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zoom RSS 2018年原子力学会秋の大会に参加(その2)−発表内容の説明等

<<   作成日時 : 2018/09/23 20:55   >>

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 2018年原子力学会・秋の大会に参加した。

 その2は学会で発表された内容等の説明である。

 期間は2018年の9/5(水)〜9/7(金)の3日間で、岡山大学・津島キャンパスで開催された。

 今回も福島事故関連を主としたK会場(以下Kと略、会場はP会場まであった。)を主とした。

 聴講スケジュールは以下の通りとした。

9/5(水) AM1   AM2    PM1         PM2        PM3    
  K環境放射能 同左    B福島復興    K環境放射能   同左      
9/6(木)
  J放射線医学 同左    L学会情報発信 A医療応用     −     
9/7(金)
  K放射線計測 同左    C災害倫理    Kウラン廃棄物  −     

 AM1は9:30−10:45くらいにある発表、AM2は10:45−12:00くらいにある発表、PM1は13:00−14:30にある特別セッション、PM2は14:45-16:00くらいにある発表、PM3は16:00-17:30 、PM4は17:30-18:30くらいにある発表時間帯である。

 各テーマについて整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 第二には、放射線医療関係のことを情報収集している。
 福島事故で未だに放射線による健康影響を心配している人は多く、少しでも正しいデータを収集して、放射線の恐怖を緩和できるような状況を探してみたいと思っている。
 第三には私の研究の後継者探しという面がある。
 その他として、今回も原子力学会の情報発信とか福島復興に向けてのセッションとかもあったので、日頃思うところを意見として出しておきたいと思ったのである。

 以下に聴講順にメモ程度に書き留めていく。

 長々と見たくない人は、末尾にまとめを書いておくので、それだけみればいいかもしれない。

 第1日目の最初は環境放射能とモニタリングがテーマのK会場に行った。

 ただ今回は台風21号の影響で、山陽新幹線が運休で9/4(火)午後に岡山には来られなかった。

 岡山大学の会場に到着したのは午前11時過ぎであり、午前中のK会場の発表はほとんど聞いていない。
 一応後で、予稿集を確認してみると、1K01-07まではKURAMA-Uという簡易線量計システム等を使った福島県の空間線量率のまとめというものであったから、これらのデータについては曲りなりにも理解できているつもりなので、聴講できなくても差支えはなかったと思う。

 PM01では、B会場の「学協会は福島復興と廃炉促進に向けてどのように貢献すべきか」という企画セッションで今回の一番の目玉と考えていた。

 会長あいさつに続いて、順番では福井大の松本氏であったが、やはり台風21号の影響で到着が遅れている、ということで、先に東工大の松本氏が「放射線被ばくと健康・コミュニケーション 論点と意見のまとめ」について話した。
 100mSv以下の発がんの確率、ICRPの考え方、原爆被爆者の線量とがんの関係、チェルノブイリ原発事故との比較、疫学の限界として、個人差、生体防護能力、しきい値、等通り一遍の講演で終わった。

 その後、遅れていた福井大の松本氏(放射線影響学会)が到着して「放射線被ばくと健康・コミュニケーション 福島県民健康調査」について講演した。
 福島原発事故後の3/18より放射線相談窓口を立ち上げ、活動してきた。
 (私は学会後にこのブログを書いている時に、放射線影響学会のHPを見て、確かに早い段階でこの窓口を立ち上げたことを確認した。) 
 メールでの質問対応を行い、現在40名で行っている。
 県民の政府に対する不信の払しょくの面もあったらしい。
 言った、言わないの議論をしたくないので、メールはすべて記録として残し、会員全員で回答共有し、ブラッシュアップして返信した。
 相談者は母親が多かった。先生や医師も多かった。子どもへの影響を心配していた。
 政府のデータは根拠不明なこともあった。
 現地に乗り込んで対応ということもやった。少なくとも3名で月に3回は行き、今までに200回以上になる。
 でも効率が悪いので、少人数のセミナーにした。
 検討委員会で194人が甲状腺がんの疑いということが新聞報道で独り歩きした。
 実際は153人で、他の県の発生率から推定すると、243人見つかってもいいはずだが、そんなには見つかっていない。
 がんと診断されても命に異常がないケースも多いが、こうしたことがあまり報道されない。

