原子力学会の倫理研究会に参加
原子力学会の倫理研究会に参加した。(2/21)
この研究会に参加しようと思ったのは、良好事例の紹介、という一文にひかれたからである。
とにかく福島原発事故以降、原子力のここが悪い、あそこが悪い、と、とにかく悪いことの指摘のオンパレードで、こういうことばかりでは、原子力に従事している人の士気を下げるし、これからの若い人にもマイナスのイメージしか持たれない。
やはり、良好事例の掘り起こしを行って、少しでも明るい話題を探さないといけないのではないか、と思って参加した。
1月24日に原子力学会から上記の案内メールが届いたので、参加のメールを出した。
2月21日(火)は晴れていた。
場所は東大の本郷キャンパスなので、通常は東京メトロ丸の内線を使うのであるが、気分を変えて、千代田線根津駅の方から行った。
13時頃に受付で名前を言うと、3班なので、指定されたブロックの椅子に座ってください、とのことだった。全部で4班あり、約20名の参加である。
参加費は3,000円であり、テキストを渡された。テキストは「東日本大震災における原子力分野の事例に学ぶ技術者倫理」というもので、学会の倫理委員会が作ったようである。
班の編成が決まっていたようで、座っていると、私のいる3班の他の4人が順次到着した。
プログラムは末尾に添付する。
会が始まる前に私は隣の人と話した。原子力の業務に関わる中堅の人で後輩の育成等の役に立つかも、というのが参加の動機らしかった。
会の最初は副委員長があいさつのはずであったが、用事があったのか、大場恭子委員長があいさつした。
続いての検討の紹介も大場委員長が説明した。
学会の倫理規程が3年前に大幅に改訂された。
福島原発事故の影響で、行動指針も倫理規程も見直した。
これらのことは原子力学会のHPの下の方に添付されているから、ここでは詳細は述べないが、項目タイトルのみ挙げておく。
(1)行動原理(生活の向上と地球環境保全)
(2)公衆優先・持続性(公衆の安全最優先と継続取組)
(3)真実性原則(最新の知見と公正・公平の判断)
(4)誠実性原則(法令順守と説明責任)
(5)専門性原則(成果の社会発信)
(6)有能性原則(専門外分野との協調)
(7)組織文化の醸成
というもので、これを行動の手引きで具体化している。
次にケーススタディ1となった。
各班5人の自己紹介を簡単にし、それから、この議論の後の発表者を決めておくように要請された。
私は今組織に属していなくて割とフリーにモノが言える状況なので、私が発表する、というとみんなほっとした様子であった。
原子力の倫理テキストは、倫理規程の条文とケーススタディが6問あり、そのうちから2問を選んで議論するというものである。
ケーススタディ6問は以下の通りである。表題の具体例として、( )内のことを議論するらしい。
①非常時における意思決定(2号機炉注水の場合)
②非常時に向けた備え/基盤作り(5・6号機の冷温停止)
③非常時に備えた意識作り(福島第二原発冷温停止)
④自治体などとの連携(東海第二原発の津波対策)
⑤安全確保に対する姿勢(女川原発の津波対策)
⑥設備展開の重要性(東電免震重要棟設置)
①は良好事例とは言いにくいもので、東京の本店と現場の判断の食い違い(本店は炉注水優先、現場はベント優先)で、結果的には現場が正しかったが、その時の状況としては難しいものがある。
②の5,6号機は地震時定検中であったが、とにかく定検中の4号機も爆発したことで、5,6号も安全に冷温停止(炉水を100℃以下)しないといけないので、それを達成した。
③では、福島第二原発も4基すべて稼働中であり、地震で炉停止後の津波でやはり相当のダメージはあったものの、冷温停止へと導いた。
④では東海第二原発の事例で、津波対策で直前に茨城県からの要請を受け、津波対策工事を行っていたことから、ぎりぎり冷温停止できた。
⑤では、女川原発の良好事例で、津波を13.6mと評価し、14.8mの敷地高さとした。
これは1970年の女川原発建設当時では途方もない厳しいものであったが、当時副社長であった平井氏は強硬に主張して、大勢は過剰な設定としていたが、経営陣は平井氏の意見を採用したらしい。
以前から東北は津波の被害の経験が多かったので、おそらく経営陣もそうした背景を知っている人が多かったのではないかと推測する。
結果として、女川は地震による地盤沈下が1mあり、女川原発は13.8mの高さとなったが、かろうじて津波の被害を食い止めた。その後、住民の避難場所にもなった。
⑥は2007年に新潟中越沖地震が起きて、柏崎刈羽原発がこの地震による影響で緊急時対策室が機能せず、免震重要棟の重要さが指摘されて、それを福島にも備えた。この棟があったおかげで、その後の対策が行えた。
