある。
 シグネチャの見分け方として、どのシグネチャ(物理・化学・同位体)がキーポイントとなるかが必要になる。
 分析データの解釈の上では、データベースの技術、AIの活用等が考えられる。

 ここからはJAEAのISCNの紹介があったが省略する。
 もし興味がある人は以下のURLを見て欲しい。
  https://www.jaea.go.jp/04/iscn/

 次には科学警察研究所の土屋氏が講演した。
 土屋氏は事件が起きて、試料が持ち込まれる前の状況について説明した。
 科捜研の方がテレビ等で有名である。
 科警研は国の組織である。
 Nuclear Forensics(核鑑識)やNBCテロに対する研究を行っている。
 (筆者注:NBCは核・生物・化学兵器などのテロである。) 
 指紋の分析では、今はレーザーを当てると蛍光が出て、その寿命を利用して取る方法になっている。
 初動対応を中心に4つの恐れを指摘した。
 盗取、核放散装置、ダーティボム、妨害破壊である。
 NBCテロより広範囲な意味のCBRNEテロを説明する。
 NテロよりRテロ(核爆発より、RI飛散)で社会的な混乱を煽ることが増えている。
 MOXについては1994年のミュンヘン空港、1995年にロシアでダーティボム未遂事件が起きた。
 2005年にシカゴでダーティボム、1999年の日本のJCOで臨界事故、2000年に大阪高槻でI-125をばらまく事件があった。
 水溶液のRIをドローンでばらまく等が心配されている。

 核鑑識の初動対応として、爆発前鑑識、爆発後鑑識、ダーティボムで物質変成、ガンマ線分析、表面汚染、核鑑識トレーニング、外観検査、写真撮影、X線イメージング、重量、形状、X線ラジオグラフィ、現場でガンマ線スペクトル測定、K-40やTl-208等のバックグラウンド、工業製品や医療品としてのRI、NORM(自然起源の放射性物質)、Ge検出器、NaI・CsI検出器(日本製でないので表記が英語は困る)、ウラン濃縮度のグレード、国内のものか・国外のものか、等の問題がある。

 柏市に科警研の研究所がある。

 核鑑識の体制に向けて米国は明確に法律で定めている。
 カナダも進んでいる。
 EUはドイツのITU中心で、韓国も進んでいる。
 NBCテロ体制は警察と消防が関係する。
 非RIとRI汚染の区別が必要となる。

 核鑑識の課題として試料の採取、輸送、保管、ライブラリーの管理部署等がある。

 核検知と核鑑識において、分析機器に求められるニーズとして、迅速・簡便・軽量がある。

 また核鑑識の訓練については実際のRIを使って行う。
 線量率測定、核種同定、線源探索、これは防護しながら近づく、等を行っている。
 東工大では核物質を使った演習やウラン濃縮度検認を行っている。
 米のDisaster cityでの演習もある。
 ビルの陰の効果も確認できる。
 自分たちで測定しながらゾーニングする。
 2μSv/h程度の線量率のRI線源(普通のバックグラウンドの50倍程度)を使った演習はリアリティがある。

 仮の放射線測定システム「ウソトープ」(アイソトープにひっかけた命名)という、電波強度を放射線になぞらえたシステムを開発した。
 線源不要で、インストールが容易である。
 イエローケーキをばらまいたという訓練で、駅にいる人たちの表面汚染を検査するというような演習も行った。 
 今はGPSを使った「ウソトープ」を開発中であるということで、講演は終了した。

 この後、質疑応答に移った。
 私は以下の質問をした。
 少し前に原子力規制委員会HPにインターネットでの核物質売買は違法だというメッセージが載っており、実際それに類する事件が起きていた。
 核鑑識ライブラリは一国の管理だけでは無理で、国際的な連携の核鑑識ライブラリが必要ではないか、と聞いた。
 これに対して木村氏は、保障措置に絡むような内容もあるので、国際的な連携ということでは少し無理があるが、各国にメールで問合せ等は可能なので、そういうことでカバーすることは可能であると回答した。

 また私は、江東区の地区防災計画等で、放射線関連の事故が発生した時には東京都と協力して、とあるが、東京都はそういう訓練はできているのか、と聞いた。
 すると土屋氏は東京都の場合は警視庁管轄となるので、彼らにはそういう訓練がなされているので大丈夫ではないか、との回答だった。

 他の人から、初動対応がやはり心配、とか、人材育成は大丈夫か、等の質問が出たが、今まで経験がないことなので、それを想定することは難しい、というような回答だったと思う。

 核セキュリティに関しては、東京オリンピックが近いこともあり、いろいろ情報収集する必要があると思っているので、今後もこうした研究会があれば参加したいと思う。


<核不拡散等連絡会と日本核物質管理学会(INMMJ)との合同研究会>
テーマ:核セキュリティを支える核鑑識の実施能力整備に向けた技術開発と今後の課題
1.概要
 法執行機関などにより押収された規制外の核物質及びその他放射性物質を分析・解析し、それらの起源や履歴などを特定するための核鑑識について、近年、国際的な核セキュリティの強化に向けて各国でその実施能力の整備が進められている。
 我が国においては、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催を控え、核物質・放射性物質の不法移転やそれらを用いた核・放射線テロを防止し、またそれらの事案が発生した際に迅速に事案対処を行うための能力整備が喫緊の課題である。
 本研究会では、規制外物質や核・放射線テロ事象対処などの国内の核セキュリティ強化に貢献する核鑑識について理解増進を図るとともに、初動対応から核物質及びその他放射性物質の分析・解析に至る一連の核鑑識活動に係る技術開発の現状について共有し、国内の核鑑識実施能力整備に向けた今後の課題、技術開発のニーズについて専門家と意見交換を行う。

2.日時:2019年(平成31年) 4月26日(金)14:00-16:00
3.場所:東京工業大学キャンパスイノベーションセンター 2F 多目的室1(田町キャンパス)
4.参加費:学会員、非学会員を問わず無料
5.講師:
 木村祥紀 氏(JAEA 核不拡散・核セキュリティ総合支援センター)
 土屋兼一 氏(科学警察研究所法科学第二部)

  -以上-

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