 次に中央水産研の森田氏が「トリチウム水の取扱い」というタイトルで講演した。
 トリチウム水は福島原発事故で原子炉を冷却する水をALPSシステムという万能型システムで処理した時に、どうしても取り切れない放射性核種としてトリチウム(水素の親戚)が残ってしまう。
 このトリチウム水はタンクに貯めているが限界に近づいている。
 トリチウムタスクフォースというグループがあるが、処理方法を認める委員会ではなくて、コストは無視して技術的なことだけを検討する。
 分離はほぼ無理である。
 トリチウムTは水素の同位体だから、水の中のHと同位体置換して、H2Oから容易にHTOとなってしまう。
 海洋放出だと30億円、地中埋設等では2,000億円と桁違いにコストがかかる。海洋放出したいが、風評被害を怖れ、水産業界が了解しない状況にある。
 タンクは強固なのでずっとタンクで貯蔵を続けて欲しいらしい。

 5番目はJAEAの宮原氏が「トリチウム水の取扱い 論点と意見のまとめ」というタイトルで講演した。
 トリチウム水の規制基準を守って放出すれば、法律上では問題ないが、社会的な問題がある。
 トリチウム水の貯蔵は後5,6年くらいでスペース的に限界らしい。
 コスト的には海洋放出でOKだが、環境評価はなされていない。
 貯蔵が最もリスクは低い。
 海外の事例では米TMI(スリーマイルアイランド)原子炉溶融事故でのトリチウム水の処理で、米NRCは9つの選択肢を用意し、最後には蒸発処理した。
 (福島原発事故の場合では、その汚染水量がけた違いに多いから、この蒸発処理は難しいと私は思う。)
 放出した時にトリチウムは濃縮されないので、希釈放出することを東電は示すべきと思う。

 6番目は東大の鈴木氏が「燃料デブリ取り出しにおける潜在的課題」というタイトルで講演した。
 正直に言ってよくわからなかった。
 デブリ取り出しは将来技術である。各学会は何をするべきか。原子炉は7Sv/h(1時間いると人が死亡するレベル)、ペデスタルという原子炉下部のデブリが多くある場所では70Sv/hであり、こういうところで将来何が起きるか。デブリ取り出しでオンサイト(建屋内等)とオフサイト(建屋外、広く周辺全体)で何が問題か。
 技術面だけでなく社会的な側面も考える。
 これからの研究を担う若者にどういう興味を持たせるか。
 ロボット系なら自動運転等他の分野にも応用できる。技術者の高齢化の問題もある。

 7番目は法政大の宮野氏が「学協会連絡会への期待や連携の在り方−廃炉検討委員会から」というタイトルで講演した。
 廃炉検討委員会として何をするか、汚染水処理、デブリ処理、燃料取り出し、ガレキ処理処分をどうするか。 
 ロードマップはあるものの、先が見えていない。
 視野はたくさんあるので、シンポジウム等を開いて意見交換していきたい。

 8番目はNUMO(高レベル地層処分の機関)の布目女史が「学協会連絡会への期待や連携の在り方−福島特別プロジェクトから」というタイトルで講演した。
 福島特別プロジェクトでは、オフサイトの活動で地元と寄り添う活動をしてきた。
 女性のみの登壇者のシンポ、環境再生プラザ(以前除染情報プラザ)への専門家の派遣(のべ800人)、JAふくしまとのコラボで稲作試験等を行ってきた。

 私は質問で、広島・長崎の被爆で、臓器のアルファ、ベータ核種の蓄積データはあるか、トリチウム水による生体濃縮はあるか、トリチウム水中に魚を放流する実験等はどうかと尋ねた。
 臓器の件は若干データがあるように説明していたが、具体例は示さなかった。
 でも臓器のサンプルは保存しているので、今からでも分析は可能、とのことだった。
 トリチウム水の生体濃縮はない。

画像

        図1 トリチウム水の生体濃縮のないことの説明(第3回H-3タスクフォース資料より抜粋)
 
 これについては福島の漁業関係者も知っている。でも風評被害が怖いようであった。
 トリチウム水のタンクの中に魚を放流、ということでは、おそらく放射線により死ぬであろう。
 だから希釈して放出する必要がある、との説明だった。

 会場から他の質問で、宇宙飛行士の被ばく管理をなぜ取り入れないのか、ということを質問した人がいた。
 これは女子栄養大学の香川氏の関係者だった。
 面白い質問をするなあ、と思い、セッション終了後に話をしに行った。