余談であるが、この福島第二原発、東海第二原発の冷温停止がもし成功していなかったら、被害は今評価されている福島原発事故の10倍以上のものとなったかもしれない。
女川も失敗していればどうなっていたかは想像の範囲を超えているのでやめておく。
ケーススタディ1では、②の5,6号機の冷温停止について議論の要請があった。
私は周りの人とこの周辺状況の雑談をしていたら、班の一人から検討のポイントについて話すように注意された。
検討のポイントは3点あり、正確な情報の伝達、適切な施策の決定、関係者の協力体制の確立であった。
雑談で時間を相当使ったので、第3のポイント、協力体制の確立に絞って議論した。
5,6号の雰囲気が割と話しやすい雰囲気であったようである。なぜ、というのはちょっとここでは伏せておく。
とにかく、私も以前習ったことがあるリーダーシップ研修でも、リーダーはいかに部下が話しやすい雰囲気を作るかが重要、といわれたことがある。
5,6号ではそういう雰囲気があったことが大きかったようである。
この検討の終了後に、大場委員長から第3班の発表を求められたので、私はこのことを説明した。
ケーススタディ2では⑤の女川の例について検討した。
当時の平井副社長がいかに権力があったとしても、少数意見であり、それを主張するのは勇気がいったであろう。
班の中の何人かは私だったらできない、周りの人の意見に従ったと思うと答えた。
日本人の空気を読む、ということからすると当然かもしれない。
でも平井副社長は主張してそれを採用させたのは何だったか。
2班の人が発表したが、やはりこの行動は取れなかっただろうというようなことを言ったと思う。
平井氏の主張は、倫理規程の真実性原則に照らしての主張と言えるが、コストや組織文化という観点からは、また余計なことを、と煙たがられるのが日本の社会である。
真実と思ったことでも、周りの目がその真実を認めようとしない時に孤独となってしまう。周りから浮いた状態といえばよいかもしれない。
考えさせられる事例であった。
この後、休憩時間に良好事例の見つけ方から、部下をどうやって褒めるか、等を隣の人と話した。
私は自分の子どもを褒めることの難しさをいい、欠点ならいくらでも見つけられるが、褒めることは自分が親からあまり褒められたことがないから、難しいと答えた。
隣の人は、部下は二十代の若い人が多いので、今日何分間人と話した、というような日常のちょっとしたことを褒めるようにすると若い人は話しやすくなる。
ちょっと怒ると委縮して話をしなくなる難しさがあるということを聞いた。
ディスカッションの時間もあって、今回参加の反省等を班内で話せ、と言われたように思う。
私は一般防災の一部として原子力防災がある、というようなことを話したように思うが、あまり反響はなかったと思う。周りから浮いてしまったかもしれない。
実はこの一般防災の中の原子力防災ということが隠れた目的であったのだが、空振りであった。
他の人はこの会に参加してよかった、というような感想だったと思う。
以上で、この研究会は終了した。
この研究会は、原子力学会教育委員会で進めているCPD(職能継続研修:Continuing Professional Development)プログラムの1つとして推奨されているようで、後日、実施証明書とCPD登録実績証明書がメールで送られてきた。
組織に所属していない私には無用のものであるが、いただけるものはいただいておくこととした。
今後もこうした研究会には積極的に参加して、最新の原子力情報や知見等を入手したいと思う。
<平成28年度 倫理研究会>
『東日本大震災における良好事例からの検討』
-原子力学会倫理委員会作成の事例集を用いたケーススタディ-
1.日時:2017年(平成29年)2月21日(火) 13:30-17:00(受付開始 13:10)
2.場所:東京大学本郷キャンパス工学部8号館 5階 502号室
3.参加費:一般3000円 学生1000円
4.プログラム:
13:30-13:35 開会挨拶 大場恭子(原子力学会・倫理委員会委員長)
13:35-14:20 倫理委員会での検討の紹介-倫理規程改定と良好事例の意義-
14:20-15:10 事例集から事例の紹介およびケーススタディ1
15:10-15:20 (休憩10分)
15:20-16:20 事例集から事例の紹介およびケーススタディ2
16:20-16:55 ディスカッション:良好事例によるケーススタディによって何が変わるのか
16:55-17:00 閉会挨拶 宇奈手一之(倫理委員会幹事)
-以上-