 また、トリチウム水を沖ノ島のような離れた場所に廃棄してはどうか、という意見もあった。これは放射性ドラム缶の海洋投棄と同じ扱いになり、禁止されているようだった。

 午後2番目はまたK会場(環境放射能・モニタリング)に行った。

 1K08は「福島における放射性物質の分布状況調査 (8)土壌中深度分布調査結果の経時的な変化」というタイトルで、JAEA松田氏が発表した。
 この調査は土の中のセシウムの深さ方向の分布と空間線量率の関係で表面に近ければ線量率が高い、という常識的なことを言っていた。
 1K09は「福島における放射性物質の分布状況調査 (9)福島県の森林における樹冠通過雨及び樹幹流の放射性セシウムの濃度変化要因」というタイトルで、筑波大学の加藤氏が発表した。
 針葉樹のスギの木はセシウム放射能の減衰が早いが、広葉樹のコナラの木は減衰が遅い等樹種によるセシウムの減衰状況が違うようで、これらの原因を解明したいようであった。
 1K10は「福島における放射性物質の分布状況調査 (10)福島事故から7年間の森林土壌中の放射性セシウムの深度分布変化」というタイトルで、筑波大学の高橋女史が発表した。
 リターという樹枝の葉や枝などの落下物のセシウムの土壌への移行が早い、ということが推測されており、これを確認しようとした。スギのリターは早いが、杉と広葉樹の混交林では早くない等の現象が見られたようである。
 1K11は「福島における放射性物質の分布状況調査 (11)福島県山木屋地区の森林におけるリター層及び土壌層の放射性セシウム濃度と含水率の変化」というタイトルで、筑波大学の栗原女史が発表した。
 リターの含水率が高いとそれによって若干放射性セシウムの放射能が遮へいされるというもので、あまりはっきりしたデータではなかった。
 1K12は「福島における放射性物質の分布状況調査 (12)森林小流域における渓流水の溶存態・懸濁態セシウム137濃度低下傾向とその要因」というタイトルで、筑波大学の恩田氏が発表した。
 森林傍の小流域のセシウム放射能の濃度に関するもので、草地が多く、森林が少ない地域の方がセシウム放射能の減衰が早いという常識的な発表であった。
 1K13は「福島における放射性物質の分布状況調査 (13)斜面における土壌浸食にともなうセシウム137深度分布及び空間線量率の変化」というタイトルで、福島大学の脇山氏が発表した。
 斜面が多いと、そこで土砂となって流れていくことでセシウム放射能の減衰が進むということで、あまり大したことではないと思った。
 1K14は「福島における放射性物質の分布状況調査(14)常磐自動車道における空間線量率分布」というタイトルで、JAEAの武宮氏が発表した。
 常磐自動車道が開通後からその道路におけるKURAMA-Uシステムという測定システムで空間線量率分布を継続して調査していた。
 除染が行われた地域では通常の減衰以上の減衰があったという当たり前のことをデータとして示した。

 次は1K15のはずであったが、台風21号の影響で来られなかった1K06の「福島における放射性物質の分布状況調査(6)除染後の空間線量率の将来予測手法と実測データによる検証」というタイトルで、JAEAの山下氏が発表した。
 除染のシミュレーションコードRESETを使い、2成分モデルを使い、除染直後の空間線量率を使い、その後の空間線量率予測をするものであった。
 原発に近い大熊町で100μSv/hから10μSv/h程度まで低下との説明であったが、まだ高い線量という気がした。
 1K15は「福島県内空間線量率の経時変化傾向の分析(3)経時変化マップの作成と評価」というタイトルで、福島県環境総合センターの松本氏が発表した。
 福島県民に分かりやすい情報を提供するという趣旨であった。
 浪江等帰還困難区域の12市町村のサーベイメータ、モニタリングポスト、走行サーベイ(おそらくKURAMA-Uシステム搭載)、航空機サーベイ等の500万点のデータを統合したマップを作成した。
 広野から南相馬までの区間を100m間隔で区切り、航空機データと走行データを比較した。
 前者の方が高い傾向を示した。
 これは道路補修等で線量は下がったが、航空機は周りの影響で高く出る、との説明だった。
 1K16は「福島県浜通りダム湖におけるセシウム動態季節変動の数値解析」というタイトルで、JAEAの山田氏が講演した。
 今福島で問題として残っているのは、森林と湖のセシウムである。
 山田氏はダム湖の底に溜まっているセシウム動態を解析した。
 温度が上部で28℃、底部で6℃と温度差があり、これらの状況がどうセシウムと関係しているかイマイチ理解できなかった。
 1K17は「福島原発事故により放出された放射性Cs含有粒子の溶解挙動の解明」というタイトルで、東大の奥村氏が発表した。
 以前から話題になっているCsボールの話で、水に不溶でケイ酸塩ガラスが主成分である。
 ホットスポットの原因の一つである。
 このCsボールは海水での溶解が早く、10倍くらいのスピードである。
 このことが事実であれば、海に落下したCsボールは早く消滅するので、陸より海に落下してくれていればホットスポットはもっと少なかったかも、と思ったりした。 
 1K18は「森林内での菌類有機分子とセシウムの選択的錯体形成機構の理論研究」というタイトルで、JAEAの数納氏が発表した。
 森林のキノコ類もやはりセシウムを取り込む機構を持っているらしいが、理論計算ということでちょっと理解できなかった。
 ほんとは1K19まであったと思うのだが、私のメモは1K18で終わっている。
 多分あれば聴講しないことはないので、おそらく発表中止だったのであろう。
 この場合は会場の黒板に中止と書いてあるのみであるから、そこまでメモしなかったと思う。

 2日目は最初J会場(放射線医学と生物影響)に行った。

 2J01は「Effect of Blood Flow for Combination of Hyperthermia with Radiation Therapy for Treatment in Breast Tumors」(乳がんでの放射線治療と温熱療法の組合せによる血流効果)というタイトルで、東大のBarrios女史が発表した。
 英語の発表なので理解はイマイチであったが、図からファントムを使ったシミュレーション実験らしいことは推定できた。
 2J02は「3D image reconstruction for real-time monitoring and tumor tracking in radiotherapy through optical flow and principal components analysis」(光学流と1次成分を通した放射線治療でのリアルタイムモニタリングとがん部位追跡での3D画像再生)というタイトルで、東大のPohl氏が発表した。
 肺がんの放射線治療でのリアルタイムの画像再構成を実施しているらしいことは理解できた。
 肺は呼吸した時に動くので、患部への放射線治療は難しいことは以前の東大の発表で認識していた。
 以前のものは人工知能AIを使った解析だったように思うが、今回は数学的な手法を使ったもののようであった。
 2J03は「メスマウスに対する放射線の寿命短縮の解析」というタイトルで、阪大の衣川氏が発表した。
 阪大は従来のLNT仮説(放射線を浴びれば浴びるほどダメージは大きい。身体の機能による回復を考慮しない。放射線医学の面では安全側に考えているのだが、この錯覚のために多くの人が恐怖する結果を招いている)と違って、WAM理論(放射線で身体がダメージを受けても、身体の回復機能で回復することも多いとする説、この説であれば、紫外線の日焼けと同じで、ひどい時は皮膚がんの心配があるが、通常は皮がむけて回復するのと同じ。)を提唱している。
 今回はどういう発表かと期待していた。
 メスのマウスに20mGy/日(もしセシウムであれば、5日間で100mSvとなり、発がんに0.1%影響を与える線量率である。
 人間に比べて、マウスは身体が小さいから放射線の受けるダメージが大きく、それらを照射してその生存率を調べた実験であった。
 200〜300日で死亡するマウスが多くなり、非照射のマウスが400日くらいなのと比べて、寿命が短くなったと報告した。
 私は質問で、何の部位のがんで死亡したのか調べたかと聞いたが、調べていないようであった。
 おそらくいろんな部位のがんが発生したはずで、そのがんの発生の方が大事ではないかと思ったのである。

 2J04は「X線照射によるマウス脳中の酸化ストレス状態の変化特性に関する検討」というタイトルで、岡山大の柚木氏が発表した。
 広島・長崎の被爆者は脳卒中や心疾患が増えているというデータがある。
 これは酸化ストレス、おそらく活性酸素が関与している可能性を考えた。
 そこで、マウスの脳にガンマ線照射して、そこから発生する活性酸素の量と病気の関係を調べた。
 0.1、0.5、1.0、2.0Gyのガンマ線を照射した。
 これは人間では紅斑等火傷するレベルであるが、マウスの場合は致命的な量だと思う。
 これらのマウスの脳を調べて、活性酸素の量的な変化を調べた。
 あまり差異はなかったらしいが、ビタミンCを併用すると脳卒中の低下があったらしい。
 私は質問で、なぜビタミンCだったか、DNA修復に効果的とされる葉酸やビタミンE等は使わないのか聞いたが、はっきりした回答はなかった。

 2J05は「ラドンとトロンの吸入によるマウス諸臓器中の酸化ストレス緩和効果に関する比較検討」というタイトルで、岡山大学の小橋氏が発表した。
 この発表は三朝温泉でのラドンの効果というのを一連のシリーズで発表してきているものである。
 ラドンとその娘核種であるトロンをマウスに吸入させて、脳内の活性酸素の量を測定したらしい。
 ラドンとトロンの両方で活性酸素の減少が観察されたようであったが、どうも我田引水のように思えてしまった。
 ラドンは血管内に入るかと聞いたようには思うが、回答は忘れた。
 ガス成分であるから、おそらく入るであろう。

 2J06は「ラドン吸入によるマウス腎障害抑制効果に関する比較検討」というタイトルで、岡山大学の笹岡女史氏が発表した。
 腎障害にはシスプラチンという治療薬が必要らしいが、ラドン吸入によりその量を減らせる、とのことであった。