この研究会に参加しようと思ったのは、良好事例の紹介、という一文にひかれたからである。
とにかく福島原発事故以降、原子力のここが悪い、あそこが悪い、と、とにかく悪いことの指摘のオンパレードで、こういうことばかりでは、原子力に従事している人の士気を下げるし、これからの若い人にもマイナスのイメージしか持たれない。
やはり、良好事例の掘り起こしを行って、少しでも明るい話題を探さないといけないのではないか、と思って参加した。
1月24日に原子力学会から上記の案内メールが届いたので、参加のメールを出した。
2月21日(火)は晴れていた。
場所は東大の本郷キャンパスなので、通常は東京メトロ丸の内線を使うのであるが、気分を変えて、千代田線根津駅の方から行った。
13時頃に受付で名前を言うと、3班なので、指定されたブロックの椅子に座ってください、とのことだった。全部で4班あり、約20名の参加である。
参加費は3,000円であり、テキストを渡された。テキストは「東日本大震災における原子力分野の事例に学ぶ技術者倫理」というもので、学会の倫理委員会が作ったようである。
班の編成が決まっていたようで、座っていると、私のいる3班の他の4人が順次到着した。
プログラムは末尾に添付する。
会が始まる前に私は隣の人と話した。原子力の業務に関わる中堅の人で後輩の育成等の役に立つかも、というのが参加の動機らしかった。
会の最初は副委員長があいさつのはずであったが、用事があったのか、大場恭子委員長があいさつした。
続いての検討の紹介も大場委員長が説明した。
学会の倫理規程が3年前に大幅に改訂された。
福島原発事故の影響で、行動指針も倫理規程も見直した。
これらのことは原子力学会のHPの下の方に添付されているから、ここでは詳細は述べないが、項目タイトルのみ挙げておく。
(1)行動原理(生活の向上と地球環境保全)
(2)公衆優先・持続性(公衆の安全最優先と継続取組)
(3)真実性原則(最新の知見と公正・公平の判断)
(4)誠実性原則(法令順守と説明責任)
(5)専門性原則(成果の社会発信)
(6)有能性原則(専門外分野との協調)
(7)組織文化の醸成
というもので、これを行動の手引きで具体化している。
次にケーススタディ1となった。
各班5人の自己紹介を簡単にし、それから、この議論の後の発表者を決めておくように要請された。
私は今組織に属していなくて割とフリーにモノが言える状況なので、私が発表する、というとみんなほっとした様子であった。
原子力の倫理テキストは、倫理規程の条文とケーススタディが6問あり、そのうちから2問を選んで議論するというものである。
ケーススタディ6問は以下の通りである。表題の具体例として、( )内のことを議論するらしい。
①非常時における意思決定(2号機炉注水の場合)
②非常時に向けた備え/基盤作り(5・6号機の冷温停止)
③非常時に備えた意識作り(福島第二原発冷温停止)
④自治体などとの連携(東海第二原発の津波対策)
⑤安全確保に対する姿勢(女川原発の津波対策)
⑥設備展開の重要性(東電免震重要棟設置)
①は良好事例とは言いにくいもので、東京の本店と現場の判断の食い違い(本店は炉注水優先、現場はベント優先)で、結果的には現場が正しかったが、その時の状況としては難しいものがある。
②の5,6号機は地震時定検中であったが、とにかく定検中の4号機も爆発したことで、5,6号も安全に冷温停止(炉水を100℃以下)しないといけないので、それを達成した。
③では、福島第二原発も4基すべて稼働中であり、地震で炉停止後の津波でやはり相当のダメージはあったものの、冷温停止へと導いた。
④では東海第二原発の事例で、津波対策で直前に茨城県からの要請を受け、津波対策工事を行っていたことから、ぎりぎり冷温停止できた。
⑤では、女川原発の良好事例で、津波を13.6mと評価し、14.8mの敷地高さとした。
これは1970年の女川原発建設当時では途方もない厳しいものであったが、当時副社長であった平井氏は強硬に主張して、大勢は過剰な設定としていたが、経営陣は平井氏の意見を採用したらしい。
以前から東北は津波の被害の経験が多かったので、おそらく経営陣もそうした背景を知っている人が多かったのではないかと推測する。
結果として、女川は地震による地盤沈下が1mあり、女川原発は13.8mの高さとなったが、かろうじて津波の被害を食い止めた。その後、住民の避難場所にもなった。
⑥は2007年に新潟中越沖地震が起きて、柏崎刈羽原発がこの地震による影響で緊急時対策室が機能せず、免震重要棟の重要さが指摘されて、それを福島にも備えた。この棟があったおかげで、その後の対策が行えた。