 2J07は「蛍光修飾オリゴヌクレオチドを用いた放射線損傷評価の開発」というタイトルで、福井大学の泉氏が発表した。
 DNA損傷を評価するためにDNAに近い成分を使って、放射線照射した時の切断状況を蛍光の有無を使って測定するという新しい手法の開発のようであった。
 聞き慣れない成分がいっぱい出てきて理解はしにくかったが、放射線での生物学的な影響を試験する有力な武器にはなりそうであった。
 2J08は「PCRを用いた放射線によるDNA損傷の定量評価に関する検討」というタイトルで、福井大学の松尾氏が発表した。
 これは前の発表と同類である。
 DNA損傷に基づく個人線量計の開発、との趣旨説明であった。
 炭素イオンやネオンイオンをDNA試験断片に照射してそのDNA量減少ができた、とのことであったが、損傷量が飽和するオーバーキル等の問題があるようであった。
 私は質問で、測定時間を聞いた気はするのだが、結果は忘れた。

 午後1番のセッションではL会場(原子力学会として社会への情報発信のあり方 広報情報委員会の活動)に行った。
 広報には学会で定めた規定があり、それ以上の活動はできない。
 会員に対する迅速なサービス、発信の際は理事会に確認を求める、個人発信の時は役職を書かない、等である。
 電中研の佐賀井女史は「マスメディアを通じた情報発信の現状と今後」というタイトルで講演した。
 社会から見ての学会はどうか、ニーズをとらえて発信しているか、異常事象解説チーム(チーム110と呼ぶ)の活動は、等を説明した。
 チーム110というのは警察の110番を模しているので、かすかに福島原発事故後にできたような記憶はあるが、それ以後の活動は聞かなかった。
 プレスリリース(PR)の現状について規定がない。
 これからPRは項目を限定してやっていくつもりである。
 HPの活用も大事である。

 JAEAの山本氏は「ポジションステートメントの現状と今後」というタイトルで講演した。
 このポジションステートメントは低線量放射線の健康影響や燃料デブリ等の解説で重要と思うのだが、学会内でもあまり認知度がない。
 今回山本氏はこの改革に乗り出したようである。
 見解・提言・宣言と解説とを分ける。
 前者は北朝鮮の核実験反対、もんじゅの活用等が主なものであった。
 後者は放射線、デブリ等の解説に分けてはっきりさせる。

 この後質疑応答になった。
 私は会長の会見(PR)の議事録作成(どんなマスコミが来ているか、何人来ているか、等新聞社の原子力における関心度合を図る目安になる。今までは作成していない。)、チーム110は他の部会のように活動報告を年1回するべきではないか、メディアトレーニングはメディアを教育するトレーニングと感心したら、対メディア向けの学会内の対応、という説明でがっかりした、甲状腺がん等は学会内だけでは解説できない問題で、日本学術会議等と連携してポジションステートメント作成はできないか、と言った。
 議事録は考えてもよいかもしれない、チーム110の活動報告はできるような活動をしていないので、はっきりした回答はなかった。
 メディアトレーニングは学会役員の対メディア対応訓練であるが、メディアの記者への原子力知識教育トレーニングは課題、ということだった。
 他の学会との連携では学協会連絡会で31学会の連携等があるので、それらを考えてみたい、とのことだった。

 午後の次はA会場(医療応用)に行った。

 2A10は「Heビームを用いた医療用Mo-99/Tc-99mの製造技術の基礎研究」というタイトルで、KEK(高エネ研)の萩原氏が発表した。
 原子炉の老朽化や原子力施設への規制強化等で放射性医薬品の安定供給が難しくなっている。
 この発表では放医研のサイクロトロンを使ってZr-96(α,n)Mo-99という反応で、ジルコニウムZrからモリブデンMoを作るということの基礎研究であった。
 この反応は余分な廃棄物が出ないことがメリットである。
 またMoとZrは化学分離できる。
 ただ欠点としてはZrは安定同位体が多く、Zr-96は濃縮しないといけない。

 2A11は「組織等価ガス比例計数管を用いた微小領域へのエネルギー付与計測法の検討」というタイトルで、九大の中村氏が発表した。
 生体内の微小領域へのエネルギーの与え方で健康影響等を評価するために、10μmというような微小領域模擬のためのガスを用意して、そこでの模擬ということで、この計算にモンテカルロ計算コードPHITSというのを使ったらしい。
 2A12は「加速器BNCT用熱外中性子スペクトロメータの応答関数に関する検討」というタイトルで、名大の須田氏(代理で渡辺氏)が発表した。
 BNCTというのは放射線でがん治療をする時によく出てくる機器で、患部にボロンB-10を薬剤で投与し、そこに中性子を当てると、B-10(n,α)Li-7の反応で、がんに対して大きな効果を発揮するアルファ線を当てる技術である。 
 通常は熱中性子という低速の中性子を使うが、今回のものはそれより少しエネルギーの高い熱外中性子を利用したものである。