余談であるが、この福島第二原発、東海第二原発の冷温停止がもし成功していなかったら、被害は今評価されている福島原発事故の10倍以上のものとなったかもしれない。
女川も失敗していればどうなっていたかは想像の範囲を超えているのでやめておく。
ケーススタディ1では、②の5,6号機の冷温停止について議論の要請があった。
私は周りの人とこの周辺状況の雑談をしていたら、班の一人から検討のポイントについて話すように注意された。
検討のポイントは3点あり、正確な情報の伝達、適切な施策の決定、関係者の協力体制の確立であった。
雑談で時間を相当使ったので、第3のポイント、協力体制の確立に絞って議論した。
5,6号の雰囲気が割と話しやすい雰囲気であったようである。なぜ、というのはちょっとここでは伏せておく。
とにかく、私も以前習ったことがあるリーダーシップ研修でも、リーダーはいかに部下が話しやすい雰囲気を作るかが重要、といわれたことがある。
5,6号ではそういう雰囲気があったことが大きかったようである。
この検討の終了後に、大場委員長から第3班の発表を求められたので、私はこのことを説明した。
ケーススタディ2では⑤の女川の例について検討した。
当時の平井副社長がいかに権力があったとしても、少数意見であり、それを主張するのは勇気がいったであろう。
班の中の何人かは私だったらできない、周りの人の意見に従ったと思うと答えた。
日本人の空気を読む、ということからすると当然かもしれない。
でも平井副社長は主張してそれを採用させたのは何だったか。
2班の人が発表したが、やはりこの行動は取れなかっただろうというようなことを言ったと思う。
平井氏の主張は、倫理規程の真実性原則に照らしての主張と言えるが、コストや組織文化という観点からは、また余計なことを、と煙たがられるのが日本の社会である。
真実と思ったことでも、周りの目がその真実を認めようとしない時に孤独となってしまう。周りから浮いた状態といえばよいかもしれない。
考えさせられる事例であった。
この後、休憩時間に良好事例の見つけ方から、部下をどうやって褒めるか、等を隣の人と話した。
私は自分の子どもを褒めることの難しさをいい、欠点ならいくらでも見つけられるが、褒めることは自分が親からあまり褒められたことがないから、難しいと答えた。
隣の人は、部下は二十代の若い人が多いので、今日何分間人と話した、というような日常のちょっとしたことを褒めるようにすると若い人は話しやすくなる。
ちょっと怒ると委縮して話をしなくなる難しさがあるということを聞いた。
ディスカッションの時間もあって、今回参加の反省等を班内で話せ、と言われたように思う。
私は一般防災の一部として原子力防災がある、というようなことを話したように思うが、あまり反響はなかったと思う。周りから浮いてしまったかもしれない。
実はこの一般防災の中の原子力防災ということが隠れた目的であったのだが、空振りであった。
他の人はこの会に参加してよかった、というような感想だったと思う。
以上で、この研究会は終了した。
この研究会は、原子力学会教育委員会で進めているCPD(職能継続研修:Continuing Professional Development)プログラムの1つとして推奨されているようで、後日、実施証明書とCPD登録実績証明書がメールで送られてきた。
組織に所属していない私には無用のものであるが、いただけるものはいただいておくこととした。
今後もこうした研究会には積極的に参加して、最新の原子力情報や知見等を入手したいと思う。
<平成28年度 倫理研究会>
『東日本大震災における良好事例からの検討』
-原子力学会倫理委員会作成の事例集を用いたケーススタディ-
1.日時:2017年(平成29年)2月21日(火) 13:30-17:00(受付開始 13:10)
2.場所:東京大学本郷キャンパス工学部8号館 5階 502号室
3.参加費:一般3000円 学生1000円
4.プログラム:
13:30-13:35 開会挨拶 大場恭子(原子力学会・倫理委員会委員長)
13:35-14:20 倫理委員会での検討の紹介-倫理規程改定と良好事例の意義-
14:20-15:10 事例集から事例の紹介およびケーススタディ1
15:10-15:20 (休憩10分)
15:20-16:20 事例集から事例の紹介およびケーススタディ2
16:20-16:55 ディスカッション:良好事例によるケーススタディによって何が変わるのか
16:55-17:00 閉会挨拶 宇奈手一之(倫理委員会幹事)
-以上-
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