 2A13は「中性子がん治療ビーム計測用リアルタイム薄型シリコンセンサーの特性評価」というタイトルで、防衛大の高田氏が発表した。
 がん治療の時の中性子を計測するということであり、これが必要なことがわかった。
 2A14は「ホウ素中性子捕捉療法におけるB-10濃度分布測定法の検討」というタイトルで、京大の神野氏が発表した。
 B-10を薬剤として投与するが、それが患部に集まったかどうかを判定する技術が難しかった。
 2A12で示したLi-7のガンマ線を利用するらしいということで、何か変な気がした。
 B-10が反応した後の残渣でB-10濃度を推測するという手法なのである。

 本当はこの後にA会場(中性子源・中性子輸送)にいようかと思ったが、タイトルを見るとアカデミックなもののようで、それだと議論についていけないと思い、ここで2日目を終了とした。

 3日目は朝K会場(放射線計測)に行った。

 3K01は「PVA-KIゲル線量計線量評価技術研究」というタイトルで、福井工大の柴岡氏が発表した。
 放射線によるがん治療の際の放射線の可視化を目指したものである。
 0.5〜100Gyまで可能な線量測定を目指している。
 50℃に7h維持すると再生するので繰り返し使用も可能であるが、2Gyくらいが極大となり、それより大きな値で減少する。
 またエネルギーとして490nm付近で極大となる。

 3K02は2A13は「上空からの放射線測定技術の高度化 (1)LaBr3(Ce)検出器を搭載した無人ヘリコプターによる土壌中放射性セシウムの分布推定を目的とした遠隔放射線測定」というタイトルで、JAEAの越智氏が発表した。
 空中から土壌中の深度分布を測ろうとするもので、まだ始まったばかりのようであった。
 放射性セシウムからの直接ガンマ線と散乱ガンマ線、土壌中の含水率と密度等が重要な因子である。
 私は土壌中の含水率や密度の測定で超音波等は考えないかと聞いたら、はっきりした回答はなかった。

 3K03は2A13は「Advancement of airborne radiation measurement technology (2) Simulations of unmanned helicopter and LaBr3(Ce) detector used for estimating radiocesium distribution in soil 」(上空からの放射線測定技術の高度化 (2)LaBr3(Ce)検出器を搭載した無人ヘリコプターによる土壌中放射性セシウムの分布評価のシミュレーション)というタイトルで、JAEAのMalins氏が発表した。
 モンテカルロ計算解析コードPHITSを使ってのシミュレーション結果の説明であった。
 この発表者は全部日本語で発表した。

 3K04は「模擬瓦礫海水浸漬液から抽出したウランの全反射蛍光X線分析」というタイトルで、QST(放医研とJAEA一部が統合してできた量研機構)の松山氏が発表した。
 トリチウム汚染水の放出が問題となっているが、原子炉周辺の海水汚染水に燃料のウランが混じっている可能性があり、それを検出する手法を開発した。
 ウラン―238はアルファ核種であり、検出には従来法では濃縮・乾固後にアルファ線測定で時間がかかる。
 そこで、蛍光X線分析でなおかつ従来と違う全反射型の分析で感度を良くし、スピードアップを図ろうとしたものである。
 ルビジウムRb(ナトリウム族)と臭素Br(塩素族)はウランのX線ピークと近いので、妨害元素となる。
 そこでレジン(合成樹脂)を使ってウラン抽出して測定して良い結果を得た、とのことである。
 私は質問で、この蛍光X線分析はストロンチウムSr(ベータ線核種でGe検出器で手軽に測れない。)を測れないか聞いたら、Srは半減期がウラン等と比べると小さいので必要ない、とのことだった。

 3K05は「緊急時を想定した汚染水中放射性ストロンチウム分析法の迅速化」というタイトルで、東京パワーテクノの寺澤氏が発表した。
 ストロンチウムSrはカルシウムCa族元素で、普通沈殿させて、沈殿物を液体シンチレーションカウンターで測定する手法が一般的である。
 この沈殿物分離の代わりに固相抽出ディスクを使うようであった。

 3K06は「広い観察面を有するペルチェ冷却式霧箱の開発」というタイトルで、(株)ラドの戸田氏が発表した。
 霧箱は普通ドライアイスで−30℃くらいに冷却して放射線を可視化というタイプが多い。
 ドライアイスの管理が大変である。
 今回の発表は、ペルチェ式で大きさ75o(見える範囲は20pくらい)と通常の霧箱10p直径くらいのものよりはるかに大きい。
 私はコストを聞いたら、15万円くらいと値段が高かった。
 教育現場では数千円くらいのものでないとなかなか使用しないのでは、と思った。

 3K07の「ラドン水の皮膚に及ぼす影響の基礎的検討」というタイトルで、岡山大学の石田氏が発表した。
 前日の三朝温泉のラドン水の続きの研究のようであった。
 身体の表面にある皮脂に着目して、これにラドン水を接触させて効果を測ったらしいが、顕著な差はなかったようであった。

 3K08は「インドネシア高自然放射線地域の放射線量の日変動」というタイトルで、電中研の佐々木氏が発表した。
 インドのケララ州の研究等があるが、今回はインドネシアの高自然放射線のあるマムジュ市で簡易型放射線測定機器のDシャトルを使って変動を測定した。
 5mSv/年以上の地域で日本の普通の場所2.4mSv/年の倍の線量の地域である。
 夜に線量増加があるが、ラドンとは考えにくい。
 家の内と外はスカスカであり、空気の滞留ではない。
 外部で1.8μSv/hのところもある。
 普通の場所で0.3〜0.8μSv/hで0.8μSv/hの場合だと7mSv/年で、日本の3倍の線量である。
 なぜインドネシアなのか、という問いでは、線量の高い地域は限られているし、インドネシアでは高い線量の地域だから、とのことであった。
 インドのように疫学的な研究はしないのか、と聞いたら、インドのケララ州の場合はがんセンターがあって、そこでデータをしっかり取っていたからできた(数万人の線量と発がんの関係を調査して、広島・長崎の場合と違う結果:高線量地域でもがんの発生は低いという結果が報告されている。) 
 でもインドネシアにはそういう施設はないから難しいとのことであった。

 3K09は「雷雲に伴う空間線量率の上昇事象」というタイトルで、東電の飯村氏が発表した。
 雷雲の接近に伴い、モニタリングポストの線量指示値が一時的に上昇した現象が見られた。
 これはモニタリングポストの経時変化で地域的なずれがあったので、雷雲が移動した時の雲の中の制動放射線が原因であろうと推定した。
 私は質問で、これは全電力に周知すべきことではないかと聞いた。
 今回の雷雲は低い位置にあったのでモニタリングポストの異常値を示したが、高い位置であれば問題ない、との回答であった。

 午後にはC会場(災害に備えるために必要となる原子力関係者の倫理)に行った。

 JAEAの伊藤氏は「JAEAの安全文化醸成活動その1 機構の取組について」というタイトルで講演した。
 職員3千人、請負4千人とのことであった。
 技術職と研究職がいて安全への取組をPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回して行っている。
 もんじゅ事故やJ-PARC事故が起こった。
 トップから現場まで安全意識の向上を図っている。

 続いて、JAEAの野村氏は「JAEAの安全文化醸成活動その2 大洗研究棟の事故を踏まえて」というタイトルで講演した。
 大洗の事故のメカニズム解明を行っている。
 複数の視点、得られた結果の水平展開等を行っている。
 おせっかい運動、JANSI(原安推)の60項目くらいのアンケートを活用している。
 これらの結果から、報告する文化が弱い、アイデアが途中で立ち消え、新聞報道の方が社内より早い、等の結果があった。
 研究機関の安全文化はどうあるべきなのか。

 これを踏まえて、JANSIの久郷氏が「研究機関の安全文化に関するコメント(その1)」というタイトルでコメントした。
 組織文化とリーダーシップはコインの表裏である。
 IAEAの福島レポートでは日本では事故が起きないと潜在意識の中で思い込んでいた、との指摘がある。
 システミックアプローチ(システマチックではない)が必要である。
 人、組織、技術の3つの相互作用が大事である。
 Sheinの提案をよく吟味することが必要である。

 続いて東大の飯本氏が「研究機関の安全文化に関するコメント(その2)」というタイトルでコメントした。
 東大も悩んでいる。
 障防法の改正、RI施設の管理者は何を思っているかわからない。
 炉規法に従う17施設でトップと現場のすり合わせが必要になる。
 戦略を作ったものの、実行者はどうか。
 正しい認識としてトップは関わるべきでなく、財務担当者が関わるべきか。

 私はJAEAでストレステストはやったか聞いてみたら、やっていないという。
 ストレステストはその施設の一番弱いところはどこか、次に弱いところというように、弱点ベストテンを挙げてそれを補う手段を検討する手法で、福島原発事故直後にヨーロッパで盛んに行われ、日本でも各原発で行われた。
 しかし、原子力規制委員会ができて、ストレステストはやらないと田中委員長が宣言して下火になった。
 あれと同じことを核燃施設とRI施設に対して行い、弱点の補強という世間から見てわかりやすい目安を各電力がどのくらい真面目にやったか一目瞭然でわかる手法を放棄した。
 私はストレステストを行った全原発の中で柏崎刈羽原発のストレステストが最も優れていると判断した。
 でも最近の原子力規制委員会の下で再稼働審査が行われているが、どこの原発が一番安全文化への取組が優れているかわからないようになっている。
 私は原発も核燃施設もRI施設もすべてストレステストを取り入れてその中で安全文化醸成をやるとよいと思う。 ただ、この考え方の一部はこの会場で言ったが、時間切れであったと思う。

 午後はこれで終了しようと思っていたが、岡山の兄の家の都合で夕方までの時間つぶしとして、K会場(ウラン鉱山)に行った。

 3K10は「人形峠地域における環境研究 (1)人形峠環境技術センターにおける環境研究」というタイトルで、JAEAの佐藤氏が発表した。
 JAEAの人形峠環境技術センターの閉山に向けた概要を説明した。
 ウランの分布・存在形態調査、地下水の広域流動、流砂解析、環境パラメータの研究、古代環境・古代地形変遷のモデル化等がテーマとして挙がっていた。
 3K11は「人形峠地域における環境研究 (2)岡山県北部人形峠周辺に分布する三朝層群の堆積環境と年代」というタイトルで、岡山大学の中井氏が発表した。
 ウランの地層の変移を追跡していた。
 河川から湖、湖から海に沈み、そこでウラン鉱床ができ、それがまた隆起したようであった。
 これらのことをボーリングコアという円柱状のサンプルを抜き出して調べたようであった。
 3K12は「人形峠地域における環境研究 (3)人形峠ウラン鉱物の安定性評価」というタイトルで、JAEAの鈴木氏が発表した。
 ウラン鉱物は一部地表に露出しているものもあり、また人形峠のリン灰ウラン石はどのようにしてできたか等の環境パラメータの収集が必要とのことだった。
 3K13は「風化花崗岩におけるラジウムの固定」というタイトルで、JAEAの栗原氏が発表した。
 ラジウムはウラン系列の元素である。
 このラジウムを固定して排水を流すことが求められている。
 ラジウムと化学的な性質が近いと思われるバリウムを使って固定の研究を目指しているらしかった。
 3K14は「人形峠ウラン鉱山跡地における抗水自然浄化機構の解明」というタイトルで、九大の川本氏が発表した。
 人形峠の水の浄化機構ではヒ素As、鉄Fe、ラジウムRa、ウランUの濃度減少が必要である。
 地上に近い場所では酸素が多く、その結果酸素環境で酸化雰囲気となり、沈殿物ができやすいようであった。 しかし、この機構は逆にアルカリ性雰囲気、還元雰囲気になると逆に毒性が出てくる可能性もある。
 3K15は「人形峠鉱山におけるMn酸化菌によるMn酸化物生成機構の解明」というタイトルで、九大の丘田女史が発表した。人形峠にはMn酸化菌が生息していて、これがpH5〜7で微生物が活性化して有害なMn等を固形化しているらしいことがわかった。

 以上で今回の原子力学会秋の大会の聴講は終了した。16:30であった。

 最初に掲げた各テーマについて、自分なりの収穫を整理してみる。

 第一には、福島事故関連の情報収集である。
 森林に関するものが若干あった。
 森林から土壌に移行して、そこで安定化するような機構と思う。
 菌類もセシウムと錯体を作って安定化するようである。ダムの底にはまだセシウムが若干滞留しているようである。
 セシウムボールはホットスポットとして危険であるが、海水で溶解速度が10倍となり、海に落下したものは問題なさそうである。

 トリチウム水は生体濃縮が心配であったが、どうもその心配はなさそうであり、このことは海洋放出にとってよい結果なのだが、風評被害が一番心配である。

 今回の特徴としては、放射線医学関係の発表が多かった。
 放射線を測定する線量計としてのDNA模擬体、また線量のダメージを測る成分としての働きとして、新しい展開が期待できる分野である。
 この分野で、放射線から防護できる食品、放射線損傷しても、DNA修復が迅速にできる栄養等がもっとはっきりわかるといいと思う。

 学会の情報発信に関してもまだもたもたしているが、辛うじて動き出したように思う。
 学会で防災のかかる取組として倫理関係セッションに期待したが、従来の枠の範囲内で収まってしまった感じが強い。

 この他ということで、JAEA人形峠環境技術センターの廃止という点でも多少の知識は得られたと思う。

 今後もこうした学会に極力参加して、福島関係の情報収集をしたいと思う。

 また、私の知的興味をくすぐる情報に出会うこともワクワク感があると、多少希望のある未来になるかも、という気もしている。
     −以上−

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